秋田ノーザンハピネッツを後押しするレジェンド長谷川誠インタビュー「秋田のファンは良いプレーをする選手には惜しみなく高評価をしてくれる」
秋田県と言えば古くは秋田いすゞ(のちに神奈川県横浜市を拠点として活動)が1984年に天皇杯を制したことをはじめ、日本人として初めてNBAプレーヤーとなった田臥勇太(宇都宮ブレックス)を輩出した能代工高(現・能代科学技術高)がセンセーションを巻き起こすなど、バスケ人気が非常に高い。中でも“バスケの街”と謳っている能代市にあって、観光スポットの一つになっているのがJR能代駅。構内にバスケットゴールが設置されホームにはフリースローラインもあり、訪れる人たちを楽しませてくれている。
そうした県内でのバスケ人気を背景に誕生したのが、秋田ノーザンハピネッツである。「バスケットLIVE」の応援ランキングでも、2020-21シーズンから3シーズン連続で1位を獲得するほど人気は根強く、現在もランキング上位をキープしている。今回は、生まれも育ちも秋田県、能代工高出身でクラブの取締役テクニカルディレクターを務める長谷川誠さんに話を聞いた。
1000社近い企業とアツいファンが
──以前、ある記事で「秋田県で一番人気のあるスポーツはバスケットボール」というのを見たことがあります。実際に秋田県のバスケファンの応援はかなり熱そうですね。
そうですね。能代工高という強豪校の存在は大きかったと思います。今は私が関わっている秋田ノーザンハピネッツの人気も高いです。ノーザンハピネッツは2009年に設立し、翌年の2010-11シーズンよりリーグ入り、2015-16シーズンのBリーグ初年度からB1クラブとして参入して、プロチームとして今シーズンで15年目を迎えました。試合会場を一度訪れてみれば分かると思いますが、秋田県はバスケ観戦者の年齢層がすごく高いのが特徴です。年配のバスケファンの方が多く、昭和生まれの方もたくさん応援に訪れてくれます。他の側面で言うならば、能代工高の試合などでバスケを見続けてきた人たちが多いので、ルールもよくご存じですし、バスケをどのように見れば面白いのかを知っています。そういう意味で、ノーザンハピネッツができてからもすんなりとバスケ観戦の流れができ上がって今に至っていると思います。
──バスケを見る目がとても肥えているということですね。そうすると、ある意味厳しい目で試合を見ているということでしょうか?
もちろん中途半端なプレーをしたら、文句とまでは言わないにしても、『あの選手はちょっと…』という言葉も聞かれるし、良いプレーをする選手に対してはものすごく高い評価をしてくれる方も多くいます。とにかく良いプレーをする選手には惜しみなく高評価をしてくれるんです。本当にバスケを見る目が肥えていますね。
──これまでも能代カップなどでは注目の試合になると多くの観客が入ると言われていましたが、Bリーグの試合観戦に訪れるファンの数は年々増えているのですか?
もちろん増えていますし、皆さん心の底から声を出して応援してくれます。シュートが入れば立ち上がって喜んでくれますし、負けた試合の後などは悔しがって泣いている人や、がっかりしながら帰っていく人の姿をたくさん見てきました。そういうファンがいるということを選手たちに伝えると、プレッシャーになるかもしれないけれど、逆にやりがいはあるのではないかと思いますね。
──10月5日の今季開幕戦のとどろきアリーナにも、秋田県から大勢の皆さんが応援に来ていましたね。見た印象として300人は超えていたと思います。
秋田県から応援に来てくださった方ももちろん多くいらっしゃいますが、関東近辺のノーザンハピネッツのファンも大勢来ていたのではないかと。その日、アリーナの2階売店でノーザンハピネッツのグッズを販売していたのですが、僕もそこに立って買いに来られたファンの方に『秋田県出身の方ですか?』と聞くと『生まれも育ちも川崎で、今も川崎に住んでいます。秋田の選手が好きだから応援しています。今日は15番のタナ―・ライスナー選手が好きで応援に来ました』と言う人がいるなど、アウェーゲームに応援に来るノーザンハピネッツファンも多いのではないかという印象です。
タナー・ライスナー
──アウェー戦に秋田在住の方以外のファンを増やすための活動もされているのでしょうか?
