江戸川大スペシャル対談〜粂川岳勤監督×石川優希監督〜「VAYoreLAと一緒に下剋上を狙いたい」
江戸川大男子部の粂川岳勤監督と、女子部の石川優希監督は、かつて現役時代に一緒にプレーしていた元チームメイト。現在は男女ともに関東2部リーグに所属し、それぞれの立場で1部昇格を目指しチャレンジを続けている。そんな江戸川大の男女バスケ部をサポートしているのが、奄美大島で創業され現在は日本中に展開を広げているバスケットボールウェアブランドの「VAYoreLA(バイオレーラ)」。粂川監督いわく「バイオレーラさんと江戸川大にはすごく共通点がある」。ここでは両監督の対談を通して、両チームの熱い思いを紹介する。
――お二人は、リンク栃木ブレックス(現・宇都宮)の下部組織だったTGI D-RISE(現在は解散)の元チームメートですね。最初の出会いはそのときですか?
粂川 そうです。まさか将来、同じ大学で監督になってこうして対談することになるとは…(笑)。
石川 僕が先に入団していて、後からくめ(粂川)が入ってきました。僕、すごく人見知りで初対面の人と話すのが苦手だったんですが、見てのとおりくめは人懐こいやつで、本当に気が付いたら仲が良くなっていた感じ。だから、第一印象をあまり覚えていないんですよ。気付いたらもうチームに溶け込んでいました。
粂川 当時のD-RISEって、みんな20代で若かったんです。年齢も近くて、いい意味で上下関係があまりなかった。だから年下の僕でも、いじりやすい先輩ばかりでした(笑)。その中でも石川さんはやっぱり正義感の強い真面目な先輩で、その印象はめちゃめちゃありますね。
男子監督 粂川岳勤氏(左)女子監督 石川優希氏(右)
――お互い若い頃から知っている分、男女それぞれの監督となった現在もコミュニケーションが取りやすそうですね。
粂川 はい。普段はコートの隣同士で練習していますし、バスケのことや学生のことなど、いろいろな話をします。もともと石川さんは、ブレックスのスクールコーチを辞めてから最初は男子のアシスタントコーチになったので、2年くらい一緒に男子を指導したんです。そのとき、『こういうバスケットをしたい』という未来予想図を一緒に描いてやってきたので、今こうして男女で分かれてからも、目指す方向性や共通する部分はあるのかなと。もちろん女子に移ってから、今いる女子選手に合わせてスタイルや戦術・戦略は変えているとは思いますが、大事にしてきた部分などは継承しているのかなと思います。
石川 そうですね。僕は江戸川大に来るまで、スクールで個人指導をしていたものの、チームでバスケットを作ることはほぼ素人でした。だから男子のアシスタントコーチになったとき、一からいろいろ学ばせてもらって、それは自分の指導のベースにあると思います。くめは先に江戸川大で指導していて、僕が来て2年目に正式にヘッドコーチになりました。僕は彼をサポートする立場で、コーチとしてのくめはすごく先を行っている感じがしましたね。選手のときからそうですが、くめは「ここは絶対譲らない」みたいな、ぶれない芯を持っている。そこが彼のコーチとしての魅力ですし、そのぶれない強さは見習いたいです。僕自身は悩んだり迷ったりすることが多いので…。
粂川 石川さんは、真面目過ぎるくらい真面目なんです(笑)。
石川 僕はくめとは真逆で、自己肯定感ゼロの男で…(笑)。理想はもっと自信を持ってチームを勝たせるような指導者になりたいのですが、今は選手に勝たせてもらっている部分が大きいです。思い悩んですぐ病みがちなので、くめとご飯に行って話をして、引っ張り上げてもらっています。
粂川 選手時代から、よく一緒にラーメンを食べていろいろなことを話してきました。熊谷と、細谷将司さん(福井)と、田渡修人さん(三遠)と5人でしょっちゅう行っていましたね。
石川 今も、江戸川大の主に男子スタッフでラーメン部のLINEグループがあるんですけど、僕も入れてもらってます。それぞれラーメンを食べたら報告が来る。くめは柏歴も長いので、おいしいラーメンをいっぱい知っていますね。
粂川 そのLINEグループは、毎日動いてます(笑)。
――良い関係性ですね。お二人が目指しているバスケットスタイルにも、共通点があるのでしょうか。
石川 そうですね。一緒にコーチをしていたこともそうですし、選手として同じチームでプレーしていた経験も大きくて、あのときのバスケットを今の学生たちにも落とし込んでいる部分はあると思います。僕は当時、リトアニアのアンタナス・シレイカコーチ(元宇都宮ヘッドコーチ)のバスケットに感銘を受けて、今でも理想形として、あのバスケットに近付けたい、という思いがあります。どうしても今の選手に合ったものを作らなければいけないですし、そっくりそのままとはいきませんが、エッセンスなどは取り入れているのかなと。
粂川 僕たちで、「あのときはああだったよね」と、選手時代のバスケットについて話すことも結構ありますね。
――では今年度のチームについて伺います。今シーズン、どのようなバスケットを追い求めてきましたか?
