月刊バスケットボール10月号

大学

2025.08.22

【WUBS2025】日体大、日本学生選抜が体得した「国際舞台に必要な決意と自信」

日本学生選抜、日体大、そして海外の6大学が参加し、国立競技場代々木第二体育館で89日から3日間開催されたWUBS2025World University Basketball Series2025=4回ワールド・ユニバーシティ・バスケットボール・シリーズ)は、高麗大(韓国)とデ・ラサール大(フィリピン)のスリリングな熱戦で幕を閉じた。優勝はこの一戦に95-85で勝利した高麗大。準優勝のデ・ラサール大に続く3位に日体大、4位に日本学生選抜が入り、5位以下は国立政治大(NCCU=チャイニーズ・タイペイ)、シドニー大(オーストラリア)、そして7位にフィリピン大(フィリピン)と香港大(HKU=香港)の順となった。


日本勢の2チームがそろって上位でフィニッシュできたことは、それ自体が日本の大学バスケットボール界にとっての収穫かもしれない。しかし今大会はそれ以上に意義深い様々な学びのきっかけを提供していた。そのいくつかをWUBS2025の総括として振り返ってみたい。

小柄なチームの戦い方を示した日体大

WUBS2025での日体大は、Day1にシドニー大との接戦を65-64でモノにした後、翌日高麗大に54-68で敗れたものの、最終日に日本学生選抜に対して86-72で走り勝って3位の座に就いた。平均身長184.3cmのロスターで臨んだ日体大が、同190.0cmのシドニー大(日体大との差は6.7cm)、191.2cm(同6.9cm)の高麗大、188.1cm(同3.8cm)の日本学生選抜といずれも自分たちよりも大きな相手と戦い2勝を挙げたことは注目に値するだろう。


高麗大戦でリムに向かう日体大の月岡煕(©WUBS2025)

実は、この身長差は各チームの最長身の2名を除くと、より顕著になるのだ。

日体大のコネ ボウゴウジィ ディット ハメード(207cm)とサー シェッハ(200cm)を除いた平均身長は180.4cm。同じように対戦相手から最長身の2名を除外してみると、シドニー大は188.3cm(日体大との差は7.9cm)、高麗大は189.4cm(同9.0cm)、日本学生選抜は186cm(同5.6cm)ある。高麗大はこの計算だと、日体大よりも約5%大きい。

非常に単純な見方をすれば、日体大は持ち味とする平面的なバスケットボールで高麗大との6.9cm差を克服し切れなかったが、シドニー大との6.7cm差までは克服できたということになる。また、高麗大戦の失点を68に抑えたことを見れば、6.9cmの差に対してもディフェンス面では非常に良い戦いができた。

日体大は平面的な展開で「どこにもに負けない」運動量があり、高さの点では成長著しいコネが確固たる柱としてきっちり仕事をしていた。3試合ともチームとしてリバウンドで相手を上回り、中でもコネは3試合で52本をむしり取ってガードとウイング陣にオフェンスの機会を渡していたのだ。

ただし大会を通じて3P成功率が上がらず苦戦を強いられた。1点差でしのいだシドニー大戦は27本のアテンプトで成功が6本のみの22.2%。得点が54にとどまった高麗大戦は20本中2本の10.0%と低調だった。仮に高麗大に対して同じアテンプト数で成功率を35%まで上げられていれば、ターンオーバーが19と本来のプレーメイクができなかった中でも14点差を打ち消すことができていたことになる。

高麗大が、見る限り日体大相手に得意のゾーンディフェンスを敷かなかった点は考慮すべきだろう。それでも、200cm台のコネとサー シェッハを除くと190cm台が一人もいない小柄な日体大が、疲れ知らずの運動量とリバウンド力を確立できるビッグマン1枚の存在で様々な可能性を追いかけられたことには目を向けるべきではないだろうか。それは日体大だけでなく、一般的に小柄な日本が世界と戦うときのヒントになるだろう。

若き日本学生選抜が味わった悔しさ

日本学生選抜の3試合には、また別の意味合いで大きな価値がある。勝利を手にしたのはDay1HKU戦(98-31)だけ。しかし、ディフェンディング・チャンピオンのデ・ラサール大に対し食い下がったDay2の準決勝は、75-88で敗れたものの終盤まで射程距離にとらえ、何とかして勝利をという気持ちが見る者に伝わる善戦。最終日の日体大戦も前半は47-40とリードして折り返した。


最終日の日体大vs日本学生選抜より、サー シェッハをうまくボックスアウトしてリバウンドを奪う佐藤友(©月刊バスケットボール)





大学12年生世代のみで12人中10人が1年生の混成チームを、3日間の短期合宿でまとめて臨んだWUBS2025。初戦の勝利はもちろんだが、しっかりチームのアイデンティティーが確立された百戦錬磨の相手に喫した2敗からの学びと刺激は、選ばれたプレーヤーたちにとってかけがえのいない財産だ。

デ・ラサール大戦では、スターティングガードの菅野陸(山梨学院大1年)が、マッチアップした相手のキーン・バクラーンとの11でフィジカルなアタックに苦しめられた。菅野は直前合宿で「最終日に決勝までいけるように頑張りたいです」と話していただけに、出場時間が835秒にとどまったこの試合こそチームを勝利に導きたかったに違いない。児玉ジュニア(日本経済大1年)はこの一戦で、ロスター中唯一出場機会を得られずに終わった。翌日の日体大戦では5得点、3リバウンド、1アシストに2スティールと存在感を示したが、試合後、前日プレーできなかったことについて聞くとやはり「ものすごく悔しかったです」と素直に思いを語った。

