緊急招集から9日でチームハイパフォーマンスの西田優大「自チームのことをやったその先に代表活動がある」
3Q終了時点でチームハイの16得点。日環アリーナ栃木はこの日、計18得点を挙げた比江島慎の日になる予定だった。しかし、4Qにシーホース三河の“モンスター”が覚醒する──。
男子日本代表は、トム・ホーバスHCの続投決定後初の公式戦、アジアカップ予選Window2のモンゴル戦に臨んだ。日本は富樫勇樹、比江島慎、吉井裕鷹のオリンピック組に、代表初招集の帰化選手アレックス・カークを先発起用。そして、先発最後のスポットを担ったのが、この試合でチームハイの21得点を記録することになる西田優大だった。
周知の通り、西田はホーバスHCが男子代表のヘッドコーチに就任して以来、その才覚を認められて日本代表の常連となった選手。だが、今回のWindow2に向けた合宿には当初招集されていなかった。西田のプレーはよく知っている、だからこそ、今回はほかの選手のプレーを見てみたかった。ホーバスHCはこのような意図で、西田の招集を見送っていた。
しかし、ケガやコンディション不良等に伴う相次ぐ合宿参加者離脱を受け、西田を緊急招集。合流1週間足らずながら、西田はいきなり先発として起用されることになった。
「完全オフモード」の帰省から一夜
「(招集される前は)完全にオフモードで、徳島に一度とんぼ返りしてから合宿に合流しました。でも、それで逆にフレッシュになれたのかなと思います。徳島では何をやるという時間もなく夜中に着いてから、すぐに合宿に呼ばれたので次の日の朝に帰るような感じでした。11月12日に佐古さん(佐古賢一/三河チームディレクター)に代表の仮登録だけすると伝えられて、それを了承してその日中に徳島に帰りました。そうしたら13日の朝に招集されたという感じです(笑)」
西田は合宿参加からモンゴル戦に至るまでの経緯をこう説明した。
そんな「完全オフモード」から短期間でナショナルチーム仕様のコンディションを作り上げるのには大きな苦労があったはずだが、呼ばれたからには淡々と自身の役割をこなすことにフォーカスするのが西田の考えだ。
モンゴルを相手に4Qで4本の3Pシュートをさく裂させたことは当然すばらしく、結果的にそれが93-75のブローアウトゲームに持ち込む大きな助けになった。加えて、3Pシュートとミドルレンジジャンパーを多投するモンゴルに対して、ロングリバウンドを多く確保。前半だけで9リバウンド、トータル12リバウンドもチームハイの成績だ。ノーマークのゴール下を落とすなど、本人もいくつかの反省点を挙げていたが、対人ディフェンスでもモンゴルの選手をよく抑え、日本にアドバンテージを作った。総じて「求めてくれるものにはしっかり応えられた」と西田は安どの表情を浮かべた。
昨年のFIBAワールドカップでは代表に選ばれながらもプレータイムは限定的で、大会後にはうれしさと悔しさを入り混じらせたような涙を見せていた。パリ・オリンピックは直前に選考レースから脱落し、仲間の勇姿を見守るしかなかった。さぞ代表に懸ける思いが強いに違いない。そう思っていたが、当の本人は冷静だ。
「まずは自チームのことをしっかりやろうと考えていました。自分のレベルアップだったり、チームのことをやったその先に代表活動があると僕は思っているので。自チームでコンディション管理やワークアウトにしっかり取り組んでいたから、急遽呼ばれてもしっかり結果を出せたと思います。一つずつ目標をクリアしていく、そんな気持ちで夏が終わってから取り組んできました」
具体的には、体重と筋肉量を変えずに体脂肪率を5%ほど落としたり、スマートフォンなどのデバイスの使用時間を制限したり、技術面ではプルアップ3Pの精度アップに努めたという。プルアップ3Pについてはこの試合では見られなかったが、いつにも増してドライブの鋭さやフットワーク、身のこなしがしなやかであるように映ったのは、そうした取り組みの成果と言えるのではないだろうか。