石川 女子部は、高さを生かしつつ、そこに平面的な速さをブレンドすることをコンセプトにやってきました。2年生で195cmあるオズルンバ グッドネス アヨミデは、関東新人で1部の選手を含めても得点王になったほどのスコアラーです。リーグ戦でもその高さを生かすバスケットを展開し、(2部Aブロックで)2位と200点以上の差を付けてぶっちぎりの得点王になりました。ただ、グッドネスの得点をベースにしつつも、前任の守屋(志保)先生の頃から江戸川大が大事にしてきたのが運動量。そこはしっかり練習を積んで、高さだけに頼らず走って平面的なバスケットを追求しています。リーグ戦の最初は上級生と下級生が思うようにかみ合わなかったのですが、終盤に進むにつれ、目指すバスケットがちゃんと形になってきたかなと。それが2年連続のインカレ出場につながりました。夏の新人インカレ、秋のインカレに両方出られるというのは、うちにとって非常にプラスになる経験だと思います。
粂川 男子部は、あまり年によってバスケットスタイルを変えずに、やりたいバスケットに合った選手をリクルートするようにしています。その中で、ほかと同じようなバスケットをしていたら、1部トップクラスの大学には勝てません。例えば男子は多くのチームに留学生がいますが、5番ポジションで真っ向から個人の力で勝負しようとしても難しい。だからうちでは、基本的にフォワードの留学生を取って、5アウトで外からでも中からでも攻められるスタイルを目指しています。昨年卒業したジャキテェ・ダオウダは特にそれを体現してくれた選手で、2年前に2部優勝、1部にチャレンジする権利を得られたのも彼の存在が大きかったです。昨年、1部では留学生2人が相次いでケガして苦しい戦いとなりましたが、1桁点差の試合も多く、自分たちの目指している方向性は間違いではないと、手応えを感じられる部分もありました。
――粂川監督は江戸川大の卒業生ですが、当時と比べてチームの変化をどう感じていますか?