チームができて3年目ぐらいまでは、広報担当が前もってその試合の開催地にある秋田県支部(県人会)に連絡を入れて、『この日に試合があります。ノーザンハピネッツの応援に来てください』というアナウンスをかけたりもしていました。秋田県人会は日本中どこにでもありますから。2016年に始まったBリーグ初年度の開幕戦の相手は、宇都宮ブレックス(当時は栃木ブレックス)だったのですが、試合が終わった後に栃木県に住んでいる県人会の皆さんが集まってご挨拶に来てくれました。今はSNSでの発信もできますし、県外在住のファンクラブ会員も多く、アウェー会場に来てくれるファンは徐々に増えてきています。
──ファンだけでなく地元企業とのつながりも強いんですよね?
今年のパートナー企業の数は、250社くらいで、もう少し少額のサポートカンパニーやスポット協賛なども含めると、1000社くらいあると聞いています。社員が営業努力をしているのはもちろんのこと、クラブのパートナー企業さんが新たなスポンサーさんを紹介してくれることもあります。例えば、『取り引きしている会社に連絡しておくから、ちょっと営業に来てください』と声をかけていただくこともありました。クラブを応援してくださっている企業の方が他の企業を紹介してくれてつながるなんて、すごいことですよね。ノーザンハピネッツはそういった事例が多いと感じますね。だから、恵まれているんです。うちは親会社(大きなスポンサー)のような後ろ盾がいないクラブですからね。一般的に親会社というのは株式の半分以上を保持し、経営権を持っている会社です。でも、ノーザンハピネッツには大企業のオーナーはいないけれど、約1000社の企業の皆さんがパートナーとなって支えてくれているクラブです。
──地元企業の皆さんの後押しは心強いですよね。
昨シーズンはスポンサー収入、チケット収入、グッズ収入などを含めて売り上げが15億円になりました。ホームの平均入場者数に関しても昨シーズンは4342人平均で入っていましたから、2026年からスタートする新たな国内最高峰リーグ『Bプレミア』入りの条件の2つはクリアしました。アリーナ要件についてはあともう少しというところですが、次の4次審査(2024年12月)でクリアを目指しています。
──そういえば、長谷川さんのお嬢さま(円香さん)もスポーツ界では有名ですよね。知人に「長谷川さんのお嬢さんはドライビングコンテスト(ドライバーで飛距離を争うゴルフ競技)の日本チャンピオン」だと聞きました。
今は大学4年生でゴルフをやっているのですが、競技ゴルフではなくドラコンのプロで、日本選手権4連覇(2021~2024年) 中です。ドラコンはまだマイナーなスポーツですが、本人が好きなこと・熱中することがあって世界一を目指そうと頑張っているので、来年大学を卒業したらゴルフなどのスポーツで秋田を盛り上げる何かをしたらどうかと勧めています。
──長谷川さんは、秋田県を今後どう盛り上げていきたいですか?
僕はずーっとプレーヤーとしてバスケに関わってきました。ノーザンハピネッツでは選手だけでなく、ヘッドコーチ、育成、リクルートも含めていろいろやってきましたが、これからはバスケだけでなく、その他も含めて秋田県の魅力を発信していきたいと思っています。秋田県の温泉をはじめ観光スポットや、こんなおいしいものが食べられるとか、住んでみたい、行ってみたいと皆さんに思ってもらえるような情報も発信できたらと思っています。
日本のトップリーグや国際大会で彼のプレーを見てきたが、どんな相手にも決してひるむことなく立ち向かっていく頼もしい選手、メンタルの強さは抜群だったと記憶している。そんな長谷川さんから、インタビュー終わりにプライベートの話題が出てきた。最近は実家の農業の手伝いをしていて、お米、枝豆、スイカを栽培しているそうだ。ちょうど稲刈りの時期ということもあり、秋田ノーザンハピネッツU18の選手たちが稲刈りのお手伝いをしてくれるそうで、『収穫したお米を試合会場で販売し、その売り上げの一部を子どもたちの遠征費に充てたいと思っている』と教えてくれた。実際にU18の選手たちがホームゲームでお米を販売して『完売しました!』といううれしい話も伝わってきた。選手時代からの親しみやすさ、変わらない人柄が伝わってくるインタビューだった。
長谷川 誠
はせがわ・まこと/1971年4月2日生まれ/186㎝/秋田県出身/能代工高→日本大出身/アグレッシブなポイントガードとして大学卒業後は松下電器(新人王、MVP獲得)、ゼクセル、いすゞ自動車、新潟アルビレックス、秋田ノーザンハピネッツなど日本のトップリーグで活躍。日本代表選手としても1994年アジア競技大会(3位)、1995年ユニバーシアード(銀メダル)、さらに31年ぶりに出場権を獲得した1998年世界選手権(現・ワールドカップ)ほか、数々の国際大会で日本をリード。また、3x3女子日本代表のヘッドコーチとしても尽力している。
