月刊バスケットボール10月号

星杏璃、OQT直前の大ケガを乗り越えて再び代表合宿へ——「失意の先に見えた覚悟」

「パリに行けなかった悔しさ、それが一番得たものかもしれません」


星杏璃(ENEOS)が、代表合宿に戻ってきた。2024年2月、オリンピック世界最終予選直前というタイミングで左膝前十字靭帯を断裂。手術とリハビリを経て同年10月に復帰し、26試合に出場とシーズンを通して貢献してみせた。その姿はまさに“復活”を印象づけるものだったと言える。

5月22日、2025年度女子日本代表チーム第1次強化合宿の招集メンバーに選ばれた星の姿が、味の素ナショナルトレーニングセンターにあった。
「久しぶりにこの体育館でみんなと練習ということもあって、自分としても結構間が空いたなという感覚があり、もう1回、この体育館で練習できるのが、すごく緊張もあるし不安もあるんですけど、すごく楽しみでもあります」。少し照れた笑顔を浮かべながら語った星。膝の回復に手応えを感じながらも、代表の場に再び立つことの意味を噛み締めているようだった。



ケガからの復帰に要した時間は約8カ月。通常の例を考えても早期復帰と言えるケースだが、高校時代に右膝、そして昨年は左膝と、二度の大きな怪我を経験した星にとって、リハビリは肉体だけでなく精神力との戦いだった。
「表現が難しいのですが、ラントレとかできついのとはまた違って自分との戦いなんです。動けないもどかしさの中で、自分と本当に向き合って戦うだけなので、そのしんどさは本当にリハビリをやらないと分からないかなと思います」。

24-25 Wリーグレギュラーシーズン(プレミア)では26試合に出場し、23試合に先発。平均得点こそ7.04得点とアベレージ以下ではあったものの、シュート成功率は2Pが43.42%、3Pが38.37%と期待どおりの数字をマークしている。それでも「(ケガ前の)60%くらいで終わってしまったかなという感じで、ちょっと悔いが残るシーズンでした」と素直に語る。「復帰までトントン拍子でいけたのは良かったんですけど、試合の中でコンディションを整えていく感じでした。『復帰が早かったね』と言われましたが、自分の中ではすごくもどかしい気持ちのまま、シーズンを終えてしまったなというのが正直な気持ちです」。





“簡単に消化できない経験の中で、何か得られたものはありますか”という問いに対し、星が答えたのは“悔しさ”という言葉だった。
「パリに行けなかった悔しさ、それが一番得たものかもしれません。悔しさがあるから3年後に向けて、本当に頑張らなきゃという気持ちになれました。もう一度こう火を付けられた。それが一番です。パリの時は、絶対に出たいという強い気持ちよりも、精一杯やってみて選ばれたらいいなという感じでした。そういった中でケガをしてパリに出られなくなり、『今度は絶対私が出るんだ』と挑戦しようという気持ちになれました」

パリ五輪に向けてのチームでハンドラー、シューターなど多才さを見せていた星には、コーリー・ゲインズHCが掲げる“ポジションレス”のバスケでも活躍の期待が高まる。「全部をできなきゃいけないですね。ここに来ているみんなも全部ができる選手なので、その中で埋もれてはいけない。同じことをやるけど、その中でも自分の得意なことをアピールしたいですし、どんどん出していかなきゃなっていう風に思っています」と星。

失った舞台の悔しさと、積み上げた日々の重みを胸に、星は新たな一歩を踏み出している。







文・写真/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)

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