粂川 僕が4年生のとき(2012年)に入れ替え戦に勝って2部昇格を決めましたが、当時は有名な選手なんて一人もいませんでした。あれから10年以上の月日が経ち、良い選手も来てくれるようになりましたし、環境もすごく良くなっていると思います。そこは北原憲彦さん(江戸川大名誉教授)、古田悟さん(現山梨学院大)、青木拓郎さん(現江戸川大部長)というすばらしい指導者の方々が伝統をつないで、そうした積み重ねがあって2年前に2部優勝、1部昇格を果たせたのかなと。チームが急に強くなったわけではなく、長い年月が積み重なって1部や2部で戦えるチームになったのだと思います。ただその一方で、僕が大学生の頃から変わらないのは、まだまだ江戸川大の名前を大学界で広められていないということ。「え、流山にあるの? 江戸川区じゃないんだ」とか言われますから(笑)。そこはもっと多くの方に知っていただきたいですね。おかげさまで、保岡龍斗(FE名古屋)というオリンピアン(3x3男子日本代表として東京オリンピックに出場)も輩出しているので、そういうところからも興味を持っていただきたいです。
――そんな江戸川大をサポートしているのが、VAYoreLA(バイオレーラ)です。男子部は昨年からユニフォームも変わりましたが、なぜ同社と提携を結んだのでしょうか。
粂川 バイオレーラさんと江戸川大は、すごく共通点があると感じているんです。バスケットボール以外の種目も取り扱うような大手スポーツメーカーに比べたら、正直、知名度も低いと思いますが、それでもすごく熱い思いをもって大手の競合に対抗しようとしている。そこは江戸川大も一緒で、大学としてはすごく小さいし知名度も低いけれど、本気で1部に定着して日本一になることを目指しています。だから境遇が似ているというか、一緒に立ち向かっていきたいなと。言葉は悪いですが、「今に見とけよ」という精神で、一緒に下剋上を狙いたいです。バイオレーラさんもそれをよく分かって僕らを応援してくれていますし、僕もこれから江戸川大を強くしていくことはもちろん、バイオレーラさんのことももっと広められればと思っています。
石川 女子も、ユニフォームでいえば男子が採用した1年後、今シーズンからバイオレーラさんにお願いすることになりました。今、くめが話してくれたような思いもありましたし、現実問題、初期費用としてもバイオレーラさんはだいぶリーズナブルな価格で提供してくれるんです。それに会社の規模が小さいからこそフットワークが早くて、納品のスピードなどがめちゃくちゃ早い。D-RISEやブレックスのスクールでもバイオレーラさんにはお世話になっていたので、どういう仕上がりになるのかも理解していたし、安心感があって、思い切って女子もバイオレーラに、ということになりました。実はユニフォームを作るにあたり、たくさんご迷惑をおかけしました。特に、部長の要望もあってユニフォームの紺色にすごくこだわって、限界まで濃くしてもらったんです。特別な色着けをしてもらってあの色が出せたので、女子は男子よりも黒に近い紺色になっています。そういう要望を親身になって聞いてくれて、いろいろ融通を利かせてくださるので、感謝していますね。
――最後に、今後に向けて目標や野望をお聞かせください。
石川 今シーズンからバイオレーラさんにお世話になることになり、どうすれば恩返しできるかと考えたらやはり結果を残すことかなと。その点では今シーズン、昨年に続いてインカレに出場できたということは、バイオレーラさんも含めて周りのお世話になっている人たちへの恩返しになったかなと思うので、すごくホッとしました。結果を出せば出すほど多くの人の目に触れると思いますし、こだわり抜いたユニフォームを着て、これからも胸を張ってバスケットをしていきたいです。
僕個人としては、選手としてはケガばかりで何も実績を残せず、D-RISEから飛躍した選手たちもいる中で「自分はD-RISEの負け犬だ」という思いがあります。でも、それをネガティブに捉えるのではなくて、だからこそ伝えられるものもあるのかなと。トップ選手と一緒に過ごした日々は貴重な経験でしたし、悔しさも知っている。それを今、学生たちに伝えて、チームのスタンダードをもっと上げていきたいです。インカレに出ることが当たり前になるとか、1部に昇格するとか、そういうステップを半歩ずつでも上がっていければなと思っています。
粂川 男子部の目標は、去年1部を1年だけ経験させてもらいましたが、もう一度1部に昇格して、今度は1部に定着すること。それを叶えた後、おのずと日本一までの道筋も見えてくると思うので、まずは1部昇格&定着が目標ですね。
あと、大学生は部活以前にまず学業が大事なので、うちは授業や単位についても結構厳しく指導しています。例えば単位にも、バスケ部だけのノルマがある。それは北原名誉教授が、アメリカのNCAAの文化を日本の大学にも取り入れてやってきて、今も継承している部分です。今の留学生もフル単ですし、4年生もほとんど単位を取り終えて授業がほぼない状況ですね。やっぱりバスケ部専用のアリーナを作っていただいたり、大学からすごく投資していただいているので、部として成績を収めることはもちろん、学生としてしっかり勉強して周りのお手本になることも恩返しなのかなと。勉強も部活も頑張って、1部に昇格するのが今のチャレンジです。試合でも、バイオレーラさんのユニフォームを着てプレーするわけですから、勝っても負けてもプライドを持って、自分たちがやっていることをぶらさずに戦っていきたいですね。