ナタリー・ナカセ、WNBA初の日系人HCとしての挑戦「誰かの背中を押せているなら光栄です」

ドイツ、日本でコーチ経験を積みNBAでもACを経験
WNBAの2025年シーズンは現地5月16日に開幕。各チーム4〜5試合が消化したという状況にある。そして2008年のアトランタ・ドリーム以来、実に17年ぶりとなる新規参入チームとして注目を浴びているのがゴールデンステート・ヴァルキリーズだ。ウォリアーズと同じチェイス・センターをホームアリーナとするヴァルキリーズはミスティックスとスパークスに勝利し、2勝2敗というスタートを切っている。興味深いのは、ヘッドコーチとなっているのが日系三世であるナタリー・ナカセということだ。その名前を覚えている人もいるかもしれない。WNBA史上初のアジア系アメリカ人ヘッドコーチとなったナカセHCは、かつてbjリーグでコーチ経験がある人物だ。
選手時代は名門UCLAでキャプテンを務めたことがあるガードで、卒業後は女子独立リーグ(NWBL)でプレーし、ドイツ1部でもプレー。その後、2008年にドイツのチームでヘッドコーチを任され、指導者としての道を歩み始めた。そして2010年、bjリーグの東京アパッチの練習見学をきっかけにアシスタントコーチとしてチームに加入。当時のヘッドコーチは、かつてニックスやスパーズでHCを務めたことがあるボブ・ヒル氏。ナカセ氏はスカウティングを担当していたという。また2011年には、埼玉(現さいたま)ブロンコスでヘッドコーチも経験した。その後、アメリカに戻ると、Gリーグのクリッパーズ、NBAのロサンゼルス・クリッパーズでアシスタントコーチを歴任。さらに2022年からは、WNBA・ラスベガス・エーシズで3シーズンにわたりACを務め、今季、ついにヴァルキリーズでHCに就任した。

ブロンコスではヘッドコーチも務めた
アシスタントコーチとの違いについて、ナカセHCは「やっぱり“マネジメント”が違いますね。選手、スタッフの管理も含めて、組織のCEOのような立場だと感じています。毎日、チーム全体に影響を与える立場になったという実感があります。多くの答えや解決策を自分が出さなければいけないですが、周囲にポジティブな影響を与えられたり、自信を持ってもらえたりするなら、ありがたい役割だと思っています」と説明。
一方で、まだ実感が湧かない部分もあると明かしている。
「自分でもまだ実感しきれていないところがあります。今正に経験している最中という感じです。ヴァルキリーズのCMで、アジア系の女の子がスクリーンを見上げている映像を見たときに、『え、これ本物?夢じゃない?』と思ったんです。ESPN(米スポーツ専門局)で自分の名前がアナウンスされるのも、信じられない気持ちでした。自分が想像もしていなかった出来事なんです。もし私の存在が誰かにとって『自分もできるかもしれない』と思えるきっかけになるなら、うれしいですね。誰かの背中を押せているなら、光栄です」
シーズンは始まったばかりではあるが、現地メディアでは「コーチ・オブ・ザ・イヤー候補」とその手腕を評価されている。新たな挑戦のなかで、ナカセHCは着実にチームの色を描き始めている。経験と情熱を注ぎ込みながら、彼女がこれからどのようにヴァルキリーズのアイデンティティーを築き上げていくのか――その過程を見守るのが、今から楽しみだ。

文/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)