絈野夏海(東京医療保健大)新境地へ「輝きを保ちつつ進化する挑戦」

「無理をせずに点を取るということをだんだん覚えてきた」
「高校までは、どうしても“自分がやらなきゃいけない”という気持ちで攻める場面が多かったと思うんです。でも、大学に入ってからは、チームの一番強いところで攻めるという意識や、自分が無理をせずに点を取るということをだんだん覚えてきたというか。そういう部分は、自分としても成長しているんじゃないかなと思います」
得点源としての輝きはそのままに、アシストやゲームコントロールでも存在感を放つ──絈野夏海(東京医療保健大2年)は、新たな境地へと歩を進めている。

得点源としての働きをしつつ、ゲームメイクもこなした
5月4日に大会最終日を迎えた「第59回関東大学女子選手権大会」、東京医療保健大は決勝で白鷗大と対戦。99-73で勝利し、3年ぶり5度目の優勝を果たした。昨年度はスプリングトーナメント、オータムリーグ、そしてインカレと白鷗大に敗れ、準優勝に甘んじてきただけに、“絶対に勝ちたい”という強い意志がプレーの随所に表れた試合だった。実力ある新1年生の活躍も目立ったが、原動力となったのは大脇晴(4年)、絈野、五十嵐羽琉の3人。絈野はエース大脇と並んでチームトップの21得点をマークし、3Pシュートを7本成功させる圧巻のパフォーマンスも披露。「結構タッチが良かったので、積極的に打っていった感じでした。7本も決めていたんですね、すごい(笑)。うれしいです。久しぶりにこんなに決めたなという感覚です」と手応えを素直に語った。
絈野の3Pシュートといえば、語り草となるのが2023年のウインターカップ準々決勝・桜花学園戦だ。17点のビハインドで迎えた第4クォーター、岐阜女子高のエースだった絈野は7本の3Pシュートを沈めて追いつき、ジュフ・ハディジャトゥ(現在もチームメイト)の3Pプレーで61-60と逆転勝利をつかみ取った。この大会後、絈野はFIBA女子オリンピック世界最終予選に向けた日本代表合宿に初招集。当時の恩塚亨ヘッドコーチ(現・東京医療保健大監督)は、「3Pシュートがうまいだけでなく、プルアップやステップバックで打てるのが特別」とそのポテンシャルを評価していた。

絈野はFIBA女子オリンピック世界最終予選に向けた日本代表合宿に招集された
得点力に加わる視野と判断力
昨年4月、絈野は東京医療保健大へ進学。直後にあったスプリングトーナメントではスターターに抜擢され、大会2位タイとなる8本の3Pシュートを記録。新人賞に輝いた。だが、今の絈野を語るうえで欠かせないキーワードは「ゲームメイク」である。昨季のオータムリーグ後半からその役割を担うようになり、「正直なところ難しいです。その時の流れを読みながらプレーを選択しなければいけなくて難しい。けど、うまくいった時とかはすごく楽しいですね。1つ並びにしてやっていけたらなと思っています」と当時の心境を明かしている。
今回の決勝でアシストは2本にとどまったが、得点につながるパスを何度も供給し、印象的な働きを見せた。スコアラーとゲームメイカーの両立は容易ではない。だが、「自分ができる最大限のことをただ発揮するだけなので、例えばあるプレーではアシストが自分の中での最大限のプレーになったりします。試合の中で相手にアジャストしながら、動きを読みながら、考えてプレーしている感覚です」と語るように、冷静に試合の流れを読み取る判断力が加わってきた様子。一方で、「試合によって気持ちやプレーに波がある」と自身の課題も率直に認める。今季、東京医療保健大は「5冠(大学のトーナメント、新人戦、リーグ戦、インカレと皇后杯)」を目指して戦っている。その中で課される役割は小さくない。
その絈野を突き動かす目標の一つが“オリンピック”である。パリ五輪にリザーブとして帯同した経験は、彼女の意識を大きく変えたようで、「そこから気持ちの高まりが出たと言いますか、『これがオリンピックなんだ』という学びを得られました。次のオリンピックに出たいと思っています」と2028年ロサンゼルス五輪を目指すと語っている。
スコアラーとしての輝きを保ちつつ、ゲームメイカーとしての視野と落ち着きも備え始めた絈野。その着実な歩みを見ていると、近い将来、日本代表の中心を担う存在になると期待せずにはいられない。

スプリングトーナメントではベスト8賞に輝いた(写真左端)

文・写真/広瀬俊夫(月刊バスケットボールWEB)