渡嘉敷来夢が見据えるロスの舞台「日本に足りないところを補強できると思っています」
「残りたい。もうその一心です」
渡嘉敷来夢(アイシン)は、言葉の端々に取材陣への気遣いをにじませる。それはWリーグでも、日本代表の場でも変わらない。5月22日に行われた女子日本代表の公開練習後の囲み取材では、「まだ残れるように頑張るので、皆さん、また来てください。またどんどん喋らせてください」と声をかけ、笑顔でその場を後にした。
【写真】渡嘉敷来夢公開練習写真ギャラリー(11点)
桜花学園高2年生だった2008年、史上最年少で日本代表に選出されて以来、渡嘉敷は長きにわたり日の丸を背負ってきた。2016年リオデジャネイロ五輪ではベスト8進出に貢献し、その後の東京大会でも活躍が期待されていた。しかし、2020年末の皇后杯で前十字靱帯を断裂する大ケガを負う。2021年8月、代表候補に復帰し合宿に参加するも、アジアカップ出場は叶わなかった。2022年のワールドカップ予選(大阪開催)で代表復帰を果たしたものの、FIBA主催大会への出場はそれが最後となっている。
それでも、渡嘉敷はWリーグで変わらぬ存在感を示し続けた。今季は長年プレーしたENEOSを離れ、新天地・アイシンへ移籍。皇后杯準優勝に貢献し、レギュラーシーズンでは全28試合にスタメン出場。平均35.7分の出場で、14.71得点、8.14リバウンドと、数字でもチームをけん引した。

「まずスタートラインに立てたことがうれしいです。ただ、25人(の候補)に選ばれるのがゴールではないので、満足することなくやっていきたいと思っています」と語る渡嘉敷は、「残りたい。もうその一心です。外されないように、パフォーマンスもそうだし、体も作っていきたい」と続けた。ロサンゼルス2028に向けては、「パリオリンピックの解説をさせていただいた際に『もちろん私は(ロス大会を)目指しています』と言わせてもらったんですが、今日もそのつもりでこの場に立っています」と言葉に力を込めた。
リオでの感動、東京での悔しさ、パリでの無念――。すべての経験が再び代表への原動力となっている。
「皆さんから『もう一度、日の丸を背負ってプレーしている姿を見たい』という声をたくさんいただきましたし、身近な人たちからも『またやってほしい』という声が届きました。もちろん自分自身にも、もう一度コートに立ちたいという気持ちがあります。年齢は重ねましたが、『3年後』と言われても諦めきれない理由がある。もし『厳しい』と言われたら、それがベストを尽くした結果として受け止められると思いますが、パリに向けては少し不完全燃焼だったので、いまは強い気持ちで代表に臨めています」

パリ大会では、女子日本代表がリバウンド(93本)やペイントエリアでの得点(66点)で苦戦し、相手に大きな差をつけられた(相手はそれぞれ149本、146点)。その記憶も新しい中、高さを持つビッグマンの必要性はますます高まっている。
「高さの部分では、日本に足りないところを補強できると思っています」と自負を語る一方で、「スリーでは少しみんなより劣っているところがあると思います。それでも、今日コーリーHCから『思い切って打っていいよ』と言っていただきました。求められることにしっかり応えていきたいと思っています」と、プレースタイルのアップデートにも前向きだ。
渡嘉敷が目指すのは、単なる代表復帰ではない。変化するバスケットの中で、自らの役割を問い直し、新たな価値を提示することだ。「残りたい」――そのひと言に、揺るぎない覚悟と、未来への静かな闘志が宿っている。


文・写真/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)