第3回全日本大学新人戦が7月5日から13日にかけて、国立代々木競技場第二体育館ほかで開催された。男子は九州勢として初めて日本経済大が日本一になり、女子は主力の数名を代表活動で欠きながらも東京医療保健大が初優勝を飾った。
【男子】昨冬の悔しさを忘れなかった日本経済大が九州から日本一へ
関東勢の強さが際立つ大学男子バスケ界において、九州から下剋上を目指す日本経済大が見事、頂点まで駆け上がった。グループステージから決勝まで全5試合を戦い抜き、準々決勝では優勝候補の一角だった関東1位の東海大を79-74で撃破。続く準決勝では京都産大を94-68で圧倒し、決勝では白鷗大を76-70で振り切った。
「九州から日本一、というのが目標としてずっとありました。今大会、選手たちもそういう思いを持って戦えたと思います」
試合後、日本経済大の片桐章光監督は感慨深けにそう語った。
1976年のモントリオール・オリンピックに出場した元女子日本代表の林田和代さん(旧姓)を母親に持つ片桐監督。福岡第一高、仙台大を経て一度は会社員となったが、「やはりバスケットボールに携わりたい」という情熱を抱き、2006年から第一経済大(現・日本経済大)でコーチングキャリアをスタートさせた。
なかなか勝てずにインカレ出場を逃す時期もあったが、2021年に福岡第一高からキエキエトピー・アリ(横浜エクセレンス)が加入したことで転機を迎え、その年に4年ぶりのインカレ出場を果たしてから4年連続で出場を果たしてきた。
しかし、アリが最終学年となった昨年のインカレでは、2回戦で日本大に8点差の惜敗。その日本大が後に優勝したことを考えても高い実力があったことは確かだが、いわば“勝負の年”に早々と敗退となる苦い悔しさを味わった。
ただ、振り返ってみれば、その悔しさが今回の飛躍につながっていた。特に当時1年生ながら全体チームでも主力だった大庭涼太郎と児玉ジュニアにとって、あの敗戦は大きな糧となった。片桐監督は言う。
「去年のインカレで日大に負けたとき、『この悔しさを忘れるな』と選手たちには言いました。当時1年生だった(児玉)ジュニアはスティールからブレイクでレイアップを落としたし、(大庭)涼太郎は大事なところでフリースローを2本落とした。その経験があって、やっぱりあの悔しさを持って常に練習していたのかなと。それが今に、結果としてつながったと思います」
悔しさをよく知る大庭と児玉を中心に、是久春道や淺田竜輝、柳ヶ浦高から入学した1年生のボディアン・ ブーバカー・ベノイットらが一丸となって戦ったのが、今大会の日本経済大だった。大会中、“勢い”というより非常に安定感ある強さが光ったが、大庭は「東海を倒したあたりから、自分たちは自信がすごく出てきました。油断はできなかったんですが、特に同期の(児玉)ジュニアと(浅田)竜輝と是久がいる限りは、どこにも負けないという気持ちだったんです。みんなのことを信頼できたことが、苦しい時間帯を乗り越える力になったのかなと思います」と語る。

経験豊富な日本経済大の大庭。勝負どころでしっかりと仕事を果たした また、飛躍の大きなカギとなったのが、前から仕掛けるプレッシャーディフェンスだ。片桐監督は「(3年前に)西日本で初めて優勝した頃から、ディフェンスの意識が高まってきた」と言い、特に今大会は「東海大など、相手は高さがあるので僕らは平面でやるしかない。4月に関東遠征をして白鷗大にボコボコにされ、その強度を忘れないようにしながらディフェンスを練習してきました」とその意識の高さを説明する。
日本経済大は福岡第一高と同じ学校法人都築学園グループで、男子部の片桐監督も先述のように高校時代は同校で井手口孝コーチの教えを受けている。どこか"福岡第一イズム”を感じさせる激しいディフェンスが、今大会の揺るぎない強さを支えていたのだ。
選手間の強固な信頼関係とディフェンスへの徹底したこだわりが、九州勢初の日本一という快挙につながった。片桐監督は「あくまで1、2年生大会ですし、選手たちが、ここからどう変わっていくかが大事です。ここで天狗になるのか、謙虚に次のインカレに向けて精進するのか。そのあたりは選手たちとしっかり話したい」と気を引き締め、全体チームで再びの日本一を目指す決意を語っていた。

【第3回全日本大学新人戦 大会結果】
最終順位(上位4チーム)
優勝 日本経済大
準優勝 白鷗大
第3位 明治大
第4位 京都産大
個人賞
最優秀選手賞 児玉 ジュニア(日本経済大) 2年
敢闘賞 ロイ 優太郎(白鷗大) 2年
優秀選手賞 是久 春道(日本経済大) 2年
優秀選手賞 ボディアン・ ブーバカー・ベノイット(日本経済大) 1年
優秀選手賞 南澤 空(白鷗大) 2年
優秀選手賞 石川 晃希(明治大) 2年
優秀選手賞 太田 凜(京都産大) 2年
得点王 ソロモン レイモンド(京都産大) 1年 51得点
3ポイント王 湧川 裕斗(明治大) 1年 10本
リバウンド王 ロイ 優太郎(白鷗大) 2年 OF9 DF27 TOT36
リバウンド王 ソロモン レイモンド(京都産大) 1年 OF14 DF22 TOT36
アシスト王 淺田 竜輝(日本経済大) 2年 13本
MIP賞 湧川 裕斗(明治大) 1年