そうした県内でのバスケ人気を背景に誕生したのが、秋田ノーザンハピネッツである。「バスケットLIVE」の応援ランキングでも、2020-21シーズンから3シーズン連続で1位を獲得するほど人気は根強く、現在もランキング上位をキープしている。今回は、生まれも育ちも秋田県、能代工高出身でクラブの取締役テクニカルディレクターを務める長谷川誠さんに話を聞いた。
1000社近い企業とアツいファンが
クラブをバックアップ
──以前、ある記事で「秋田県で一番人気のあるスポーツはバスケットボール」というのを見たことがあります。実際に秋田県のバスケファンの応援はかなり熱そうですね。そうですね。能代工高という強豪校の存在は大きかったと思います。今は私が関わっている秋田ノーザンハピネッツの人気も高いです。ノーザンハピネッツは2009年に設立し、翌年の2010-11シーズンよりリーグ入り、2015-16シーズンのBリーグ初年度からB1クラブとして参入して、プロチームとして今シーズンで15年目を迎えました。試合会場を一度訪れてみれば分かると思いますが、秋田県はバスケ観戦者の年齢層がすごく高いのが特徴です。年配のバスケファンの方が多く、昭和生まれの方もたくさん応援に訪れてくれます。他の側面で言うならば、能代工高の試合などでバスケを見続けてきた人たちが多いので、ルールもよくご存じですし、バスケをどのように見れば面白いのかを知っています。そういう意味で、ノーザンハピネッツができてからもすんなりとバスケ観戦の流れができ上がって今に至っていると思います。
──バスケを見る目がとても肥えているということですね。そうすると、ある意味厳しい目で試合を見ているということでしょうか?
もちろん中途半端なプレーをしたら、文句とまでは言わないにしても、『あの選手はちょっと…』という言葉も聞かれるし、良いプレーをする選手に対してはものすごく高い評価をしてくれる方も多くいます。とにかく良いプレーをする選手には惜しみなく高評価をしてくれるんです。本当にバスケを見る目が肥えていますね。
──これまでも能代カップなどでは注目の試合になると多くの観客が入ると言われていましたが、Bリーグの試合観戦に訪れるファンの数は年々増えているのですか?
もちろん増えていますし、皆さん心の底から声を出して応援してくれます。シュートが入れば立ち上がって喜んでくれますし、負けた試合の後などは悔しがって泣いている人や、がっかりしながら帰っていく人の姿をたくさん見てきました。そういうファンがいるということを選手たちに伝えると、プレッシャーになるかもしれないけれど、逆にやりがいはあるのではないかと思いますね。
──10月5日の今季開幕戦のとどろきアリーナにも、秋田県から大勢の皆さんが応援に来ていましたね。見た印象として300人は超えていたと思います。
秋田県から応援に来てくださった方ももちろん多くいらっしゃいますが、関東近辺のノーザンハピネッツのファンも大勢来ていたのではないかと。その日、アリーナの2階売店でノーザンハピネッツのグッズを販売していたのですが、僕もそこに立って買いに来られたファンの方に『秋田県出身の方ですか?』と聞くと『生まれも育ちも川崎で、今も川崎に住んでいます。秋田の選手が好きだから応援しています。今日は15番のタナ―・ライスナー選手が好きで応援に来ました』と言う人がいるなど、アウェーゲームに応援に来るノーザンハピネッツファンも多いのではないかという印象です。
タナー・ライスナー
──アウェー戦に秋田在住の方以外のファンを増やすための活動もされているのでしょうか?
チームができて3年目ぐらいまでは、広報担当が前もってその試合の開催地にある秋田県支部(県人会)に連絡を入れて、『この日に試合があります。ノーザンハピネッツの応援に来てください』というアナウンスをかけたりもしていました。秋田県人会は日本中どこにでもありますから。2016年に始まったBリーグ初年度の開幕戦の相手は、宇都宮ブレックス(当時は栃木ブレックス)だったのですが、試合が終わった後に栃木県に住んでいる県人会の皆さんが集まってご挨拶に来てくれました。今はSNSでの発信もできますし、県外在住のファンクラブ会員も多く、アウェー会場に来てくれるファンは徐々に増えてきています。
──ファンだけでなく地元企業とのつながりも強いんですよね?