「(テーブス)海が小さなケガをして、ジョシュ(ホーキンソン)もケガを抱えていました。経験ある選手がいなくなってしまって、キャンプには経験ある選手が富樫とマコ(比江島)の2人だけ。モンゴルのロスターを見たときに、我々にはほかに経験のある選手が必要でした。優大は普段はコンボガードですが今日はスモールフォワードとして出場して、相手の3番の選手にマッチアップしました。そして、モンゴルの選手は優大とのマッチアップで厳しい時間帯を過ごしました。優大にとってはいつもと異なるシチュエーションでしたが、私は彼が楽しんでいたように思います。(オフェンスでは)彼はそこまでボールを運ぶ必要がなく、シュートを決め始めた。リバウンドもすばらしかったです」
これまではコンボガードとして西田を評価していたというホーバスHC。このモンゴル戦でスモールフォワードまで任せられる可能性を見いだせたことは、チームにとっても西田自身にとっても収穫といえるだろう。
西田は取材冒頭に冷静ながら固い決意と共にこんな話をしていた。
「ケガ人が出たり、ポジションに選手がそろわないときだけ呼ばれる。そういう選手だと思われるのは嫌だった」
呼ばれるからには呼ばれただけの価値をコーチに示す。あくまでも西田が見据えるのはアジアカップやワールドカップなどの本大会ロスターに選ばれることだ。
モンゴルはFIBAランキング108位と日本(同21位)にとって明らかに格下の相手であり、この1試合だけで西田が選考レースで飛び抜けるということはないだろう。だが、相手はどうあれ日本代表でこれだけのパフォーマンスが発揮できることを改めて証明した西田のプレー、そして緊急招集にもブレないメンタルは感嘆に値する。冒頭の“モンスター”という表現は、三河のライアン・リッチマンHCが常々西田にかけている「モンスターになれ」という言葉からだ。
この日の西田は、日環アリーナ栃木の中で最大の脅威となる、モンスターだった。
男子日本代表は、トム・ホーバスHCの続投決定後初の公式戦、アジアカップ予選Window2のモンゴル戦に臨んだ。日本は富樫勇樹、比江島慎、吉井裕鷹のオリンピック組に、代表初招集の帰化選手アレックス・カークを先発起用。そして、先発最後のスポットを担ったのが、この試合でチームハイの21得点を記録することになる西田優大だった。
周知の通り、西田はホーバスHCが男子代表のヘッドコーチに就任して以来、その才覚を認められて日本代表の常連となった選手。だが、今回のWindow2に向けた合宿には当初招集されていなかった。西田のプレーはよく知っている、だからこそ、今回はほかの選手のプレーを見てみたかった。ホーバスHCはこのような意図で、西田の招集を見送っていた。
しかし、ケガやコンディション不良等に伴う相次ぐ合宿参加者離脱を受け、西田を緊急招集。合流1週間足らずながら、西田はいきなり先発として起用されることになった。
「完全オフモード」の帰省から一夜
代表合宿に緊急招集
「(招集される前は)完全にオフモードで、徳島に一度とんぼ返りしてから合宿に合流しました。でも、それで逆にフレッシュになれたのかなと思います。徳島では何をやるという時間もなく夜中に着いてから、すぐに合宿に呼ばれたので次の日の朝に帰るような感じでした。11月12日に佐古さん(佐古賢一/三河チームディレクター)に代表の仮登録だけすると伝えられて、それを了承してその日中に徳島に帰りました。そうしたら13日の朝に招集されたという感じです(笑)」西田は合宿参加からモンゴル戦に至るまでの経緯をこう説明した。
そんな「完全オフモード」から短期間でナショナルチーム仕様のコンディションを作り上げるのには大きな苦労があったはずだが、呼ばれたからには淡々と自身の役割をこなすことにフォーカスするのが西田の考えだ。
