高橋芙由子(FLOWLISH GUNMA)──オレンジの情熱物語2025

©FIBA3x3_Women'sSeries
5月から6月にかけて、上州の野を鮮やかなオレンジ色で飾るれんげつつじ。群馬県の県花であるこの花の美しさをモチーフとしたユニフォームで、女子3x3界を盛り上げているFLOWLISH GUNMAをご存じだろうか。高崎市を拠点として2023年に誕生したチームだ。
このチームの母体である株式会社FLOWLISH GUNMAの運営を務めながら、他方ではチームの得点源として活躍している高橋芙由子(高ははしごだか)には、「情熱」というれんげつつじの花ことばがぴったりくる。秋田県出身で秋田北中から桜花学園高に進み、白鷗大ではチームに史上初の日本一のタイトルをもたらした世代のガード。その後実業団でのキャリアを経て、一度はバスケットボールと距離を置く時期があったが、3x3で再びプレーヤーとしてのキャリアを再スタートし、現在は群馬をバスケットボールで盛り上げようと全力で3x3に向き合っている。

ウィメンズシリーズバク大会でのFLOWLISH GUNMA.EXE(左から井齋沙耶、横井美沙、アマンダ・ティヴェニウス、高橋芙由子 ©FIBA3x3Women'sSeries)
国内外で躍動するFLOWLISH GUNMA
今年のFLOWLISH GUNMA.EXEは、国内最大規模の3x3サーキットである3x3.EXE PREMIER 2025(以下EXEリーグ)において、7月13日に終了したラウンド4まで9勝2敗で2位。通算の勝敗と別に4ラウンド中3回優勝しており、その中で高橋はラウンド1とラウンド4でMVPに輝いている。
個人成績に目を向けると、総得点ランキングは1位が高橋(94、平均8.5も1位タイ)、2位が井齊(61)で、横井美沙も8位(43)とFLOWLISH GUNMA勢3人がトップ10入りしている。高橋は2Pショット成功数(18)と勝利を決するKOショット成功数(4)も1位。KOショット成功数では、2本ずつ決めている井齊と横井も2位タイに名を連ねる。FLOWLISH GUNMAからは、井齋沙耶もラウンド2でMVPに選出されており、3x3プレミア2025の主役たるFLOWLISH GUNMAの立場を確立している状況だ。
2023年のEXEリーグデビュー以来、年間チャンピオンの座を争い2年連続でファイナルに進みながら涙をのんできた。しかし今年は、これまで以上に年間王座獲得に近い位置に立っているように思える。

