アルティーリ千葉がこの夏手掛けた「音楽の冒険」──Altiri Chiba Music Eventレポート

Altiri Chiba Music Eventのトリを務めたMUROは、「King Of Diggin'(レコード棚の奥底まで“掘って(dig)”あらゆる音源をそろえられる王者)」の異名で世界的知名度を誇るDJだ
タイトル通り、これは確かに冒険だったに違いない。
2025-26シーズンにB1デビューを果たすアルティーリ千葉が、開幕を約1か月後に控えた9月6日に千葉公園内にある「the RECORDS Diner」で開催したファンイベント「Altiri Chiba Music Event」は、バスケットボール・クラブによるものとは思えない方向性を持つ、独創的なものだった。
大塚裕土を始めとしたおなじみの選手たちは会場にはいない。1人も、写真さえもない。15時の開演から21時の終演まで、6人のDJがノンストップでノリノリの音楽を回し続けるのがメインのイベントだった。
取材の誘いを受けたとき、率直に、「はて、これはいったいどんなイベントなんだろう?」と現場の想像がつかなかったが、だからこそ行ってみることにした。当日、現場に到着すると、「バスケ」が直接的に誰にでも分かる要素は、限定数用意されたボール型のペーストリーと、場外の1区画離れた別スペースで行なわれたフリースローチャレンジだけ。確かにアルティーリ千葉のリニューアル版ロゴと、クラブカラーのブラックネイビーはすぐに目に飛び込んできたものの、「バスケの雰囲気」は皆無というのが率直な感想だ。しかし時が経つにつれ場内は、まるでホームゲーム中の千葉ポートアリーナの観客席のような熱気に包まれた。
いったいなぜ、こうしたイベントを企画するに至ったのか? この問いにクラブは明確な答えを持っていた。
「バスケットボールと音楽には、常に親和性を感じています。そしてゼロからクラブを共に作ってきたアルティーリ千葉に関わる多くの人にとって、『何かを生み出すこと』そのものが大きな喜びであり、きっとみんなに楽しんでもらえるだろうというインスピレーションから、この企画がスタートしました」

メインステージの4番目に登場したKIMGYM - KAZUFUMI KIMURA -
この日出演したのは、メインステージがDJ HICO、AGT、DJ KOCO AKA SHIMOKITA、KIMGYM - KAZUFUMI KIMURA -、MUROの5人(出演順)。そしてテラスの別ステージにYUKIHIRO ONODAが登場した(DJ HICOはテラスでもミックスを披露)。
来場者は、ブラックネイビーのシャツを着たA-xx(アルティーリ千葉ファンの愛称)が大半を占めていた。これはまあ、当然だ。しかし、音楽に合わせて体を揺らしている人たちを見渡すと、いろんな人がいた。小学生から還暦超えの方々まで、親子もカップルも単身と思しき人、赤ちゃんを抱っこしてニコニコしながら揺れているお母さんもいた。

