「ファンの皆さん、もう少しだけ我慢してください」、ゲインズHCが大会総括[FIBA女子アジアカップ2025]

支えてくれたすべての人へ──スタッフ陣への深い感謝
「FIBA女子アジアカップ2025」で2大会連続となる準優勝で戦い終えた女子日本代表が帰国。7月22日、取材に応じ、コーリー・ゲインズHCは戦いの成果と課題を語った。何より強調したのは「育成」と「チームビルディング」の進捗度、そして支えてくれた“ファミリー”への深い感謝だった。
まず何よりも先に語られたのは、スタッフへの感謝の言葉だ。
「私のスタッフに感謝を伝えたいです」。右腕としてチームを支えたアシスタントコーチの宮田知己氏。そして、分析・映像面を担った有賀早希氏、伊藤恭子の両氏、通訳としてだけでなくコーチングもこなす下條海氏。ゲインズHCは「海は本当に頼りになる存在」と語った。
さらに、チームマネージャー陣にも深い敬意を示す。「私はイク(小松佳緒里)のことを“ハピネス”と呼んでいます。いつも笑顔をくれるからです」。そしてヘッドマネージャーの“メイさん(古海五月氏)”、アスレティックトレーナーの荻野まゆみ氏、そして臼井智洋氏にも言及し、「臼井のことは“オズ”と呼んでいます。選手たちの力を引き出してくれました」と続けた。このニックネームには、『オズの魔法使い』に登場する“偉大な魔法使い”のように、目には見えない力で舞台裏から選手たちを支える存在であることへの敬意が込められているようだ。
「小栗(弘/チームリーダー)さんをはじめとする裏方の皆さんの努力があってこそ、私たちはチャンピオンシップラウンドまで行くことができたのです。誰にも見えないところで、評価もされにくい仕事をしてくれた皆さんに心から感謝しています。今回の成果は、私だけのものではなく、ファミリーとしてのものです」

そしてゲインズHCが最も重視していたのが「育成」である。今大会では、若手とベテランが融合したロスター構成となったが、その中でも特に田中こころと薮未奈海の飛躍は象徴的だった。
田中については、ENEOSではSG(2番)だった彼女をPG(1番)で起用。「2週間半の準備期間で、それをやりきった」と称えた。最高レベルの相手に対して19歳がチームを率いる重責を担う中で、「私は彼女に“タフラブ(厳しさのある愛)”を与えました」とも述べている。間違えたらすぐに指摘し、正しくやっても「もっとできる」と求める――そうした姿勢に田中は応え続けた。
決勝で24秒バイオレーションを犯す場面もあったが、「それも時間が解決します。私の仕事はそうしたディテール(細部)を教えること。それが彼女の特別さを際立たせます」と語り、さらなる成長を見据えている。
一方の藪についても、「練習ではなく“試合”の中で育て、ディフェンス、オフェンス両面で多くを求めました」と指摘。「大変なことだったと思いますが、彼女もまた素晴らしい選手に育ちつつあります」と高く評価した。
優勝できなかった「責任は自分にある」
そしてグループフェーズで唯一の敗戦を喫したオーストラリアに、決勝でも再び敗れて準優勝となった点については、「責任は自分にある」と明言した。
「グループステージの敗戦後、選手たちに“自分のミスだった”と伝えました。決勝戦を見れば、どこが足りなかったかがわかるはずです。修正点は把握しています。次は準備できています」
一方で、短期目標の一つとして、リバウンドで成果があったと明かした。2024年6月、オーストラリアと対戦した三井不動産カップ(北海道大会)では初戦で25-44、2試合目で27-36と差をつけられていたが、今大会決勝では38-39と互角の勝負に持ち込んだ。
オフェンス面では、「ペイントアタックからキックアウトし、3Pシュートにつなげる」という一連の流れをいかに多く作り出せるかがポイントとなった。また、セットプレーについても、その整理や遂行の精度を重視。これらの取り組みにおいては、選手たちに対して具体的な数値や目標を提示することで、意識の明確化とモチベーションの向上を図ったと説明している。さらにゲインズHCはディフェンスに言及。「1-3-1ゾーンから3-2、そしてマンツーマンへと変化するシステムは、当初は課題だらけでしたが、今では試合で使える武器になりました」と評価した。
そして、もう一つの重要な軸として挙げたのが「コミュニケーション」だった。これについては5月に初合宿でも「昔のようにX&O(戦術)だけで選手を動かす時代ではありません。今はスマートフォンで会話を済ませる時代。だからこそ“直接話す”ことが、より重要になっています」と言及。
「私は日本語が話せませんが、70くらいのハンドサインを使っています。ココや他の選手はそれを短期間で覚える必要がありました。例えば手首を叩けば“ディレイ”、足をちょんと動かせば“ステップアップ”や“ワイド”。全部組み合わせて「ディレイ、ステップアップ、ワイド、クイックアクション」といったことを試合中、瞬時に判断する必要があります。このシステムでWNBAや他のチームで優勝してきましたが、普通は1年をかけて構築するものです。今回、日本の選手たちは2週間半で習得しました。それは本当に素晴らしいことですし、その知的な能力の高さに、A+をあげたいです」と選手たちの驚異的な適応能力を絶賛した。

