月刊バスケットボール10月号

田中こころが振り返る中国戦「本当に負けたくないという気持ちが人生で一番ぐらいありました」

中国戦1Q3ポイント5連発の衝撃


7月22日、FIBA女子アジアカップ2025で準優勝を果たした女子日本代表が帰国し、記者会見に対応。司令塔として全6試合にスタメン出場し、大会ベスト5にも選出された田中こころは笑顔を見せながらも、はっきりと自分の考えを語った。

全6試合。その中にはドラマがあった。グループフェーズはレバノン(72-68)、フィリピン(85-82)に辛勝。3戦目オーストラリアには前半51-42とリードしながら、後半に失速し、67-79で敗れてグループ2位となり、準決勝進出戦に回ることになった。

その中で田中は自問していたと語る。
「どの試合も自分次第の試合だなと感じていました。自分が消極的なプレーをすると、みんなにも影響してなかなか良いペースでできなかった。そういう試合が、特に予選(グループフェーズ) で目立ったので、自分がペースメーカーというか、アグレッシブに行けば周りもどんどんアグレッシブになってくれるというのはすごく感じました」


帰国会見、田中こころは笑顔を見せながらも、はっきりと自分の考えを語った

自分がこの代表でやるべきことは何か。準決勝進出戦のニュージーランド戦では吹っ切れたかのようなプレーを見せる。前半でチームトップの11得点をマークし、22-8と流れを掴んだ3Qでもスピードを生かしたレイアップで得点し、勝利に貢献。そして準決勝の中国戦で衝撃的なパフォーマンスを見せる。1Qだけで3Pシュート5本を沈めて21得点と爆発。相手チームだけでなく、世界を驚かすプレーを披露してみせた。一体どんな心持ちでプレーしていたのか? 率直に質問してみた。

「本当に、めちゃくちゃアウェーの試合でした。でも本当に負けたくないという気持ちが人生の中で一番じゃないかというぐらいありました。それが1クォーターのあの点数に出たのかなと思います。気持ち的にもずっと本当に負けたくなかったですし、負ける気もしなかったです」

結果、前回大会の決勝で敗れた中国を90-81で破った。試合を終えた直後、まるで張り詰めていた糸が切れたかのように、田中の目には涙が浮かんでいた。
「最後、残り1分ぐらいの時から本当にずっと泣きそうでした(笑)。予選では全然自分の思ったプレーができなくて、本当に周りに迷惑をかけた部分があって。先輩に色々声かけてもらって切り替えて中国戦、ああいうプレーをできたという達成感だったのか。本当にホッとして泣いた感じです」

ひょうひょうとした佇まいとは裏腹に、内には強いプレッシャーと責任感を感じていたのだろう。


中国戦、勝利を果たすと目を潤ませた(写真中央、背番号26が田中)



決勝のオーストラリア戦でも21得点、6リバウンド、9アシスト。そのプレーぶりには頼もしさすら感じさせた。「相手のディフェンスが自分に寄るのは分かっていたので、渡嘉敷(来夢)さんや髙田(真希)さんを生かすことを意識しました」。試合を重ねるごとに判断力とゲームコントロールの幅を広げた田中は、チーム全体のリズムにも好影響を与えていた。

その田中に対して、先輩の渡嘉敷はこう語っている。「合宿から若手選手をずっと見ていますが、自分たちが若い時よりも気持ちが強いなと感じます。特に田中こころは、大きい大会でも動じないといいますか、勝負どころでしっかりやるべきことを思い切ってプレーをしてくれました。それは彼女にとってもそうですし、日本のバスケ界にとってもすごく明るい材料だと感じています。ただ、それでも優勝はできませんでした。チームが勝つために全員で成長できたらいいなと感じています」。

その思いは田中も同じだ。大会のオールスターファイブに選出された田中は「結果、オールスターファイブとしても賞をいただけましたが、やっぱりチームを勝たせるポイントガードにならなければ、やっぱりアジア1位にはなれないと私の中では思っています」と勝たせることができなかったと反省を語る。
「オールスターファイブで賞をもらった際に、大神さん(雄子/トヨタ自動車HC、プレゼンターとして参加)にも『チームを勝たせるポイントガードになれるように次は頑張って』と言っていただきました。本当にその通りだなと思いますし、もっともっと自分自身、自覚を持ってやるというのが、本当に大事になってくるなと思っています」。


かつての代表ガード、大神より期待の言葉をかけられた田中

<自分が良くても、チームが勝てなければ意味がない>。視線の先にあるのは、未来だ。
「アジアで1位を獲ることを目標にしてきたんですけど、本当に簡単なことではないと感じました。この経験は絶対オリンピックに向けて貴重な経験になったと思います。オリンピックでもっともっとレベルが上がった自分を見せられるように。この経験を生かしたといえるようにしたいと思ったアジアカップでした」

自分の役割と責任を深く理解し、結果を出した田中。プレッシャーの中でも成長を続ける姿勢は、次世代のヒロインとしての素質を感じさせる。女子日本代表は今大会、世代交代を進めながらも、チーム力の向上という課題に取り組んだ。田中のような若手選手の台頭は、チームの新たな可能性を示していると言っていいだろう。



田中こころ「FIBA女子アジアカップ2025」スタッツ




文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

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