堅実で誠実な川崎新加入ドゥシャン・リスティッチ「しっかりとアジャストしてお互いにプレーすることを学んでいきたい」

堅実なプレーが光る
セルビア代表ビッグマン
誠実、謙虚、堅実──川崎ブレイブサンダースの新加入ドゥシャン・リスティッチから、こんな印象を受けた。
セルビア出身、213cmの長身と柔らかなシュートタッチが魅力の29歳は、自国の代表チームではニコラ・ヨキッチのバックアップを務める。大学時代は、NCAAディビジョンⅠの名門アリゾナ大で4年間活躍し、卒業後はイタリア、スペイン、トルコなどを転々とし2024-25シーズンはフランスのエラン・シャロン・シュル・ソーヌに所属。平均12.9得点、6.6リバウンドを記録していた。
Bリーグには今季が初参入になるが、実は、リスティッチにはBリーグのクラブからかねてよりオファーが届いていたという。「日本のことをここ数年聞いていますし、3、4前からオファーをいただいていました。でも、そのときはまだ準備ができていなかったです。そこから日本のリーグがどれだけ上達しているのかを見てきて、どんどん良い選手が増えてきています。するとリーグのレベルも必然的に上がってきます。ほかのヨーロッパの選手たちからも、もっとリーグが成長していく、もっと良い選手が来るだろうと聞いています」

リスティッチにとって、Bリーグは全く見知らぬリーグというわけではなかったのだ。その中で、アリゾナ大でチームメイトだったケーレブ・ターズースキー(横浜ビー・コルセアーズ)やブランドン・アシュリー(アルティーリ千葉)、グラント・ジェレット(宇都宮ブレックス)と特に話をしたという。
彼らのほかにも「京都のアンジェロ・カロイアロや長崎のジェハイヴ・フロイド、アルバルクにいたレオナルド・メインデル。彼らとは全員一緒にプレーしたこともあるので、彼らからも『日本はすばらしい。バスケットボールだけじゃなくて、特に家族がいる場合はすごく良い国だ』と言われました。生活や文化、食べ物も良いと聞いて、日本に来ました」とリスティッチ。Bリーグの競技レベルが上がったことで、よりハイレベルな外国籍選手が増え、その選手が次の選手に日本を勧める。この好循環に加え、日本という国のホスピタリティの高さも相まって、リスティッチもBリーグ参入を決めたわけだ。
プレー面でも早速、川崎の軸となれるようなポテンシャルを感じさせた。8月31日に行われた三遠ネオフェニックスとのプレシーズンゲームで、リスティッチはベンチから登場して23分3秒プレー。チーム最多の16得点を記録した。彼のプレーは決して身体能力や高さに頼ったものではなく、柔らかなプッシュショットや3Pシュートでクレバーに得点を重ねるもの。そのプレースタイルは、どこかニック・ファジーカスに重なる部分を感じさせた。
試合は73-85で敗れたものの、随所に走る展開を見せ、ペイントアタックの意識やディフェンスの強度も一定レベル。昨季中地区王者かつ運動量豊富な三遠に食い下がるシーンも見られた。まだ新チームでの2試合目とあって、リスティッチは「今日の試合は僕らにとって良い試練だったと思います。(三遠は)フィジカルやタフネスの部分で、リーグ内でも屈指のチームと聞いています。良いテストでもあったと思うし、自分たちが今どの段階にいて、その(三遠の)レベルに到達するのに何が必要かをしっかり考えられると思っています。僕としてはプラスに考えているし、可能性は十分。良い選手もそろっていると思います。まだ開幕まで1か月近くあるので、しっかりとアジャストしてお互いにプレーすることを学んでいきたいです。もちろん、今は自分たちの行きたい場所までは遠いですが、しっかりと切磋琢磨していきたい」と、チームに確かな手応えを感じている様子だった。

日本人選手とのプレーについても「全員が頑張っているし、すごく良い性格。全員が成長したいと思っていて、日本人選手はすばらしい選手たちが多いので、すごく良いなと思います。みんなが上達しようと頑張っているので、そうなると自分もやりやすいです」と笑顔を見せた。
取材対応は約8分。淡白な回答になってもいいところでも、彼は非常に真摯に、思っていることをしっかりと言語化して伝えてくれている印象を受けた。オンコートの堅実なプレーとオフコートの誠実できめ細やかな対応から、彼のプロ意識の高さが感じられる。
ネノ・ギンズブルグHC体制1年目だった昨季は、ポテンシャルこそ感じさせたが、最後までチームがまとまらずにシーズンエンドを迎えた感があった。だが、今季はギンズブルグHCも日本のバスケや生活文化に慣れ、新加入の外国籍選手にも「日本ではその笛は鳴らない」といったアドバイスも送っているという。リスティッチもBリーグのコールにアジャストしている最中で、指揮官にもそうした経験がある今季は、昨季以上にスムーズに成熟させることができるはずだ。リスティッチと川崎の新シーズンを楽しみにしたい。

写真・文/堀内涼(月刊バスケットボール)