モンゴルを相手に4Qで4本の3Pシュートをさく裂させたことは当然すばらしく、結果的にそれが93-75のブローアウトゲームに持ち込む大きな助けになった。加えて、3Pシュートとミドルレンジジャンパーを多投するモンゴルに対して、ロングリバウンドを多く確保。前半だけで9リバウンド、トータル12リバウンドもチームハイの成績だ。ノーマークのゴール下を落とすなど、本人もいくつかの反省点を挙げていたが、対人ディフェンスでもモンゴルの選手をよく抑え、日本にアドバンテージを作った。総じて「求めてくれるものにはしっかり応えられた」と西田は安どの表情を浮かべた。
昨年のFIBAワールドカップでは代表に選ばれながらもプレータイムは限定的で、大会後にはうれしさと悔しさを入り混じらせたような涙を見せていた。パリ・オリンピックは直前に選考レースから脱落し、仲間の勇姿を見守るしかなかった。さぞ代表に懸ける思いが強いに違いない。そう思っていたが、当の本人は冷静だ。
「まずは自チームのことをしっかりやろうと考えていました。自分のレベルアップだったり、チームのことをやったその先に代表活動があると僕は思っているので。自チームでコンディション管理やワークアウトにしっかり取り組んでいたから、急遽呼ばれてもしっかり結果を出せたと思います。一つずつ目標をクリアしていく、そんな気持ちで夏が終わってから取り組んできました」
具体的には、体重と筋肉量を変えずに体脂肪率を5%ほど落としたり、スマートフォンなどのデバイスの使用時間を制限したり、技術面ではプルアップ3Pの精度アップに努めたという。プルアップ3Pについてはこの試合では見られなかったが、いつにも増してドライブの鋭さやフットワーク、身のこなしがしなやかであるように映ったのは、そうした取り組みの成果と言えるのではないだろうか。
慣れない3番起用で結果を残す
ホーバスHCは西田のプレーについて「サプライズはない」と笑顔を見せ、こう語っていた。「(テーブス)海が小さなケガをして、ジョシュ(ホーキンソン)もケガを抱えていました。経験ある選手がいなくなってしまって、キャンプには経験ある選手が富樫とマコ(比江島)の2人だけ。モンゴルのロスターを見たときに、我々にはほかに経験のある選手が必要でした。優大は普段はコンボガードですが今日はスモールフォワードとして出場して、相手の3番の選手にマッチアップしました。そして、モンゴルの選手は優大とのマッチアップで厳しい時間帯を過ごしました。優大にとってはいつもと異なるシチュエーションでしたが、私は彼が楽しんでいたように思います。(オフェンスでは)彼はそこまでボールを運ぶ必要がなく、シュートを決め始めた。リバウンドもすばらしかったです」
これまではコンボガードとして西田を評価していたというホーバスHC。このモンゴル戦でスモールフォワードまで任せられる可能性を見いだせたことは、チームにとっても西田自身にとっても収穫といえるだろう。
西田は取材冒頭に冷静ながら固い決意と共にこんな話をしていた。
「ケガ人が出たり、ポジションに選手がそろわないときだけ呼ばれる。そういう選手だと思われるのは嫌だった」
呼ばれるからには呼ばれただけの価値をコーチに示す。あくまでも西田が見据えるのはアジアカップやワールドカップなどの本大会ロスターに選ばれることだ。
モンゴルはFIBAランキング108位と日本(同21位)にとって明らかに格下の相手であり、この1試合だけで西田が選考レースで飛び抜けるということはないだろう。だが、相手はどうあれ日本代表でこれだけのパフォーマンスが発揮できることを改めて証明した西田のプレー、そして緊急招集にもブレないメンタルは感嘆に値する。冒頭の“モンスター”という表現は、三河のライアン・リッチマンHCが常々西田にかけている「モンスターになれ」という言葉からだ。
この日の西田は、日環アリーナ栃木の中で最大の脅威となる、モンスターだった。
写真/石塚康隆 文/堀内涼(月刊バスケットボール)