【WUBS2025】2年ぶりの王座奪還を狙う国立政治大(NCCU)――昨夏の悔し涙を覚えている

チャイニーズ・タイペイの大学リーグUBAでMVPに輝いたソン シンハオ(©月刊バスケットボール)
8月9日(土)~11日(祝・月)に国立代々木競技場第二体育館で開催される第4回ワールド・ユニバーシティ・バスケットボール・シリーズ(World University Basketball Series=以下WUBS)に出場するチームの中で、近年最も安定した戦績を残しているチームと言えば、それはチャイニーズ・タイペイの大学王者として君臨する国立政治大(National Chengchi University、以下NCCUと記述)となる。何しろNCCUはチャイニーズ・タイペイの大学リーグUBA(University Basketball Association)で5連覇中であり、直近3シーズンをまたいで50連勝中という、まさしく「君臨」という形容にふさわしい強さを示しているからだ。
ディフェンディング・チャンピオンのデ・ラサール大と初出場のフィリピン大のフィリピン勢、高麗大(韓国)、香港大(香港)の東アジア勢、シドニー大(オーストラリア)、そして日本勢の日体大と日本学生選抜というほかの参加チームは、いずれもそれぞれの舞台における直近の大会で王座を獲得、あるいはファイナリストになっている。しかしNCCUのような「ぶっちぎり」の強さを示しているチームはない。
この強さが、WUBSへの参戦と連動している事実も興味深い。NCCUは今大会で唯一、初開催だったWUBS2022から4回すべてに出場しているチームだが、第1回大会では4チーム中3位と望ましい結果ではなかった。この結果を受けて臨んだUBAの2022-23シーズンから50連勝が始まっているのだが、その流れの中でWUBS2023制覇という成功も手にしている。このときは、前年のインカレ王者だった東海大、NCAAディビジョンIのラドフォード大(アメリカ)、そして白鷗大を撃破しての王座。それ以前からUBA王者ではあったわけだが、WUBS2023で海外の強豪をなぎ倒したことで自信を深め、この王座にふさわしいチームであり続けようとの意欲に駆られ進化を続けてきた。
連覇を狙って来日した昨年のWUBS2024では、優勝したデ・ラサール大にセミファイナルでオーバータイムの末82-87で敗れたが、この一戦を終えた後、選手たちは涙をこぼして悔しがっていた。翌日の3位決定戦では、「俺たちはこんなものじゃない!」と言わんばかりに、シドニー大を92-68と吹き飛ばしている。
そしてUBAでの50連勝、5連覇。NCCUはこの4年間、WUBSとともに強くなったチームなのだ。
UBAのMVP、ソン シンハオ
では、その強さを支える戦力はどんなものなのかというと、今年3月に終了した今季までのUBAで勝ち続けてきたメンタリティーとWUBSでの歓喜、悔しさの流れをよく知るメンバーがそろっている。3月30日に行われたUBAファイナルでスターターを務めた5人はソン シンハオ(宋昕澔=4年、185cm、ポイントガード)、リン ツーハオ(林子皓=3年、185cm、ポイントガード)、ワン ウェイジア(王暐嘉=2年、185cm、スモールフォワード)、ウー ツーカイ(吳志鍇=4年、195cm、スモールフォワード)、セニ パテ ンジャイ(盛岦=2年、208cm、センター)。彼らは全員、WUBS2024にも出場している。
この中で特に注目すべきタレントであるソンは、滋賀レイクスでポイントガードとして活躍しているユウ アイチェが在籍していた当時、バックコートでユウとコンビを組んでいた頃から大暴れしていたプレーヤーだ。UBAの2024-25シーズンには平均6.3アシストがリーグ1位、17.2得点もリーグ5位で、MVPに輝いた。WUBS2024を振り返ると平均11.0得点、4.7アシスト、6.0リバウンド、1.0スティール。やはり攻防両面で持ち味を発揮していた。ソンはNCCUの指揮官を務めるチェン ツーウェイが率いるワールドユニバーシティゲームズのチャイニーズ・タイペイ代表にも名を連ねている。
フロントラインの注目株としては、前述のンジャイのほかに、2022年まで八王子学園八王子に通っていたムハマドゥ=ムスタファ・ンジャイ(莫斯塔發=3年、208cm、センター)という「もう一人のンジャイ」や、往年のシャキール・オニールのようなパワーを持つエムボ・ボバカー(波波卡=3年、208cm、センター)も力強い。NCCUのスピーディーでスマートなバックコート陣とパワフルなフロントラインの組み合わせは、間違いなく一昨年、昨年から脅威を増している。
WUBS2023のラドフォード大戦でリバウンドに食らいつくエムボ・ボバカー。経験を積んだ現在は当時以上に力強いビッグマンに成長している(©WUBS2023)
チーム一丸を体現するNCCU
現時点ではどんなロスターで来日するかは明らかになっていないが、NCCUはいずれにしてもソンら個々のパフォーマンスに頼るチームではない。大まかに特徴をつかもうとすれば、一丸となって全員で戦うチームだ。固いディフェンスで相手を苦しめてリバウンドを制し、ミスを最小限にとどめ、果敢なリムアタックと高確率の3Pショットで突き放すのが勝ちパターン。今季のUBAではチームとして平均50.6リバウンド(リーグ1位)、平均失点68.5(リーグで2番目に少ない数値)、3P成功率38.5%(リーグ1位)、そして平均得点100.2(リーグ1位)と圧倒的なスタッツを残した。
WUBS2024の勝敗結果は、勝ちパターンの傾向をよく表していた。例えば日体大との初戦はリバウンドで58-55と上回り、ターンオーバーを9に抑えて79-71で勝利した。日体大も、ムトンボ・ジャン・ピエールが36得点に26リバウンド、4ブロックというモンスターゲームを披露し、チームとしてターンオーバーを10にとどめる堅実な戦いぶりだったが、数字的にはNCCUがその上をいく堅実な戦いぶりだった。
一方、敗れたデ・ラサール大とのセミファイナルではリバウンドで42-55と上回られ、ターンオーバーが26に達していた。デ・ラサール大もターンオーバーが25という乱戦だったので、ある意味ではチームの特徴を論じるよりも「そういうゲームだった」ととらえるべき一戦だったかもしれないが、いずれにしても勝ちパターンからは逸脱していたとはいえるだろう。
シドニー大との3位決定戦では、ふたたびリバウンドを57-42で制し、ターンオーバーを9(シドニー大は14)にとどめての快勝。しかもこの試合では、全員が出場しただけでなく得点とリバウンドを記録した。地元から、また日本国内各地から集まった大応援団の熱狂的な応援を背に、前日喫した黒星の汚名を返上すべく、まさしくチーム一丸の勝利だったのだ。
ちなみに3Pショットに関しては、3試合とも30%に届かなかったので、期待すべき数値ではなかっただろう。しかし、アテンプトはフィールドゴール全体の39.8%を占めており、意図として前述の特徴を追っているようなデータとなっている。
NCCUは毎度、大応援団の熱狂的な声援もWUBSの楽しいアクセントとなっている。写真は3位決定戦の勝利後、笑顔で選手たちを見守るファンの様子(©月刊バスケットボール)
WUBS2025にやってくるNCCUは当然、昨夏の大会を分析して自信を持って来日することだろう。あの悔し涙を覚えている。王座奪還を期して、4度目の挑戦だ。
文/柴田健