月刊バスケットボール10月号

ゲインズ新HCが描く「アイデンティティ再構築」への道[女子日本代表]

ゲインズHCが語る“新しい日本代表”の設計図


2025年夏、女子日本代表が新たなスタートを切った。5月22日、女子日本代表の練習が公開され、コーリー・ゲインズ新ヘッドコーチが合宿についての考えや、今後のビジョンを語った。

まずゲインズHCが主張したのは「FIBA女子アジアカップ2025」(7月/中国・深圳)が「チームのアイデンティティを確立し、成長するための機会だ」ということ。東京2020オリンピックでの銀メダル獲得直後となった昨年のパリ2024大会では3連敗で大会を終了。新体制初となるアジアカップは、「未来を見据えたチーム作りの場。現時点で何が必要か、どこに課題があるかを見極める大会になります。特に若手選手たちにとっては、これまで経験したことのない規模の大会で力を試す場でもあります」とし、育成と実戦の両立を図る姿勢を示した。

初日の練習では、基本オフェンスとなる「ファイブアウト」を導入。考えずに反応する“リード&リアクト(読んで即応する)”スタイルをベースに据え、「まずはテンポとスペーシングに慣れさせ、そこからエグゼキューションの質を高めていく」と段階的な構築を意識している。

「例えるなら、インディアナ・ペイサーズのようなスタイル。ポジションレスでテンポが速く、カット、バックカットなど多彩な動きを使う。日本の選手たちにもそのベースを身につけてほしい」と語った。


最年少で参加の田中こころ(写真左)や中村ミラー彩藍(写真右)

今回の合宿メンバーでは、田中こころ(ENEOS)や中村ミラー彩藍(ペンシルバニア大)と19歳の2人も招集されている。ゲインズHCは「2人とも大きな可能性を持っている。特に田中はシュート力でコートを広く使える」と評価。一方で、「成長はコーチが押し付けるのではなく、チームや環境に慣れながら自然に起こっていくもの」と語り、個の成長とチーム作りを並行させて進める考えを示した。

また練習では選手たちがシュートを決めるたびに盛り上がるシーンが印象的だった。チームの雰囲気作りについて問われると、「私は“楽しいことは、より良い結果を生む”と信じている」とゲインズHC。「もちろん練習は厳しいもの。それでも、その中で笑顔があり、会話があり、互いに支え合える関係性があること。それが強いチームの証です」と語り、「勝つチームは練習後も一緒に過ごします。逆に負けるチームはすぐに解散します」と、これまでの経験をもとにチーム文化の重要性を強調した。


渡嘉敷や髙田など頼れるベテランも多い

合宿には、渡嘉敷来夢(アイシン)や東京2020の銀メダルメンバーである髙田真希(デンソー)や町田瑠唯、宮澤夕貴、林咲希(いずれも富士通)、長岡萌映子、オコエ桃仁花(いずれもENEOS)、東藤なな子(トヨタ紡織)も名を連ねている。「彼女たちは“勝つ”ことを知っている世代。若手にとって最高の手本になる存在」とゲインズHCは語る。
「私は2009年から日本代表に関わってきました。トム・ホ―バスHCの時代も、裏方として選手を支えていました。だからこの世代の選手たちは私のことをよく知っています。若手がその関係性を見ることで、私の指導スタイルを理解する手助けになると考えています」と、世代間のつながりにも期待を寄せる。

そういった言葉からもわかるとおり、ゲインズHCが指導で最も重視するのが“コミュニケーション”である。
「昔のようにX&O(戦術)だけで選手を動かす時代ではありません。今はスマートフォンで会話を済ませる時代。だからこそ“直接話す”ことが、より重要になっています」と語り、かつてニックスでアシスタントコーチを務めていた時にフィル・ジャクソン(元ブルズ、レイカーズHC、当時ニックス社長)から教わったという“対話の重要性”に言及。「フィルは『若い選手ともう話が通じない』と言って引退を決めました。それだけ、選手との“言葉のキャッチボール”がコーチングの根幹になっているわけです」と話し、現代の若手世代に寄り添う姿勢を鮮明にした。

女子日本代表は6月に三井不動産カップ2025(愛知大会)でチャイニーズ・タイペイ戦をこなしたあと、6月中旬から中国遠征を予定。7月3日・4日には東京・有明アリーナで開催される「三井不動産カップ2025(東京大会)」でデンマーク代表と2連戦を実施。そこから約10日後のアジアカップ本戦へと続いていく。



