「運命を分けた3Q」不運と戦ったペイサーズと”Be Where Our Feet Are”の信念を貫いたサンダー[NBAファイナル2025]

不運が起きたペイサーズ、奮起し1点リードで前半を終える
NBAファイナル2025は第7戦までもつれる激戦となり、現地時間6月22日(日本時間23日)に行われた最終決戦で、オクラホマシティ・サンダーがインディアナ・ペイサーズを103-91で破って優勝。前身であるソニックスの1978-79シーズンの優勝を除けば、フランチャイズ史上初となるNBAチャンピオンの座をつかんだ。
立ち上がりは互角の展開だった。序盤から両軍とも気迫のこもったプレーを見せ、1Q中盤にはパスカル・シアカムやTJ・マコーネルが攻守で存在感を放つなど、ペイサーズも主導権を譲らなかった。しかし、1Q終盤に差し掛かるところでまさかの事態が訪れてしまう。残り5分、ペイサーズのエース、タイリース・ハリバートンがパスを受けてドライブを仕掛けようというところで転倒。そのまま立ち上がれなくなった。アキレス腱の負傷と伝えられたハリバートンは、チームメイトに肩を貸されてロッカールームへ。ペイサーズのメンバーにとって動揺がなかったとは言えないだろう。それでも2Qはペイサーズが気迫で上回っているように見えた。アンドリュー・ネムハードの3Pシュートで前半終了間際に逆転、48-47と1点リードで折り返した。
試合を動かした3Qの攻防、勝敗の明暗を分けた瞬間
だが後半、特に3Qでゲームは大きく動くことになる。サンダーはディフェンス強度を一気に引き上げるとペイサーズからこのクォーターだけで7ターンオーバーを引き出す。そしてトランジションから次々と得点を重ね、81-68と2桁のリードを作った。特に印象的だったのが3Q前半のシェイ・ギルジャス=アレクサンダーのプレーだ。56-56で迎えた残り8分16秒、トップからステップバック3Pシュートを沈めると、その30秒後にチェット・ホルムグレン、さらに30秒後にジェイレン・ウィリアムズと3Pシュートを演出。リードを広げた。ペイサーズもマコーネルが意地のパフォーマンスを見せたものの、競うには足らなかった。
ホームの声援を受けるサンダーは4Qも落ち着いた試合運びで主導権を渡さず。最後までリードを保って勝利した。シリーズ通して互いに譲らなかった激闘は、若き“雷鳴”が終止符を打った。
勝利の立て役者は、この日は29得点12アシストをマークしたSGA。初のシーズンMVPを獲得したギルジャス・アレクサンダーは、NBAファイナル7戦で38.2分出場、30.3得点、4.6リバウンド、5.6アシスト、1.9スティールをマークして文句なしのファイナルMVPに選ばれた。
試合後、SGAは「素晴らしい気分だよ。肩の荷が下りたね。ストレスから解放された。毎晩、勝ちたいと思って臨んできて、時にはうまくいかないこともあった。でも今夜は、私たちが道を見つけました。このチーム、メンバーをとても誇りに思います。彼らとだからやり遂げたいと思うことができた。チャンピオンになれ、これ以上ない気分だ」と喜びを噛み締めた。また、1Q、倒れ込んだハリバートンに駆け寄ったシーンについて問われると「大丈夫かと尋ねただけなんだ。彼は痛そうだったし、ああいうシーンは見たくないもの。あの瞬間は、私の心もダウンした。人生で最大の試合をしていて、あんなことが起こるなんて。とても不運で、不公平だと感じる。でも、競争は時々不公平なもの。彼にとっては、本当に気の毒だった。祈りを送るのみ。素晴らしい選手だし、未来は明るい。あのチームは長い間本当に強いと思う。彼らの幸運を祈っている」と答えている。
