FIBA 3x3アジアカップ2025の収穫——女子編

3x3日本代表が、3月26日から30日にかけてシンガポールで開催されたFIBA3x3アジアカップ2025で男女そろって好成績を収め、3月31日に帰国した。女子はアジアカップにおける過去最高位となる銀メダル獲得に成功。男子もメダルにあと一歩のベスト4フィニッシュで、プールラウンドで最終的な優勝国オーストラリアを倒すなど力強い戦いぶりだった。ここでは帰国当日に成田空港で行った女子日本代表チームへの取材から、好成績の要因をまとめてみたい。
■FIBA3x3アジアカップ2025での女子日本代表の戦績
プールラウンド(プールC)
日本 21- 6 シンガポール
日本 17-10 ベトナム
※日本は1位で決勝トーナメント進出
決勝トーナメント
準々決勝:日本 21-11 韓国
準決勝:日本 21-9 フィリピン
決勝:日本 17-21 オーストラリア
※日本は銀メダル獲得
今回の3x3女子日本代表は全員が初選出で、高橋芙由子(FLOWLISH GUNMA、163cm)、鶴見彩(MAURICE LACROIX、165cm)、西ファトゥマ七南(早稲田大、175cm)、野口佑季(boldiiies、173cm)という5人制トップリーグの現役選手を含まない人選。これ自体チャレンジと見ることもできた今大会だが、チームで銀メダルを獲得した上に高橋が総得点1位に輝く実り多い大会となった。
感謝と友情が健闘を銀メダルに結実させた
選手たちの言葉には、銀メダル獲得の要因と感じる内容がいくつも含まれていた。中でも印象深かったのは、今回は相当な部分でしぶとさや負けん気といった内面の強さがモノを言ったこと、また、互いの友情や3x3の歴史に対する敬意がそれを結実させるように作用していたことだ。
高橋に大会の総評を聞くと、以下のような話しをしてくれた。
「3x3専門の選手が主に選出されて、Wリーグ選手もいない中で初めての挑戦。正直、私たちが銀メダルを取れるとは誰も予想していなかったと思います。普段取り組んでいる戦術だとか知識をしっかり生かしてメダルにつなげることができて、本当によかった。4人ともしっかり自分たちの日本らしい持ち味を表現して、ハッスルできました」

高橋芙由子(写真/©FIBA)
西も、「例年の代表とはちょっと違うスタイルでしたが、その良さが試合を重ねるごとにどんどん出て、チームとしての一体感を持って気持ちで戦えました」と高橋の言葉を裏打ちするコメントをくれた。また、鶴見は大会直前のエピソードに触れながら、次のような話を聞かせてくれた。
「選考会に来ていた方々が、出国前の練習試合で相手をしてくださって、浅羽麻子さん(boldiiies)から、『誰かがした選択をみんなで正解にしていこう。そうしていけたらいいチームになっていくと思うから』という言葉をいただいたんです。私の中では、伊集さん(伊集南コーチ)がこの4人を選んだという選択を正解にするという思いがすごく強くて、そう解釈して臨んだ大会でした。自分たちに何ら確証はなかったですが、メダルを取りましょうと言ってスタートした自分たちが、『正解だったね』と自分たちでも思えるように、みんなにもそう思ってもらえるように頑張ろうという気持ちでずっとやってきて、結果的にこうしてメダルが取れました。チームとして本当に一体感を持って戦えたので、自分としてはすごくいい大会になりました」
野口は自身の控えめな性格から、「最初に強化合宿で集まったときには不安しかなくて」と明かした。しかし、「日を重ねるごとにみんなで協力して、悪かったところを話し合って共通理解を深めながらやってきました。みんながうまくまとまった結果として銀メダルにつながったので、すごく良かったです」と話していた。それぞれが違うチームに所属しておりほぼ初対面。お互いに不安を感じながらのスタートというのは鶴見も認めるところ。しかし、だからこそしっかりチームビルディングをしていこうという考えを徹底できたのかもしれない。「伊集さんも『ただプレーするだけではなくて、オフコートでもちゃんとコミュニケーションを取っていこうね』と言ってくれました。それが私たちに合っていたのかなと思います」と鶴見は話してくれた。
