4年生が意地を見せた日本大!粘る東海大を振り切り2009年以来の王座奪還[インカレ2024]


試合終了のブザーが鳴り響くとともに、日本大のエースガード、#3米須玲音は顔をくしゃくしゃにしてその場にうずくまった。その姿はまるで、東山高3年時、膝から崩れ落ちた2020年のウインターカップ決勝のようだったが、流した涙の意味は全く異なる。あのときは大逆転負けを喫した悲痛な悔し涙、そして今回は数々の試練を乗り越え、日本一を成し遂げた喜びの涙。仲間たちが駆け寄り、日本大の選手たちはコート中央で歓喜を爆発させた。
学生主体で意見をぶつけ合い、築き上げた日本大のチーム力

12月15日、インカレ2024(第76回全日本大学バスケットボール選手権大会)は男子最終日を迎え、頂上決戦は日本大(関東4位)と東海大(関東3位)による顔合わせとなった。
準決勝で前年王者の白鷗大を下し、5年連続で決勝進出を果たした東海大に対して、日本大は優勝した2009年大阪インカレ以来の決勝進出。栗原貴宏(現福島ヘッドコーチ)がキャプテンを務め、篠山竜青(川崎)が3年生だった頃だ。あれから15年。その間、日本大は優勝から遠ざかるどころか、2部降格という屈辱を味わった時期もあった。長年、チームの指揮を執った川島淳一元監督も2020年に亡くなり、この15年の間にスタッフ体制もいろいろと移り変わった。
今年は城間修平ヘッドコーチから、日本大豊山高を30年以上指導してきた古川貴凡監督がメインで指揮を執るようになったが、基本的には輪をかけて学生主体に。練習中はもちろん、試合中の選手交代やタイムアウトも、選手たちが積極的に意見を交換しながら執り行った。キャプテンの#4井上水都は言う。
「いろいろ去年とは全く違う状況になったので、大変なこともたくさんありました。その中で意識してきたのは、自分が矢面に立って嫌なことなども引き受けること。同時に、チームへの声かけや練習中の雰囲気の作り方など、みんなが見ていない細かい部分までしっかりできるように意識してきました」
選手層が厚い分、実力を持ちながらなかなか試合に出られない選手も多く、チーム内に摩擦や不満が生じた時期もあったという。それでも、4年生の井上や学生コーチの新山岬らが時に嫌われ役も買いながら意見をぶつけ合い、チームの形を模索しながら築き上げていった。井上は「プレータイムに関係なく、自分の仕事をみんなが遂行してくれるチームになっていきました」と振り返る。

日本大は今シーズン、春のトーナメントで5位、秋のリーグ戦で4位と、徐々に調子を上げていった。その原動力となったのが、リーグ戦でケガから復帰した#3米須だ。卓越したアシスト力とコート全体を俯瞰できる広い視野を武器に、リーグ戦ではアシスト王を受賞。彼がひとたびボールを持てば、周りの選手も生き生きと輝いた。何より、ケガに苦しんだ過去2年間を乗り越えてきた米須自身が、喜怒哀楽を表現しながら人一倍楽しそうにバスケットをしていたのが印象的だった。
今年の日本大には、ほかにも#10新沼康生を筆頭に、#4井上や3年生の#13泉登翔など、声を出して味方を鼓舞できるムードメーカーがそろっていた。いざインカレが開幕してからも、チームの雰囲気は非常に良好。初戦の日本経済大戦こそ苦戦したものの、72-64で競り勝って勢いに乗ると、その後は神奈川大、名古屋学院大を倒して決勝へと進出。チームに漂う明るい雰囲気は、どこか現4年生が1年生だった頃、15年ぶりに優勝した2021年のスプリングトーナメントをほうふつさせた。
控え選手も含めた総力戦で東海大の猛追を振り切る
迎えた東海大との決勝戦。過去2年連続、インカレで東海大に敗れてきた日本大は、チャレンジャーとして1Qからエンジン全開だった。#13泉がこのQだけで10得点を挙げ、最初の10分間で27-14とする理想的なスタートダッシュに成功。その後も勢いは止まらず、最大19点差までリードを広げる展開になった。ただ東海大も、簡単には引き下がらない。粘り強いディフェンスを継続し、3Q終盤には#7前野幹太のゴール下や#18西田陽成のドライブでその差を縮めていく。
すると、この苦しい場面で奮闘したのが日本大のセカンドメンバーだ。中でも#51一戸啓吾は、勝負どころで連続3Pシュートを決め、悪い流れを断ち切る活躍。3Qを終えて59-44と、再び15点差のリードを確保する立て役者となった。主務(学生コーチ)の新山いわく「今年、スタメンの4年生は2人ですが、セカンドチームの5人はブラ(#23ボロンボ ムヘカグラシアブラ)以外が全員4年生。4年生の意地を見せてほしいという願望込みでセカンドチームを作ってきて、最後、一戸たちがそれを見せてくれました。同級生でもあるし、選手を信じられたのが良かったのかなと思います」。#51一戸ら控えメンバーの活躍こそ、今シーズンの日本大の強さを象徴していたのだ。
それでも、このまま黙っていないのがインカレの勝ち方を知る東海大。4Q、#3ハーパー ジャン ローレンス ジュニアを筆頭に攻撃的なディフェンスを仕掛けて日本大のオフェンスを封じ、#18西田の2連続3Pシュートも炸裂して怒とうの反撃。会場を味方に付け、大歓声に包まれながら追い上げムードを作り出した。残り2分20秒、#2轟琉維のドライブが決まってついに3点差と、試合を分からなくする。

ただここで、日本大は持ち味のディフェンスで我慢。相手のパスミスを誘発し、オフェンスでは#12コンゴロー・デイビッドのフリースローなどで逆転を許さなかった。この試合、ここまでシュートが不調で無得点だった#3米須も、最後にきっちり2本のフリースローを沈めて70-63。そのまま試合終了の時を迎え、東海大の猛追を振り切った日本大が悲願のインカレ制覇を成し遂げた。
15年ぶり、13回目となる王座奪還。その陰には、数々の要因が絡み合っていた。時に嫌われ役を引き受け、自己犠牲をいとわずチームを支えた4年生の成長。長いブランクを乗り越え、心からバスケットを楽しむ姿でチームを鼓舞したエースガード。そして、大舞台でも萎縮することなく自分の力を存分に発揮した下級生たちー―。たとえ一つでもそうした要素が欠けていたら、この優勝は成し得なかったかもしれない。まさに“チーム一丸”でつかみ取った、日本一の栄冠だった。

《大会結果》
優勝:日本大(15年ぶり13回目)
準優勝:東海大
3位:白鷗大
4位:名古屋学院大
【個人賞】
・最優秀選手賞:米須玲音(日本大#3)
・敢闘賞:西田陽成 (東海大#18)
・優秀選手賞 新井楽人(日本大#7)、コンゴロー・デイビッド (日本大#12)、ハーパー ジャン ローレンス ジュニア (東海大#3)、佐藤涼成(白鷗大#88)、永野威旺(名古屋学院大#14)
・得点王:西田 陽成(東海大#18)
・3ポイント王:西田陽成 (東海大#18)
・アシスト王:米須玲音(日本大#3)
・リバウンド王:オコエ・ピーター・ジュニア(名古屋学院大#0)、モンガ バンザ ジョエル(白鷗大#25)
・MIP賞:永野威旺(名古屋学院大#14)
・クリーン・ザ・ゲーム賞:東海大
・最優秀監督賞:古川貴凡(日本大)
※インカレの模様は1月25日発売の「月刊バスケットボール3月号」にて掲載!

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