チーム2位の20得点をマークしたジェイレン・ウィリアムズは3Qに14得点と大活躍。果敢なドライブと献身的な守備で試合の流れを一変させた。「これまでの試練が一気に押し寄せてきた」と会見で語り、観客席で涙する母親の姿を見て、自身も感情を抑えきれなかったことを明かした。さらにディフェンスで存在感を示したルー・ドートも、チームの勝利を“自分の人々のための勝利”と語り、カナダとハイチの国旗を肩にかけてコートを歩いた。チェット・ホルムグレンもシリーズを通じてリムプロテクターとして躍動し、初舞台で大きな経験を積んだ。
若きチームを率いた40歳、マーク・デイグノルトHCは、ファイナル制覇という実績を手にした。選手からの信頼も厚く、指揮官が掲げた「Be Where Our Feet Are(足がある場所に居るんだ=今この瞬間に集中しよう)」という言葉は、チーム全体のメンタリティを象徴するものとなった。「このチームはスペシャルなんだ。競争心、プロ意識、献身性、すべてが揃っている」と語る彼の言葉には、選手と歩んだ歳月への誇りがにじんでいた。
NBA初優勝を逃したペイサーズにとって、ハリバートンの負傷があまりにも大きかった。攻撃の起点を失ったチームは、後半に入るとターンオーバーが目立つように。サンダーのディフェンスに翻弄される形で主導権を明け渡した。それでもリック・カーライルHCは選手たちを称賛。「3Qの入りが勝負を分けた」としながらも、「4Qで見せた粘りは我々の真価を示すものだった」と見せ場は作ったと語った。そしてハリバートンについても言及。「彼のプレーオフでの活躍は、NBA史に残るものだった」とし、長期的な影響が懸念される負傷に対しても「完全に戻ってくると信じている」と力を込めた。
この優勝は、サンダーにとってNBA移転後初のタイトルとなる。SGA、ウィリアムズ、チェット・ホルムグレンの若き三本柱に加え、来季も1巡目指名権を2つ保持するサンダーは、さらなる上積みの可能性を秘めている。「まだまだ成長できる。それが一番楽しみ」と語ったSGAの言葉通り、今回の頂点到達は終点ではなく、始まりに過ぎないのかもしれない。
信念が導いた栄光、SGAと若き仲間たちの“今”
“勝てないかもしれない”といった不安もゼロではない中で、どう気持ちを強く保ったのかについて、SGAはこう答えている。
「私たちは何より勝利を優先している。このゲームで他に優先するものなんてない。ただ勝ちたい。最高のレベルで勝ちたいんだ。それは毎晩、どの相手でも、どこのアリーナでもフレッシュな気持ちにさせてくれるもの。それこそ私たちがシーズン全体で集中してきたことなんだ。シーズンの1試合目だろうと、45試合目だろうと、105試合目だろうと、私たちは勝利を優先してプレーするだけ。そうしたからこそ、最高のレベルで勝てたんだ」
デイグノルトHCが掲げた「Feet Where We Are」は、SGAの「何より勝利を優先している」と同義なのだろう。勝つために目の前の戦いに全神経を注ぐ。その姿勢こそが、最高のバスケットボールを生んだのだろう。
■NBAファイナル2025 試合結果一覧(サンダー4勝3敗)※試合時間は日本時間
GAME1(ホーム:OKC) ペイサーズ 111-110 サンダー
GAME2(ホーム:OKC) ペイサーズ 107-123 サンダー
GAME3(ホーム:IND) サンダー 107-116 ペイサーズ
GAME4(ホーム:IND) サンダー 111-104 ペイサーズ
GAME5(ホーム:OKC) ペイサーズ 109-120 サンダー
GAME6(ホーム:IND) サンダー 91-108 ペイサーズ
GAME7(ホーム:OKC) ペイサーズ 91-103 サンダー
SGA IS AWARDED THE BILL RUSSELL TROPHY AS THE NBA FINALS MVP 🏆
— NBA (@NBA) June 23, 2025
4th player to win #KiaMVP, the scoring title and the Finals MVP in the same season! pic.twitter.com/JP93jzjipu