しかし、この苦い思いこそ財産ではないだろうか。菅野と児玉だけでなく日本学生選抜の全員が、自分たちの特徴、あるいは日本の男子バスケットボールの強みと弱みを再確認し、デ・ラサール大のようなアメリカナイズされたしぶとく力強い大きな相手に勝つために足りないものを体得したはずだ。キャプテンを務めた佐藤友(東海大2年)は、189cmというフォワードとしては小柄なサイズながら、デ・ラサール大戦では11得点に12リバウンドのダブルダブルを記録した。自分より5cm、あるいは10cm大きな相手とペイントで勝負する術があることを、佐藤の活躍は立派に示している。

WUBS2025の全日程を終えた後、日本学生選抜を率いた西尾吉弘HC(大東文化大)は、プレーヤーたちが得た学びについてこんなことを話してくれた。

「デ・ラサール大もNCCUもそうですが、絶対に負けないぞという気持ちを表現してきます。(11の勝負では)1度コンタクトしてセパレーションを作れたら、もう1度そこにアタックしてくる。そういったところなどは見習わなければいけません。デ・ラサール大と対戦した経験から得られた感覚を理解した上で、「やり続ける」とか、「最初からインテンシティー高くプレーする」ということを日ごろの習慣としてほしい。この経験をした彼らには、もしもそれをやっていなければコーチとしても求めていきたいです」

世界の若者たちの勝利に対する決意と自信

西尾HCが語ってくれた海外のプレーヤーたちの「絶対に負けないぞという気持ち」を、観客席で感じたファンも多かったのではないだろうか。

優勝した高麗大のポイントガード、ムン ヨヒョンは、デ・ラサール大との決勝で、華麗なクロスオーバードリブルの連続でディフェンダーを揺さぶった後、それでもしぶとく食らいついてくる相手をあざ笑うかのようにジャンプショットを沈めて見せた。わずかなズレ、一瞬のオープンルックを自ら作り出し、逃さず決めたそんな場面は、1度ではなく2度あった。相手のディフェンダーも懸命に立ちふさがっていた。

「俺は絶対にこの勝負をモノにする」「俺は絶対にこの相手を止めて見せる」——海も国籍を超えて、代々木第二でそんな決意がぶつかり合い、ムンのショットがネットを揺らした瞬間、割れんばかりの大喝采が沸き起こっていた。


決勝戦でデ・ラサール大のマイク・フィリップスをかわしてレイアップに向かう高麗大のムン ヨヒョン(©月刊バスケットボール)

高麗大はフロントラインの力強さも目を引いた。ムンが不在だった国内リーグ(Uリーグ)前半戦でチーム最大の得点源となっていた198cmのリ ドンジン、センターで200cmあるユ ミンスらが、デ・ラサール大のフィジカルなディフェンス越しに豪快な「ポスター・ダンク」をぶち込むシーンは迫力満点。「誰が来ても吹き飛ばしてやる!」という気迫が宿っていた。


フィリップスの上からダンクをぶち込むリ ドンジン(©WUBS2025)

デ・ラサール大は、だからと言ってこうべを垂れるような場面は一瞬たりともなかった。日本学生選抜との対戦で活躍した司令塔のバクラーンは、178cmと小柄ながら、高麗大との決勝でもビッグマンが待ち受けるペイントに幾度となく勇敢なアタックを試みた。目の前に立ちはだかる相手が自分より20cm大きくても、その決意と自信が揺らぐ様子はない。「俺はこの勝負に勝つ!」——自らビッグマンに体をぶつけてゴールラインをこじ開け、ディフェンダーの腕が自らの腕に絡みついた状態で、しっかりファウルをもらいながらタフ・レイアップを沈めたシーンは、これも1度ではなかった。


キーン・バクラーンの力強いドライブ。この状態からファウルをもらって3Pプレーを成功させた(©月刊バスケットボール)

この決勝で30得点、12リバウンド、6アシストにスティールとブロック1本ずつを記録したデ・ラサール大のフォワード、マイク・フィリップスは、応援団の「ゴー、ラサール!」の大合唱に背中を押されて幾度となくリバウンドに食らいついた。1度で取れなければ2度、それでもだめなら3度、4度とフィリップスの大きな体が宙に舞う。試合後、「ファンの大声援に感激して、ものすごく体が動きました」と連覇を逃した悔しさを隠して話したフィリップス。その言葉にもプレーぶりにも、「皆が俺に期待してくれている。その人たちに残念な思いをさせるようなことを、絶対に俺はしない」という決意があふれていた。


3人のディフェンダーに囲まれながら得点機をうかがうフィリップスだが、ここからレイアップに持ち込み、こぼれたボールを自らティップインしてみせた(©月刊バスケットボール)

WUBSにしても、ワールドカップ、オリンピックという最高峰の舞台であっても、日本はそんな決意を結果につなげようとハングリーに挑んでくるプレーヤーを相手に戦う。テクニックや身体的な強さだけでは足りない。ちょっとやそっとシュートや駆け引きがうまいというだけではだめだ。小柄なことは何の言い訳にもならない。それを強みにできるようなユニークな特徴を個としてもチームとしても身に付けて、崇高な決意と果てしない自信を胸に、道をこじ開けていく姿勢と力が必要だ。

WUBS2025はそれを教えてくれたのではないだろうか。





文/柴田健

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