今大会は得点のみならずアシストでもチームに貢献した日本経済大の淺田
白鷗大のキャプテン南澤は「(ジョーンズカップで)網野さんがいない中でも、やるべきことは変わらないと思っていました。すごく悔しいですが、やり切れたことは良かったです」

京都産大のレイモンドとともにリバウンド王となった白鷗大のロイ。敢闘賞を受賞した
【女子】東京医療保健大、メンタル改革でつかんだ初の栄冠
女子は、東京医療保健大が初優勝を飾った。創部からチームを築き上げた恩塚亨監督が、女子日本代表ヘッドコーチの立場からチームに戻ってきて、新人インカレではプレ大会を含めてもうれしい初の栄冠となった。
関東新人戦を圧倒的な強さで制した東京医療保健大だが、今大会はU19日本代表や女子ユニバーシアード日本代表の活動で、主力の絈野夏海や後藤音羽らを欠いての戦いとなった。絈野は関東新人で最優秀選手賞とアシスト王、後藤は同大会でベスト8賞に輝いたチームの柱。恩塚監督は「誰々がいないからとか、言い訳しようと思えばできる。でもそうではなくて、言い訳せず最高に成長して勝つぞと、決めて臨んだ大会でした」と言う。
ただ、関東新人戦のときにはあまり試合に出ていなかった選手も多く、大会前はなかなかチームに「自信が見えなかった」と恩塚監督。「バスケット3割、メンタルトレーニング7割のような感じで、あの手この手でメンタルコーチのようにアプローチしていました」と、大会に向けた準備の過程を明かす。
そのメンタルトレーニングとして、大きな効果があったのは「自分の心の真ん中に旗を立てよう」という声かけだ。これは、野球の大谷翔平も学んだという哲学者・中村天風の書から、恩塚監督が感銘を受けて取り入れたもの。
「今までは選手たちに『なりたい自分になろう』という話をよくしていたのですが、それってちょっと漠然としていて…。でも『朝起きた瞬間から、自分の中で旗を立てよう』という話をしたら、劇的に行動や姿勢が変わったんです。旗を立てて体育館に来る。旗を立てて人と会ったときに挨拶する。起きた瞬間からそういう自分で生きていく、と決めることは選手たちも取り入れやすかったみたいで、僕の中ですごくヒットだった気がしています」
このメンタルの変化が、コート上でのプレーにも表れた。「準決勝くらいからすごく感じたのは、自分たちが良いエネルギーでできずにうまくいかないときにも、戻ってこれるようになったこと。ヘッドダウンするのではなく、ちゃんと『もっとこうすれば良かったな』を次のプレーで表現できるようになりました」と選手たちの成長を語る恩塚監督。準決勝では愛知学泉大を98-72で、決勝では勢いのある立教大を98-53で圧倒し、見事頂点に立った。

新人チームなだけに、優勝してなお課題は「挙げだしたらきりがない。特にルーズボール、球際が甘い」と恩塚監督。ただ、「正しい努力をすることで自分は成長できる、という実感を得られたことは、すごく価値があると思います」と大会を通して得た収穫は大きい。
今季、東京医療保健大は「5冠(トーナメント、新人戦、リーグ戦、インカレ、皇后杯)」という高い目標を目指して戦っている。1年生ながら最優秀選手賞を受賞したロー・ジョバは試合後、「(大会には欠場した)代表の人たちが相手役として練習に入ってくれたり、できていないところを教えてくれたりして、練習の方が試合よりも大変でした。でもだから優勝できたと思うので、感謝したいです。リーグ戦でも、自信を持って集中してやり切りたいです」とコメント。今大会をきっかけに下級生が得た自信が、全体チームの底上げにつながることは間違いない。秋以降のさらなる飛躍に、期待が高まる。

【第3回全日本大学新人戦 大会結果】
最終順位(上位4チーム)
優勝 東京医療保健大
準優勝 立教大
第3位 拓殖大
第4位 愛知学泉大
個人賞
最優秀選手賞 ロー・ジョバ(東京医療保健大) 1年
敢闘賞 阿部 友愛(立教大) 1年
優秀選手賞 ジュフ・ハディジャトゥ(東京医療保健大) 2年
優秀選手賞 戸塚 妃莉(東京医療保健大) 1年
優秀選手賞 渡部 怜梨(立教大) 1年
優秀選手賞 ンドイ・ウム(拓殖大) 2年
優秀選手賞 片岸 風花(愛知学泉大) 2年
得点王 ロー・ジョバ(東京医療保健大) 1年 68得点
3ポイント王 太田 蒼(愛知学泉大) 1年 7本
3ポイント王 片岸 風花(愛知学泉大) 2年 7本
リバウンド王 ンドイ・ウム(拓殖大) 2年 OF18 DF25 TO 43
アシスト王 大柴 沙和(立教大) 1年 17本
MIP賞 前田 珠涼(東京医療保健大) 1年