月刊バスケットボール11月号

中学(U15)

2025.06.20

「KDコート(新宿歌舞伎町大久保公園)」からひろがるバスケ愛——第3回「LOVE GAME by go parkey」レポート

524日に、「2K Foundations x Kevin Durant Renovation Art Court 2022(新宿区歌舞伎町 大久保公園)」で開催された「第3LOVE GAME by go parkey(以下LOVE GAME)」は、プレーグラウンドにおけるバスケットボール環境の改善を象徴するような、意義深いイベントだった。


タイトルどおりバスケットボールに対するリスペクトを込めた愛を表現するLOVE GAMEは、Bクラブのユースチームを指導するコーチ陣による子ども向けのクリニックに始まり、参加した子どもたち同士の即席チームによるピックアップゲームを経て、最後にアースフレンズ東京Zと東京八王子ビートレインズのU15チームがエキジビションゲームを披露するという内容で、スポルディングがオフィシャルゲームボールのサプライヤーとしてサポート。NBAスターのケビン・デュラントの名を冠したアウトドアコートの開放的な環境や、一般社団法人go parkey(ゴー パーキー)が手掛けたアートコートのデザイン的な華やかさ、さらには新宿の繁華街から間近のロケーションも手伝い、バスケットボールのアーバンスポーツたる一面が鮮やかに描き出される情景の中、子どもたちの笑顔がはじけた。


子どもたち同士のピックアップゲームは大いに盛り上がった

go parkeyは過去に手掛けた各地のアートコートを定期的なリノベーションで保全する活動も行っているが、「LOVE GAME」はアートコートの物理的な修繕ではなく、コートをソフトとして活用することでバスケットボールに対する愛情を表現しようという趣向のイベント。コーチ陣も子どもたちにそうしたメッセージを伝えていた。クリニックを担当した鯨井駿平コーチ(アルバルク東京アカデミーのスキルコーチ)からの声掛けも、子どもたちが失敗を恐れずバスケットボールを楽しめるような激励が中心。「今、皆はスタートラインにたっているんだよ。だから何かができなくても問題ない。思いっきりやってみよう!」。前向きな言葉が子どもたちの背中を押していた。

東京Z U15と八王子U15による締めくくりのエキジビションゲームは、東京Z U15のヘッドコーチを務める氏家豪一と八王子U15を率いる兼子勇太HCが、若かりしある日町中の公園にあるアウトドアコートで出会ったエピソードをきっかけに実現したユニークな機会だった。


子どもたちにメッセージを伝える氏家HC(写真/go parkey)

氏家HCは東京都立羽田高から青山学院大に進み、31歳のときに鹿児島レブナイズ(当時NBDL)でプロデビューをかなえた人物。「高校時代に『始めさせられた』ような形でバスケットボールの世界に入った僕が、大学卒業の頃になぜか、これからはバスケットボールで生きていきたいと思っていました」。この日氏家は、自身のキャリアを振り返りながら子どもたちにそんな話をしていた。

しかし青山学院大時代を含めても、氏家は華々しく全国区で目立つ存在ではなかった。大学卒業後プロデビューまで10年かかったことは、その道の険しさと同時に、氏家の忍耐とバスケットボールへの愛情の深さを物語っている。

なぜしぶとく「生き残る」ことができたのか。氏家はそのヒントもこの日のメッセージに埋め込んでいた。実はここに、go parkeyの代表を務める海老原奨や八王子U15の兼子HCがかかわってくるのだ。


KDコートの制作を手掛けたgo parkeyの海老原代表(写真/go parkey)

大学卒業後の氏家は、クラブチームに所属したりピックアップゲームの世界に身を置いたりしながら、チャンスが来る日に向け腕を磨く日々。そのきっかけとなった人物の一人に、当時F’SQUADという人気ストリートボールチームに所属していた海老原がいた。氏家はこの出会いから、ALLDAYなどストリートボール界のビッグイベントに出場する機会に恵まれ、ハイレベルな競争や励みを得ることができた。

兼子HCとは、やはり大学時代に地元の公園で出会ったという。まだ小学生だった兼子HCが氏家に「バスケを教えてください」と声をかけてきたとのことだが、聞いてみれば自身の小中学校の後輩。もちろん氏家は喜んで一緒にプレーした。それがきっかけとなり、兼子HCは中学校でも部活に精を出し、全国区の強豪として知られる八王子高(現・八王子学園八王子高)、拓殖大を経て山形ワイヴァンズでプロデビューという経路をたどる。


エキジビションゲームのベンチで指示を出す兼子HC。氏家HCとの縁で、「公園からBクラブ入り」を実現させた人物だ(写真/go parkey)

31歳でプロデビューしたその試合も兼子HCのチームが相手だったんですよ」。氏家HCはプレーグラウンドでの出会いが生んだ奇遇な縁を語り、子どもたちへのメッセージをこんな言葉で締めくくった。

「公園のバスケがいろんな縁をつないでくれて今の僕があります。その縁がこうして次の世代の皆さんともつなげてくれている。プロや世界で活躍するプレーヤーになりたいと思ったら、なれる。その思いがあるなら人生を賭けてやってみるべきです。自分の人生はほかの誰かが決めるのではありません。自分でなりたいものが見つかったのなら一生懸命やってみよう。夢はかなうと信じているし、その過程で多くの仲間と出会ったり、いろんな景色を見たりもできるのだから、どうかここに集まった皆にも、周囲に感謝しながらやりたい限り、やれる限りバスケットボールを頑張ってほしいと思います」

氏家HCをはじめ、兼子HC、鯨井コーチ、海老原氏ら第3回LOVE GAMEの運営に携わった大人たちは、あきらめなければ夢は叶うものだということを実体験で知っている。彼らの情熱は、この日大久保公園で子どもたちの心にしっかり届き、きっとそれぞれの中にある本当の可能性を信じるきっかけとなったことだろう。バスケットボールのこれからを支え、前進させていく新しい力が、今日もまたプレーグラウンドで生まれたのである。



クリニックに参加した子どもたちの笑顔が、この日の意義を物語っている(写真/go parkey)



文/柴田健

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