■2025年度バスケットボール女子日本代表チーム第1次強化合宿 メンバー表

【スタッフ】
チームリーダー 小栗 弘(公益財団法人日本バスケットボール協会)
ヘッドコーチ コーリー・ゲインズ(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アシスタントコーチ 宮田 知己(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アナライジングコーチ 伊藤 恭子(デンソー アイリス)
プレーヤーディベロップメントコーチ ブライアン・フィンリー(公益財団法人日本バスケットボール協会)
通訳 下條 海(公益財団法人日本バスケットボール協会)
スポーツパフォーマンスコーチ 臼井 智洋(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アスレティックトレーナー 荻野 まゆみ(公益財団法人日本バスケットボール協会)
アスレティックトレーナー 宮口 佳子(S-Life はりきゅう院)
アスレティックトレーナー 野原 陽子(長崎ヴェルカ)
チームマネージャー 古海 五月(公益財団法人日本バスケットボール協会)
チームマネージャー 小松 佳緒里(ENEOSサンフラワーズ)
テクニカルスタッフ 有賀 早希(富士通 レッドウェーブ)
【選手】※25名
髙田 真希(C / 185cm /35歳 / デンソー アイリス)
渡嘉敷 来夢(C / 193cm / 33歳 / アイシン ウィングス)
町田 瑠唯(PG / 162cm / 32歳 / 富士通 レッドウェーブ)
宮澤 夕貴(PF / 183cm / 31歳 / 富士通 レッドウェーブ)
長岡 萌映子(PF / 183cm / 31歳 / ENEOSサンフラワーズ)
安間 志織(PG / 162cm / 30歳 / トヨタ自動車 アンテロープス)
林 咲希(SF / 173cm / 30歳 / 富士通 レッドウェーブ)
川井 麻衣(SG / 171cm / 29歳 / デンソー アイリス)
内尾 聡菜(SF / 177cm / 27歳 / 富士通 レッドウェーブ)
赤木 里帆(PG / 167cm / 26歳 / 富士通 レッドウェーブ)★
栗林 未和(C / 188cm / 26歳 / 東京羽田ヴィッキーズ)
馬瓜 ステファニー(PF / 182cm / 26歳 / CASADEMONT ZARAGOZA)
オコエ 桃仁花(PF / 183cm / 26歳 / ENEOSサンフラワーズ)
藤本 愛瑚(SF / 179cm / 25歳 / ENEOSサンフラワーズ)
奥山 理々嘉(SF / 180cm / 25歳 / 日立ハイテク クーガーズ)
今野 紀花(SF 179cm / 24歳 / デンソー アイリス)
星 杏璃(SG / 171cm / 25歳 / ENEOSサンフラワーズ)
梅木 千夏(SG / 168cm / 24歳 / デンソー アイリス)
東藤 なな子(SF / 175cm / 24歳 / トヨタ紡織サンシャインラビッツ)
野口 さくら(PF / 182cm / 24歳 / アイシン ウィングス)
舘山 萌菜(SF / 177cm / 22歳 / 日立ハイテク クーガーズ)★
朝比奈 あずさ(C / 185cm / 21歳 / 筑波大学4年)
薮 未奈海(SF / 178cm / 20歳 /デンソー アイリス)
中村 ミラー 彩藍(SG / 178cm /19歳 / University of Pennsylvania)★
田中 こころ(SG / 172cm / 19歳 / ENEOSサンフラワーズ)★

【サポート選手】
ジョシュア ンフォンノボン テミトペ(C / 190cm / 26歳 / 富士通 レッドウェーブ)
イゾジェ ウチェ(C / 188cm / 20歳 / シャンソン化粧品シャンソンVマジック)

★印は日本代表候補選手として初選出
※年齢・所属は5月16日時点(Wリーグ自由契約選手リストに公示されている選手は引退、他チームへ移籍 、自チームへ残留が確定していないため、2024-25シーズン所属チームを表記)

【今後のスケジュール】
6月7日・8日:三井不動産カップ2025(愛知大会) 日本vsチャイニーズ・タイペイ
 会場:豊田合成記念体育館 エントリオ
6月16日〜 :中国遠征
7月3日・4日:三井不動産カップ2025(東京大会)
 会場:有明アリーナ
7月13日〜20日:FIBA女子アジアカップ2025(中国・深圳)







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