銀メダル獲得について、「本当に自信に繋がる結果。日本の3x3の道のりにはこれまでにたくさんの出来事がありました。自分たちも含めいろんなことを試して今回につながっているので、今までの3x3を作り上げる過程に関わってきた人たちのおかげです。そういった方々に感謝の気持ちを感じています」と胸の内をしみじみ語った高橋。その言葉からは熱闘の余韻も勝利の喜びもひしひしと伝わってきた。
得点量産と失点抑制につながったアグレッシブな意識
一方、プレー関連ではどんなことが成功の要因と考えられるだろうか。その一つは、大会前から高橋と西を得点源として個々の役割を強く意識して取り組んだオフェンスだ。日本のチーム平均得点19.4は大会2位。高橋は準決勝フィリピン戦での12得点を含む総得点39が大会全体1位(平均7.8得点も2位)。西も5試合全てで4得点以上を奪い大会5位の32得点(平均6.4得点は9位)としっかり役割を果たした。
西ファトゥマ七南(写真/©FIBA)
大会1位となる2Pシュート成功数11本(成功率48%も3位)という高橋の躍動で、ほかのメンバーたちが1Pシュートを狙いやすくなったことは、西の1P成功数が大会3位の20、野口の1P成功率が同2位の83%(18本中15本成功)だったことからもうかがえる。高橋が「私もファトゥも自分たちが点を取らないといけないという自覚は、このチームが編成された時点からありました」と話せば、西も「点数を積極的に取りに行く意識と、チームプレーとして最終的に自分とか芙由子さんがシュートを打つチャンスを全員で作って得点につなげられた」と振り返る。
鶴田と野口はデータ的に得点が少なかったが、高橋もその貢献を「2人が泥臭い部分をすごく頑張ってくれて、私たちにつなげてくれました。すごくそういうシーンが多くて、しっかり決め切ることができたことで本当に自信になりました」とたたえている。
野口佑季(写真/©FIBA)
野口は「オフェンスからというよりディフェンスをメインに、相手のシュートを落とさせてみんなでリバウンドを取ろうというところから頑張りました」と話した。高橋と西の得点力を信頼して自身のテーマを別の部分に見出しての頑張り。それは、敗れた決勝戦以外の4試合で平均失点を9.0に抑えたディフェンスに結果としてつながった。
鶴見によれば、機動力を生かして相手に2Pシュートを打たせないように徹底する考えだったとのこと。「ボールマンにどっちが付いているかわからない状態を作らず、2点シュートを消す人がどっちかを絶対にはっきりさせること。ベトナムにもフィリピンにも2Pシュートがすごく上手な選手がいたので、徹底マークして『決めさせない』ではなくて『打たせない』ようにした結果が数字に出ているかなと思います」
唯一オーストラリアにだけは、攻防両面でこうしたアプローチが十分に機能しなかったが、そこには戦術面とは別の要因もあるという。高橋は、技術レベルをもう一段階上げる必要性とともに、「オーストラリアのように大多数のメンバーをずっと固定してやってきているチームは、お互いの共通認識みたいなものがすごく深くて、その差もあります」と話す。
鶴見彩(写真/©FIBA)
オーストラリアとは、大会前にも練習試合を組んだとのことで、そのときは点差をつけられて敗れたという。しかし、最後は練習試合とは違ったバスケを展開できた。「伸びしろがあったわけで、そこが伸びたからこそ、もっともっとできるよねとそれぞれが感じたと思いますし、すごいなと思いました」と鶴見は手応えを言葉にした。西も、「技術面、フィジカル面の差はありますが、オーストラリアと2回対戦してみて、戦える相手ではあるなと。勝てるチャンスはあると思います」とチームの成長に自信を見せている。
大会終了とともにそれぞれの所属先に戻る4人のメダリストたち。メダルはもちろん彼女たちのものだが、経験や内面的な収穫は全ての3x3関係者の成長の糧になるに違いない。
文/柴田健
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