切れのあるドライブから得点を狙う高橋(3x3プレミア2025ラウンド1より)
FLOWLISH GUNMAは、FIBAが主催する女子3x3の世界大会サーキット「ウィメンズシリーズ」への国内での予選を勝ち抜いて、5月の中国・成都大会(2、3日)とアゼルバイジャン・バクー大会(26、27日)にも出場した。6月8日には、神奈川県厚木市で開催された「クイーンオブクイーンズ3x3ウィメンズシリーズ予選(以下Q.O.Q.)」でも優勝し、7月26(土)、27日(日)にアゼルバイジャン・スムガイトで開催される大会への出場権と賞金100万円を獲得している。
※FLOWLISH GUNMAは、FIBA主催大会にはTAKASAKIの名でエントリーしている
ウィメンズシリーズでは、成都大会こそ上位進出を逃したが、バクー大会では8強入りを果たした。成都大会の敗退は非常に悔しい経験に違いなかったが、このときはプールラウンドでオランダとオーストラリアという強豪と同組の「死のグループ」に入っていた。結果的には、9-21でKO負けを食らったオランダが優勝、20-21と激闘を演じた相手のオーストラリアが準優勝。帰国後高橋は、オランダ戦を振り返って以下のようなコメントを聞かせてくれている。
「オランダに関しては、あの強度を(国内でも)自分たちに求めていかなきゃいけないという学びがありました。その後のアムステルダム大会を見ても、カナダ相手のファイナルを20-11で勝てるようなチームと試合をできたこと自体がまず大きかったです。常にあのレベルをイメージして試合に臨むのが自分たちに必要なことだと感じられたという点では、ボコされて負けましたけど、すごくいい経験だったなと思います。『ああ、あんな強い相手には一生勝てないや』とは思っていません。あのレベルに勝ちに行く準備をしっかりしていきたいなって思います」
このときのオランダは、6月23~29日にモンゴル・ウランバートルで開催されたFIBA3x3ワールドカップ2025を制したのと同じメンバー。つまり、現在女子3x3の世界で頂点に立っている4人だ。
オーストラリアとの対戦は勝つ気満々で臨んだだけに、「正直すごく悔しい」というのが素直な気持ち。それでも「やっぱり負けは負け。頭を働かせて最後の1点を取って勝ちきれませんでした。体力的にも精神的にも厳しい終盤の状況でも、正常な判断をしていくべきだと痛感しました」と現状から目をそらすようなことはしていない。
この大会でFLOWLISH GUNMAは、国際大会の雰囲気と海外のフィジカリティーへの慣れが十分ではなかったかもしれない。3月に自身初の日本代表選出とアジアカップ2025での銀メダル獲得を経て成都大会に臨んだ高橋はその点では違っただろう。しかし世界大会からしばらく遠のいていたチームメイトたちは、「不足」というよりも「久々だった」ことが影響したようだ。「あの環境にアジャストしていきたいですし、そのためにも最初(成都大会はウィメンズシリーズ2025の初戦)にあれだけできたことは、よかったじゃないかなと思っています」と高橋は前向きに捉えていた。
またこのときは、EXEリーグで一緒にプレーしている大橋実奈(ラウンド4では新田菜美がプレーしたが)に代わり、現在スウェーデン在住で身長183cmのアマンダ・ティヴェニウスが加わったロスターで、これもチャレンジになっていた。「アマンダにほかの3人の意図をしっかり伝えていくこと、私が舵を取って仲間としての連係を高めていかなきゃいけないなっていうのは感じました」と高橋は言う。
成都大会から約3週間後、同じメンバーで臨んだバクー大会で8強入りできたことは、反省が生かされた成果。エジプトと対戦したクォーターファイナルでも19-20と勝利まであと一息の健闘。スムガイト大会では更なる躍進が期待される。
群馬から届ける情熱、世界から届ける情熱
FLOWLISH GUNMAとしての出来事ではないものの、高橋が名を連ねた日本代表が、FIBA3x3ワールドカップ2025で歴代最高成績タイとなる9位という成績を残したことにも注目したい。高橋が桂葵、宮下希保、高橋未来とともに戦ったその過程には、最終的な王者オランダとプールラウンドで対戦し、21-16のKO勝ちをもぎ取っているのだ。
ワールドカップ2025に関して高橋の代表選出には越えなければならないハードルがあった。日本代表は本番1週間前に、前哨戦としてウィメンズシリーズのモンゴル・ウランバートル大会にエントリーしていたが、FLOWLISH GUNMA(TAKASAKI)の一員としてすでにウィメンズシリーズに出場済みの高橋は、日本代表としてエントリーすることが規則上認められていなかったのだ。「1チームで1回出場したら、別のチームではもう出られません。私はワールドカップ2025への出場自体はできるんですけど、ウランバートル大会に出られないので、選出の形式を考えても、ワールドカップのロスターに選ばれるかどうかは微妙かな、難しいだろうなと思っています…」というのが、5月時点での高橋のコメント。しかしそれでもJBAは最終的にワールドカップでは高橋をロスターに戻した。

FIBA3x3ワールドカップ2025でプールラウンド突破を決めたチェコ戦勝利後、桂葵とハグを交わす高橋(©FIBA3x3WC2025)
ウランバートル大会で高橋に代わってプレーしたのは、アジアカップ2025で銀メダル獲得に貢献したチームメイトでもある鶴見彩。2人の心にはいろんな思いがあったに違いない。桂は高橋にとって桜花学園高の先輩であり、かつFLOWLISH GUNMAのウィメンズシリーズ・スムガイト大会出場へのステップとなったQ.O.Q.の開催に尽力した恩師ともいえる存在。そんな経緯から、ワールドカップ2025での日本代表は、ロスター外で帯同していた鶴見を含め特別な絆があったことが想像できる。また何より、高橋としてはFLOWLISH GUNMAの一員として情熱を燃やした成都でのオランダ戦から得た経験や国際大会でのマインドセットなど、桂らチームメイトの力となる情報を提供することもできた。
ワールドカップ2025を経て、逆に高橋はFLOWLISH GUNMAに、国際舞台でも最高峰の熱気やチームとして必要な強度、それを国内大会で身に付けていくための戦い方などを今一度持ち帰ることができているだろう。それが9月のプレーオフまで続くEXEリーグの舞台で、どんな物語に発展していくか。
れんげつつじの時期を過ぎ、灼熱の太陽輝く季節。高橋とFLOWLISH GUNMAのオレンジの情熱が、我々の胸を弾ませてくれる時期がやってきた。
☆3x3.EXE PREMIER 2025試合日程
☆FIBAウィメンズシリーズ・スムガイト大会公式サイト(英語)
文/柴田健