今年のパートナー企業の数は、250社くらいで、もう少し少額のサポートカンパニーやスポット協賛なども含めると、1000社くらいあると聞いています。社員が営業努力をしているのはもちろんのこと、クラブのパートナー企業さんが新たなスポンサーさんを紹介してくれることもあります。例えば、『取り引きしている会社に連絡しておくから、ちょっと営業に来てください』と声をかけていただくこともありました。クラブを応援してくださっている企業の方が他の企業を紹介してくれてつながるなんて、すごいことですよね。ノーザンハピネッツはそういった事例が多いと感じますね。だから、恵まれているんです。うちは親会社(大きなスポンサー)のような後ろ盾がいないクラブですからね。一般的に親会社というのは株式の半分以上を保持し、経営権を持っている会社です。でも、ノーザンハピネッツには大企業のオーナーはいないけれど、約1000社の企業の皆さんがパートナーとなって支えてくれているクラブです。
──地元企業の皆さんの後押しは心強いですよね。
昨シーズンはスポンサー収入、チケット収入、グッズ収入などを含めて売り上げが15億円になりました。ホームの平均入場者数に関しても昨シーズンは4342人平均で入っていましたから、2026年からスタートする新たな国内最高峰リーグ『Bプレミア』入りの条件の2つはクリアしました。アリーナ要件についてはあともう少しというところですが、次の4次審査(2024年12月)でクリアを目指しています。
──そういえば、長谷川さんのお嬢さま(円香さん)もスポーツ界では有名ですよね。知人に「長谷川さんのお嬢さんはドライビングコンテスト(ドライバーで飛距離を争うゴルフ競技)の日本チャンピオン」だと聞きました。
今は大学4年生でゴルフをやっているのですが、競技ゴルフではなくドラコンのプロで、日本選手権4連覇(2021~2024年) 中です。ドラコンはまだマイナーなスポーツですが、本人が好きなこと・熱中することがあって世界一を目指そうと頑張っているので、来年大学を卒業したらゴルフなどのスポーツで秋田を盛り上げる何かをしたらどうかと勧めています。
──長谷川さんは、秋田県を今後どう盛り上げていきたいですか?
僕はずーっとプレーヤーとしてバスケに関わってきました。ノーザンハピネッツでは選手だけでなく、ヘッドコーチ、育成、リクルートも含めていろいろやってきましたが、これからはバスケだけでなく、その他も含めて秋田県の魅力を発信していきたいと思っています。秋田県の温泉をはじめ観光スポットや、こんなおいしいものが食べられるとか、住んでみたい、行ってみたいと皆さんに思ってもらえるような情報も発信できたらと思っています。
日本のトップリーグや国際大会で彼のプレーを見てきたが、どんな相手にも決してひるむことなく立ち向かっていく頼もしい選手、メンタルの強さは抜群だったと記憶している。そんな長谷川さんから、インタビュー終わりにプライベートの話題が出てきた。最近は実家の農業の手伝いをしていて、お米、枝豆、スイカを栽培しているそうだ。ちょうど稲刈りの時期ということもあり、秋田ノーザンハピネッツU18の選手たちが稲刈りのお手伝いをしてくれるそうで、『収穫したお米を試合会場で販売し、その売り上げの一部を子どもたちの遠征費に充てたいと思っている』と教えてくれた。実際にU18の選手たちがホームゲームでお米を販売して『完売しました!』といううれしい話も伝わってきた。選手時代からの親しみやすさ、変わらない人柄が伝わってくるインタビューだった。
長谷川 誠
はせがわ・まこと/1971年4月2日生まれ/186㎝/秋田県出身/能代工高→日本大出身/アグレッシブなポイントガードとして大学卒業後は松下電器(新人王、MVP獲得)、ゼクセル、いすゞ自動車、新潟アルビレックス、秋田ノーザンハピネッツなど日本のトップリーグで活躍。日本代表選手としても1994年アジア競技大会(3位)、1995年ユニバーシアード(銀メダル)、さらに31年ぶりに出場権を獲得した1998年世界選手権(現・ワールドカップ)ほか、数々の国際大会で日本をリード。また、3x3女子日本代表のヘッドコーチとしても尽力している。
写真/©︎B.LEAGUE 文/飯塚友子