2022-23シーズンまでアルティーリ千葉に在籍していた藤本巧太(現・鹿児島レブナイズ所属)の#9のシャツで来場していた女性とそのパートナー。「アルティーリ千葉には、B1で強さを見せてほしいです。藤本選手は鹿児島にも見に行っているんですよ!」と話すディープなA-xxだった
永作信行さんと伊瀬君の親子は、B2に昇格した2022-23シーズンからのA-xx。信行さんは「家でソウルとかファンクをよく聴いていて、息子に『たぶんそんなのが流れるよ』と誘ったら『行く!』となったので一緒に来ました」とのことだった。アルティーリ千葉のホームゲームにもたびたび一緒に出掛けているそうだ
A-xxだけではなく、昨季B2優勝を分け合った富山グラウジーズのブースターだという若者もいた。中川晃徳さんと名乗ったこの若者は、今春富山から千葉に引っ越したとのことで、10月18、19日に千葉ポートアリーナで行われるファイナルのリマッチにも行く予定。「ファイナルの続きをものすごく楽しみにしています!」と笑顔で話してくれた。
富山グラウジーズのブースターだという中川さん。「(アルティーリ千葉は)かっこいいからこそ倒したいみたいな、(応援の)スイッチが入るチーム」と素直なライバル心を笑顔で話してくれた。B1での対決も大いに楽しんでくれることを願う!
ニュージーランドから旅行で来ているグループもいた。その中の1人、ケイバンさん(Kayvan)という男性に話を聞いてみると、「お気に入りのDJ KOCOが出演することを聞きつけてこのイベントにきてみたんだよ!」ということだった。「バスケチームのイベントなんだってね! 僕はバスケが大好きなので、『皆が着ているTシャツを売ってないんですか?』と聞いたんだけど、売り出すのはシーズンが始まる頃みたいなので、絶対また千葉に帰ってきて買わなきゃと思っているんだよ」
DJ KOCO AKA SHIMOKITAのステージ(写真中央右、白いTシャツに黒いキャップ、あごひげの男性がケイバンさん/©月刊バスケットボール)
DJ KOCOのミックスは、視覚的にも、まるで彫刻家が作品に向かう姿にも通じる研ぎ澄まされた集中力と、来場者とともにその瞬間を楽しむ姿勢が伝わるものだった
最後に日本語で「ありがとうございました!」と挨拶してくれたケイバンさんのように、DJを追いかけて来場した人は少なくなかったようだ。DJからDJへ、トラックからトラックへ。ターンテーブルとビニール(レコードのこと)に向かうアーティストが一瞬一瞬をつなぎ、ワクワクに満ちた選曲にトリッキーなスクラッチで絶妙なアクセントを加えるたびに、踊っている来場者が笑顔になり、歓声が湧き起こる。その様子から、DJそれぞれのフォロワーが集まっていることがよく分かった。
目くるめく6時間ぶっ通しのミックス。「回せ」「擦れ」「揺れようぜ!」という、テレパシーのようなコミュニケーションが、DJと来場者の間で飛び交っているのが感じられ、いつしか双方の間に一体感が生まれていた。
19時にトリを務めるMUROが登場し、オープニングでファンクの大御所アイズレー・ブラザーズの名曲「Work to do」を回し始めた頃にはすでに夕暮れ。しかし、「the RECORDS Diner」は、熱戦の4Qに突入した千葉ポートアリーナのような盛り上がりだ。暗がりに来場者たちのシルエットが揺れ、子どもたちもまだまだ元気。保護者と手をつないだり、抱き上げてもらったりしてはしゃいでいる。
クライマックスへと来場者をいざなうMUROのパフォーマンスは、さながらクロスゲームの第4Qのような熱気を生み出した
富山ブースターの中川さんの姿は、この時間帯には暗くて見つけられなかった。しかし先般の会話で、「こういうイベントも他にないんじゃないでしょうか。めっちゃおしゃれ!」とご機嫌な様子だったし、きっとライバル心も感じながら、その場を楽しんでいたことだろう。
「Give me the night(ジョージ・ベンソン)」「Off the wall(マイケル・ジャクソン)」「Razzmatazz(クインシー・ジョーンズ&パティ・オースティン)」...保護者世代が憧れたであろう、またさらにその上の世代の来場者には青春を謳歌した頃の気持ちを思い出させるような、R&Bのクラシックが続く。お子さん方にも、その場の大人たちの言葉でトラックの良さや楽しみ方が伝わるといいなぁ。
♪If you feel your life's in a rut, just come on out tonight and we'll pull you up♪
♪生活がマンネリ化してるなんて感じているなら、今夜は私たちと出かけようよ♪...そんなふうに呼びかけるパティ・オースティンの歌声が暗がりに響き、人々の心をさらに解放していく。
♪We can make it better with a little bit of Razzmatazz...♪
♪ちょっとした思い切りで、物事はうまく転がって行くものさ♪
場内は第4Qのオフィシャルタイムアウトも過ぎた頃の盛り上がり。そしてアルティーリ千葉の「音楽の冒険」はクライマックスを迎えたのであった。
※英語部分はクインシー・ジョーンズの大ヒットアルバム「Dude(1981年)」に収録されたロッド・テンパートンによる「Razzmatazz」の歌詞より引用(意訳は著者)
文/柴田健
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