岡田大河(川崎ブレイブサンダース)――唯一無二のバスケ人生を突き進み、いよいよB1の舞台へ

フランスLNBプロAでプレーする岡田大河の勇姿(©asmonaco_basket_amateur)
昨季までフランスのプロバスケットボールリーグLNBプロAのASモナコでU21チームに所属していた岡田大河の名前は、今やかなり知られているだろう。しかしその知名度は、これまでは一部のマニアックなファンに限られていたかもしれない。
バスケットボール界において稀有な経験と実績を築いている岡田の活躍はもっと広く知られるべきだろう。しかし、バスケットボールの最高峰とされるNBAを直接的に目指さず、バスケットボールの母国アメリカにこだわることなく、非常にユニークなバスケットボールの旅を歩んできたために、一般的なファンの視界には岡田の名前がNBAで活躍する日本人プレーヤーと同じように入ってきづらかったのだ。
だが昨秋以来、岡田の一人旅はそれまでと違う注目を集めるようになってきていた。ASモナコのトップチームで2024-25シーズンの公式戦ロスター入りを果たし、その後コートに立つ機会を得て初得点も記録したからだ。これらはいずれも日本人初。弱冠20歳で世界でもトップレベルの一つに数えられるフランスのプロリーグを舞台に成し遂げた快挙は、大いに称賛されるべきであると同時に、今後の更なる飛躍を強く感じさせた。
そしてこの10月10日、川崎ブレイブサンダースが、特別指定選手(プロ契約)として岡田を獲得することを発表した。世界でトップレベルと切磋琢磨を積んできた岡田の勇姿を、国内最高峰の舞台で楽しめることになったのだ。
ここでは、岡田がフランスでどんな旅路を歩んできたかを、本人のコメントを交えて紹介してみたい。
フランスの名門クラブならではの「バスケ漬け生活」
「基本的に平日に1試合、週末に1試合という感じです」。2004年5月23日生まれの岡田は、年齢に似合わぬ落ち着いた口調でフランスでの生活を語る。「平日は朝食後、大体8時頃に家を出て9時半頃から練習。自分は毎回一番早く練習に行くようにしています」。そこから個人練習と筋トレ、チームメイトとランチを楽しみながらの昼休憩を経て、午後はチーム練習。「平日は基本チームメイトとほぼ一緒にいるっていう感じですね」とのことで、言葉の壁に負けず多様性に富むヨーロッパの文化になじもうとしている様子だ。
中学卒業後からスペインのユースクラブでプレーしていた岡田は、英語とスペイン語にボディランゲージを交えて意思の疎通を図ることができる。「学校には通っていないので、語学面では勉強不足のところはあります。でも基本的に今は、もうほぼ1日中バスケっていう感じですね」。そんな言葉から、規則正しいバスケットボール中心の生活を送れていたことが推察できる。
ASモナコで岡田は、日本のバスケットボールファンにとって忘れられないフランス代表プレーヤーとチームメイトだった。昨夏のパリ2024オリンピックの日本対フランス戦、84-80で日本がリードした4Q残り10.2秒に、河村勇輝の頭越しに3Pショットをねじ込み、さらにフリースローを沈めて試合をオーバータイムに持ち込んだ、ガードのマシュー・ストラゼルだ。ストラゼルに全く触れていないように見えた河村に対するレフェリーのファウルコールは、「世紀の大誤審」と言われ世界中で話題となった。しかしそのジャッジ云々とは別に、26900人と発表された大勢の母国ファンが来場して見守る中、極限的なプレッシャーをはねのけてビッグショットとフリースローを冷静に決め切ったストラゼルのプレーには称賛の声が上がった。
パリ2024の日本対フランス戦4Q残り10.2秒、河村勇輝のディフェンスをかわして3Pショットを狙うマシュー・ストラゼル(©FIBA.Paris2024)
ユースチーム所属の岡田は練習でストラゼルと一緒に過ごすことは少なかったが、トップチームとの入れ替わりのタイミングで顔を合わせることはあった。やはりあの4Pプレーのことが気になり、質問したこともあるという。
「ストラゼル選手に『あのときどういうメンタルでプレーしていたんですか?』と内面的な部分をいろいろ聞かせてもらいました。あのときのフランスはチームとして出来が良くなくて、日本に圧倒されたと。彼自身も個人としていいプレーができなかったそうです。なんだか少し反省しているような話が先に立って『結果オーライだったよ』という感じのニュアンスでした」
ストラゼルのようなプロ中のプロを「チームメイト」と呼べる環境は、果てしなく大きな価値を持っていたに違いない。若き司令塔として、岡田は自らの言葉でストラゼルに質問し、答えを得、日本では吸収できない栄養を蓄えていたのだ。
さらなる飛躍を目指す2025-26シーズン
10月3日に開幕したB1の2025-26シーズンで、川崎は連敗スタート。今季飛躍が期待されているガードの米須玲音が右肩関節脱臼(全治未定)で離脱という不運な状況もある。弱冠21歳の岡田だが、国内のトッププロと比べてもそん色ない国際経験を持つ岡田は、ネノ・ギンズブルグHCとのコミュニケーションにもさほどの壁はないはず。即戦力としての貢献も求められそうだ。
昨季の岡田は、LNBプロA(フランスのトップリーグ)で2試合に出場し、日本人として初出場と初得点(フリースロー1本)という歴史を作った一方、ユースリーグ「LNBプロA U21エリート」では、スターティングガードを務めアシスト部門でリーグ5位となる平均6.5本を記録。チームを歴代最高となるリーグ2位の座に導いている。昨季のトップチーム入りは、バックコート陣にコンディション不良で空きができ、いきなりベンチ入りが決まった。「この若者はユースではなくトップチームで試すべき」——コーチングスタッフがそう認めなければ、起こりえなかった流れだ。
歴史を作ったLNBプロAでの初得点シーン(©asmonaco_basket_amateur)
ここまでの岡田は、唯一無二の道を選んで伸び伸びと旅路を続けてきている。終着駅はまだまだ先で、またどこなのかも決めているわけではない。それよりも目の前の戦いに集中している。
「舞台はいろいろあると思うんですけど、海外のトップリーグでプレーすることを自分の目標にしています。どこであれ、自分がいるところでしっかり結果を出していけば、現在のフランスだけでなくユーロリーグやNBAも見えてくると思うので、まずは自分がいるところで結果を出すことがすごく大事ですね。プレーヤーとしては、いろんな方に応援されるようになりたいという思いがあります。見てくれる人たちを魅了するプレーをできること。憧れている選手像はそういう形です」
誰も見たことがない景色を眺めながら、唯一無二の旅路を突き進む岡田。川崎のユニフォームを着て更なる成長を期するその背中を追いかけることで、川崎ブースターはもちろんのこと、それ以外の国内のバスケットボールファンもこれまでに見たことのない景色を見ることができるに違いない。
©asmonaco_basket_amateur
岡田大河(2004年5月23日静岡県出身)
地元の小中学校でバスケットボールに励む傍ら、父が運営する「SHIZUOKA GYMRATS」でも腕を磨く。15歳で単身スペインに留学し、プロリーグの下部組織で経験を積んだ後、2021年10月にはプロリーグ(EBA)で日本人最年少デビューを果たす。2023年にはFIBA U19ワールドカップに出場し、日本初のベスト8入りに貢献。同年よりASモナコU21に所属。 2025年にはASモナコのトップチームで日本人初のフランス1部リーグ(LNB Élite)デビューを飾り、初得点を記録。2025-26シーズンは川崎ブレイブサンダースに特別指定選手(プロ契約)として加入することが発表された。
文/柴田健
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