月刊バスケットボール10月号

WNBA

2025.05.16

WNBA「No Space for Hate」を発表|AI技術でSNSのヘイトも対策

差別やヘイトに立ち向かう、リーグ横断の取り組みが始動


5月16日、WNBAは2025年シーズンを通じたリーグ全体の社会的取り組みとして、新たなキャンペーン「No Space for Hate(憎しみや差別の居場所はない)」を発表した。これは、あらゆるヘイトや差別を排除し、尊重と包摂を促進することを目的としたものであり、オンライン、アリーナ内、選手やスタッフの周辺環境までを広くカバーするプロジェクトである。

本キャンペーンは、WNBAおよび加盟各チームの代表から成るタスクフォースと、WNBA選手会の協力のもと設計。主に以下の4つの柱から成り立っている。

・AI技術を活用したSNS上のヘイトコメントの検出と対策強化
・チーム、アリーナ、リーグ全体におけるセキュリティ体制の充実
・選手と関係者のためのメンタルヘルス支援の強化
・「反ヘイト」の価値観を共有し、行動に移す統一的な取り組み

WNBAのキャシー・エンゲルバートコミッショナーは、「WNBAの人気と影響力が拡大するなかで、『No Space for Hate』の始動を誇りに思います。これは選手を守り、バスケットボールの精神を守り、リーグの価値観を体現する全体的な取り組みです。バスケットボールは人々をつなぐ力を持つと信じています。我々は、アリーナにもSNSにも、エネルギーと情熱が満ちる空間を作りたいと考えています。憎しみや中傷の入り込む余地は一切ありません」と声明を発表している。



リーグはまたキャンペーンを通じ、アリーナ内のパブリックサービスアナウンス(場内放送)、オンコートのフロアグラフィック、試合前のウォームアップシャツ、そしてSNSコンテンツなど、全チームで統一したメッセージを発信していくとしている。

注目されるのは、AIを活用したソーシャルメディア上での差別的発言やハラスメントの監視システムだ。選手やチームとの連携のもと、この新たな技術によって悪質な言動からコミュニティを守るものだが、新たに強化・整備されたファン行動規範(Fan Code of Conduct)も、リーグ公式サイトやアプリ、SNS上で周知される予定である。WNBAとしては選手・家族・スタッフに向けたメンタルヘルス資源の周知・拡充も推進予定だという。

「No Space for Hate」は、WNBAが掲げてきた「多様性」「尊重」「団結」といった価値観を、より具体的にかたちにした取り組みである。もはやソーシャルメディアとスポーツは切り離せない関係にある一方で、度を越した表現や差別的言動が問題となるケースも少なくない。そうした現状に対し、WNBAが打ち出したこの包括的な対策は、コート上だけでなく社会におけるリーダーシップを体現するものとして注目されることになる。世界屈指の女子バスケットボールリーグによるこの試みは、他のスポーツリーグにとっても一石を投じるものとなりそうだ。





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