【WUBS2025】上位進出を狙って来日するダークホース、シドニー大&香港大
開幕が約3週間後に迫った第4回ワールド・ユニバーシティ・バスケットボール・シリーズ(World University Basketball Series=以下WUBS)に出場する8チームの中で、最も戦いぶりを思い浮かべるのが難しいチームは、シドニー大(オーストラリア)と、香港大(香港)だろう。ここではその両チームに関して情報をまとめていく。
シドニー大に関しては3大会連続出場の実績があるが、昨年登録されていたメンバーから主力級がチームを離れている。さらには、オーストラリア国内の大学リーグであるUBL(University Basketball League)のシーズンが、今季はセミプロリーグのNBL1との重複をさけ8月から10月までの期間で開催されるため、プレーヤーたちのパフォーマンスを実戦で確認する機会が現時点では少ない。香港大は今回が初出場で、さらに特徴をつかむのが難しい。
フィリピンからやってくるディフェンディング・チャンピオンのデ・ラサール大と初出場のフィリピン大、高麗大(韓国)、国立政治大(NCCU=チャイニーズ・タイペイ)、そして日本勢の日体大と日本学生選抜を加えた両チーム以外の6チームとは、まずWUBSにおける経験値の点で差がある。8月9日(土)からの3日間、国立代々木競技場第二体育館でどんなプレーを見せてくれるだろうか。
さらなる躍進なるか? シドニー大
シドニー大は、2024年のUBLで準優勝。今年6月には、マカオで開催された2025国際大学バスケットボールトーナメント(2025 International University Basketball Invitational Tournament、以下2025IUBIT)に出場し、優勝を果たした。この大会にはシドニー大のほかにホストのマカオ大、浙江大(中国)、アテネオ・デ・マニラ大(フィリピン)、ケンブリッジ大(イギリス)、ソウル大(韓国)、シンガポール国立大(シンガポール)、マレーシア科学大(マレーシア)など、世界各国から8チームが参加していた。シドニー大は初戦でマレーシア科学大を115-42で一蹴すると、浙江大に86-74、ソウル大を117-45で下してセミファイナルに進出。以降も地元の利があるマカオ大に86-53、そして浙江大との再戦となったファイナルでも77-66で勝利して王座獲得となった。
2023年にWUBSの初代王者となり、翌2024年にも4位と好成績を残したアテネオ・デ・マニラ大が3位。シドニー大が2度、2桁点差で下した浙江大は、そのアテネオ・デ・マニラ大を90-86と接戦の末に破っている。決して一概には言えないが、これらの結果がシドニー大の実力を測る目安になるだろう。
来日メンバーは現時点では未定だが、WUBS2024で白鷗大を73-69破った1回戦で24得点を挙げたマイキー・ヨーンと、身長204cmのキャンベル・グリーンとスターターのうち2人がすでに在籍していないことがチーム発表で明らかになっている。今年のロスターは、チームで唯一WUBS2024での3試合全てに2桁得点を記録したスコアリングガードのマティー・ウェイチャー、平均10.7得点に加え6.0リバウンドとフィジカルなプレーでも力を発揮したウイングのロバート・ムーアらが核と思われるが、発表が待たれるところだ。

WUBS2024の3位決定戦で得点を狙うマティー・ウェイチャー(©月刊バスケットボール)

ロバート・ムーアのフィジカルなプレーは、WUBS2024でのシドニー大躍進の大きな力だった(©月刊バスケットボール)
4位に食い込んだ昨年のWUBS2024では、攻防両面でフィジカルさとアグレッシブさが前面に出て、高麗大とのセミファイナルもオーバータイムで77-82という激闘。オフェンスでは、3Pショットが3試合通算29.7%[21/71]、敗れた2試合では27.9%[12/43]と、ロングレンジからのショットメイクに苦労した。2025IUBITでの勝ちっぷりからは、同じようにフィジカルなディファンスから隙あらば速攻で走って、イージーバスケットを積み重ねグングン突き放していく展開が想像できる。そこにショットメイクが伴ってくれば、昨年以上の好成績を期待できるだろう。
香港の大学リーグMVP、カイル ツァン率いる香港大
香港大に関しては、チームの前に香港のバスケットボールについて触れてから紹介しよう。日本には、さほどなじみのある人は多くないのではないだろうか。しかし、香港バスケットボール協会が運営し、創設から70年以上の歴史を持つ香港バスケットボールリーグというトップリーグ(1部がHKA1、2部はHKA2などと記される)が存在し、マンガ「スラムダンク」が大人気。街中に日夜多くの人々がプレーするアウトドアコートがいくつもある。HKA1に属していない香港ブルズというプロクラブもある。ブルズは中国CBAの下部リーグにあたるNBLで、2024年に加盟2年目にして王座獲得に成功した。
アジアカップなど、FIBA主催大会での成績は目覚ましいとは言えないかもしれないが、国内の状況から察すれば、香港においてバスケットボールは近年存在感を増し発展を遂げているスポーツと言えそうだ。ある意味では、1990年代から2000年代初頭にかけての日本の状況にも近いところがあるかもしれない。
大学バスケットボールは、大学スポーツを統括する中國香港大專體育協會(USFHK)が主催するリーグ戦が1961年から毎年行われている。香港大はこのリーグ戦において、直近の2024-25シーズンに王座を獲得したチームだ。この優勝は5度目で、実に2000-01シーズン以来24年ぶり。長いトンネルを抜けてついに古豪復活を果たした。
WUBS2025で初出場を果たす香港大(©The University of Hong Kong)
転機は2023年。この年、現在エースとしてチームを支えているカイル ツァン(チーム写真前列右から2番目)が入学し、その秋に開幕した2023-24シーズンで直近5年間で最高順位となる6位に浮上した香港大は、翌シーズンに一気に頂点まで駆け上った。
カイルは、2023年にモンゴル・ウランバートルで開催された第2回東アジアユース競技大会で香港代表に名を連ねたウイングで、U12香港代表にも選出された経歴を持つ。カイリー・アービングの我慢強さと創造性にあこがれを持ち、アービングのようなプレーを目指しているという。チームを王座に導いた2024-25シーズンには、努力が個人的にも実り、USFHKのバスケットボール・カテゴリーにおける最優秀選手にも選出された。
香港大では、世界的にハイレベルな研究と実戦で知られる歯学部に在籍し、BDSプログラムという歯科医師免許取得コースを修得している。将来プロとしてのキャリアを描いているわけではないとのことだが、それでもHKA1でハイレベルなバスケットボールを続けていきたいとの思いはあり、文武両道の取り組みに精を出す大学生活を送っている。
香港大躍進の大きな力となったカイル ツァン(©The University of Hong Kong)
カイルを主軸として急速に力をつけてきた香港大にとって、WUBS2025の舞台は新たなチャレンジ。普段の力を出し切ることができるか、またそのときどんな力が発揮されるのか。ベールに包まれたその全容が間もなく明らかになる。
文/柴田健