月刊バスケットボール11月号

3x3女子

2025.09.25

起こるか? “えちゃけーな”旋風——有明葵衣(ECHAKE-NA NOTO.EXE)が語る「3x3で社会を元気にする挑戦」

3x3.EXE PREMIER 2025 WOMENで注目の話題の一つに、ECHAKE-NA NOTO.EXEの新規参入と有明葵衣の現役復帰があった。ECHAKE-NA NOTO.EXEは、「かわいらしい」を意味する「えちゃけーな」という能登地方の方言と、半島の名称のコンビネーション。石川県輪島市を拠点として、3x3チームの活動を通じて関係人口の増加と地域活性化を促進することを目指し、2023年に指導したチームだ。ただ、2024年元日に発生した能登半島地震による被災を経て、現在のチームは当初の狙いだけでなく、「能登半島が忘れられないために」という強い思いを持って運営されている。


メンバーはキャプテンを務める池田智美、浅間美紀、上瀧葵怜々、橋田幸華、辰巳緒花、そして有明の6人。池田、浅間、橋田は地元石川県出身で、上瀧は富山県出身で金沢学院大卒、辰巳も福井県出身で金沢学院短大卒と直接的に地元とゆかりがある。また、池田は2011年から2018年までトヨタ紡織サンシャインラビッツで、有明は2009年から2015年まで富士通レッドウェーブでプレーした元Wリーガーだ。今季はこの中からラウンドごとに4人を登録して全8ラウンド、17試合を戦い、512敗、9チーム中8位という成績だった。

秋田県大曲市(現在は周辺自治体との合併により大仙市)出身で現在関東を拠点としている有明は、6人中の最年長で、石川県との深いかかわりを持つのは“えちゃけーなボーラー”としてこのチームに加わった今回が初めてと言ってよさそうだ。しかし、様々な意味でほかの5人が持っていないものを、有明は持っていた。







3x3の世界での実績もその一つ。2018年に立ち上がった3x3.EXE PREMIER WOMENで、有明は初代得点王の称号を手にするとともに、当時所属していたTOKYO DIME.EXEを初代チャンピオンの剤に導いている。5人制時代を含めた経験値、ベテランとしてのリーダーシップは、いう間でもなく若いチームメイトたちの成長に欠かせない。2021年から務めているWリーグの理事という立場から得られる、選手目線とは異なる角度からの洞察もそうだ。

そんな有明にチーム入りの誘いが届く。実は有明自身も、被災により今も日常を失ったままの人々が暮らしているのと後に、何らかの形で貢献できないかと思いを巡らしていたのだという。

「現役プレーヤーとしての活動は、2023年でいったん競技活動を中止していたんですけど、3月にHEROs(「HEROs Sportsmanship for the future」=日本財団が推進する、アスリートの力を社会課題解決につなげて輪を広げるプラットフォーム)の一環で能登の被災地に行ってバスケットボール教室を行うということで、参加させていただいたのがきっかけです」

有明には、かつて東日本大震災の被災地をバスケットボール教室の講師役で訪れた経験もあった。自分の力を生かして人々を元気にできるなら、ぜひともやりたい。

「能登の被災地の状況を見てその気持ちが強くなりました。バスケ教室に参加した子どもたちはほとんどが仮設住宅に住んでいて本当に大変な状況でした。でも、すごく楽しんで頑張ってくれて。バスケというツールで元気や笑顔を届けられるんだなというのを、改めて感じていた頃に、『能登のチームの1年目にこれまでの知見を還元してほしい』とお話をいただいて、加入を決めました。間接的にでも、被災者の皆さんに寄り添うことに通じるかなと思ったんです」

単に3x3のチームでやろうということだったら、おそらくやっていなかった。ECHAKE-NA NOTO.EXEだからこそ、自分の力が被災者の勇気に昇華する可能性があると感じられた。

「バスケで人を喜ばせるにはどうしたら良いですか?」

能登のバスケ教室での小学生の子からの質問。この言葉に寄り添いたい、自分が体現してみせてあげたい。この言葉が大きな原動力となっている。



「自分ならではの視点やノウハウで能登の力になりたい」

そうした思いを持って臨んだ今季、生まれたばかりのチームはまさしく「えちゃけーな」段階で、まだまだポテンシャルに達してはいない。「バスケが好きで集まってきたのに、ちょっと自信を持てていない」と有明の目には映る。

「キャプテンのイチ(池田)がチームをけん引していたんですけど、イチをサポートしつつ、戦術面はもちろん、メンタル面でもチームにアシストできたらなというところです。とてもいい子たちが集まっていて、一生懸命だし練習も頑張るんですけど、コート上で戦うには自分を持っていないといけません。自分自身を表現できるのも3x3のいいところですし、そうした部分で私から何かを伝えられたらなと思います」



若いチームメイトたちとは20歳の年齢差がある有明だが、“えちゃけーなボーラー”たちと接する中で、「年齢を言い訳にせず挑戦しています」と話していた。それはやはり、自分ならではの視点から3x3を見つめ、可能性を広げたいという思いがあるからだ。

冒頭で触れたECHAKE-NA NOTO.EXEの「地元の関係人口増加と地域活性化」というテーマに関連して、有明は3x3の競技特性こんな話を聞かせてくれた。

「例えば、5人のメンバーをそろえられないような社会的な状況があるとしても、3x3なら34人でプレーできます。それだけでなく、コートに立つと絶対にボールが回ってくるんですよ。5人制だとボールをもらって活躍する機会がないような子も出てしまいますが、3x3だと確実にボールを持って攻める機会がやってきます。そういう特徴を考えると、3x3は人口減の地域にとっても非常にいいんじゃないかと思うんですよね」

3x3でピック&ロールをやろうとすれば、ハンドラーとピッカー、スペーサーとコート上の3人全員に直接的な役割が必然的に生じる。また、運営的に考えれば、5人制のコートの半分のスペースで試合ができ、屋外でプレーする文化があるという点なども利点になるだろう。

同様の課題を抱える故郷秋田県で、有明は3x3イベントを直近4年間連続で開催して200人超えの集客を記録するなど、賑わいを生み出したノウハウも持っている。“えちゃけーなボーラー”たちと力を合わせて、能登ならではの3x3イベントを展開することも可能に違いない。

今季のレギュラーラウンドは全日程を終了した有明とECHAKEN NOTO.EXEだが、旋風が起こるのはこれから。期待しよう。





文/柴田健

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