リベンジの裏にあった若手での中国遠征
6月に若手メンバーで臨んだ中国遠征だが、ここでは手の内を明かさずにスカウティングできたと説明。準決勝では90-81で前回決勝のリベンジを果たした。この試合では「選手たちが役割をしっかり果たしてくれました。“自分の役割をスターのようにこなすんだ”と伝えた」と振り返った。
最後に、ゲインズHCはファンへの感謝も忘れなかった。
「深圳では、日本人ファンの方が全試合応援してくれました。その応援にエネルギーをもらいました。空港で何人かに直接お礼も言えましたが、ここでも改めて『ありがとう』と言わせてください。どうか、もう少しだけ我慢してください。もっと時間があれば、チームはさらに良くなります。速く、強くなります。アジアカップで見えた課題はすべて修正します。我々は準備できています」
2大会ぶりの頂点には届かなかった。それでも新コーチ、新メンバー、新戦術、新ディフェンスといった条件が揃う中で、短時間で可能性を見せた女子日本代表。 “ジャパンバスケ”は、確実に次のステージへと歩みを進めていると言っていいだろう。2026年の活動が早くも楽しみだ。

■FIBAアジアカップ2025
日程:2025年7月13日〜20日
開催地:中国・深圳(深圳スポーツセンター)
出場国(予選グループフェーズ)
【グループA】中国(4)、ニュージーランド(26)、韓国(14)、インドネシア(57)
1位:中国(3勝)
2位:韓国(2勝1敗)
3位:ニュージーランド(1勝2敗)
4位:インドネシア(3敗)
【グループB】日本(9)、オーストラリア(2)、フィリピン(44)、レバノン(54)
1位:オーストラリア(3勝)
2位:日本(2勝1敗)
3位:フィリピン(1勝2敗)
4位:レバノン(3敗)
※()内数字はFIBAランキング(2025年7月7日時点)
試合日程(日本時間)
7月13日(日) 14:30 日本 72-68 レバノン
7月14日(月) 20:30 日本 85-82 フィリピン
7月15日(火) 17:30 日本 67-79 オーストラリア
7月18日(金)17:30 準決勝進出決定戦 日本 77-62 ニュージーランド
7月19日(土) 準決勝 日本 90-81 中国
7月20日(日) 決勝 日本 79-88 オーストラリア
<最終順位>
優勝 オーストラリア
準優勝 日本
3位 中国
4位 韓国
5位 ニュージーランド
6位 フィリピン
7位 レバノン
8位 インドネシア
<個人賞>
MVP
アレクサンドラ・ファウラー(オーストラリア)
オールスター5
アレクサンドラ・ファウラー(オーストラリア)
ステファニー・リード(オーストラリア)
パク・ジヒョン(韓国)
ハン・シュー(中国)
田中こころ(日本)

■2025 年度バスケットボール女子日本代表チーム
FIBA 女子アジアカップ 2025 日本代表選手 メンバー表
【スタッフ】
チームリーダー 小栗 弘(公益財団法人日本バスケットボール協会)
ヘッドコーチ コーリー・ゲインズ(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アシスタントコーチ 宮田 知己(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アナライジングコーチ 伊藤 恭子(デンソー アイリス)
通訳 下條 海(公益財団法人日本バスケットボール協会)
スポーツパフォーマンスコーチ 臼井 智洋(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アスレティックトレーナー 荻野 まゆみ(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アスレティックトレーナー 小川 未央 (公益財団法人日本バスケットボール協会)
チームマネージャー 古海 五月(公益財団法人日本バスケットボール協会)
チームマネージャー 小松 佳緒里(ENEOSサンフラワーズ)
テクニカルスタッフ 有賀 早希(富士通 レッドウェーブ)
ドクター 小松 孝行(順天堂大学医学部スポーツ医学研究室)
【選手】
髙田 真希(PF / 185cm /35歳 / デンソー アイリス)
渡嘉敷 来夢(C / 193cm / 34歳 / アイシン ウィングス)
宮澤 夕貴(PF / 183cm / 32歳 / 富士通 レッドウェーブ)
川井 麻衣(PG / 171cm / 29歳 / デンソー アイリス)
栗林 未和(C / 188cm / 26歳 / 東京羽田ヴィッキーズ)
馬瓜 ステファニー(SF / 182cm / 26歳 / CASADEMONT ZARAGOZA)
オコエ 桃仁花(PF / 183cm / 26歳 / ENEOSサンフラワーズ)
今野 紀花(SG / 179cm / 25歳 / デンソー アイリス)
星 杏璃(SG / 171cm / 25歳 / ENEOSサンフラワーズ)
東藤 なな子(SG/PG / 175cm / 24歳 / トヨタ紡織サンシャインラビッツ)
薮 未奈海(SF/SG / 178cm / 20歳 /デンソー アイリス)
田中 こころ(PG / 172cm / 19歳 / ENEOSサンフラワーズ)
※年齢・所属は7月7日時点

文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)