佐賀バルーナーズ クラブ代表・ヘッドコーチが語る「地域への恩返し」〜田畠寿太郎社長、宮永雄太HCインタビュー〜
※バルーナーズDAOについてはこちら:https://ballooners.jp/dao/system/
田畠寿太郎社長「少しずつでも恩返ししていきたい」
――クラブの社会貢献活動に対する方針を教えてください。
田畠)私が代表になったのが2021年で、クラブに関わり始めたのが2020年。ちょうどコロナ禍という中で、いくつかクリニックはやらせていただきましたが、地域貢献活動といってもなかなかできない状況でした。私がクラブビジョンとして掲げているのは「日常を佐賀バルーナーズにする」ということです。例えば家庭や職場での会話や食事のタイミングでバルーナーズの話が出る。そういう景色を目指してやっていきましょうと話をしています。また、自分たちは何のために働くのかということも毎回のように話をしています。
――佐賀バルーナーズの特徴として、多くの地方自治体と連携して活動をされていますね
田畠)なぜ地域と連携するかというと、先ほど語ったビジョンにあります。自治体ごとに課題があるわけです。一緒に活動し、僕らができることをやっていく。我々としてはクラブを知ってもらい、ファンになってほしいという思いもありますし、地域に根ざしたクラブになるべく、一緒にやらせていただいているという状況です。
――そういった活動が年間15万人という来場者を集める結果に導きました。ホームタウンである佐賀市を含めて、土地柄や住む方はどんな特徴があると捉えていますか?
田畠)東京に出ていた私が26歳の時に佐賀に戻ってきました。そういった経験も踏まえて感じるのは、やはり親切でやさしいということです。これは宮永HCも選手も口を揃えていうことです。住みやすいというのは非常にあると思います。暮らしやすいし、子育てもしやすい土地だと思います。
――昨季、「バルーナーズDAO*」という画期的な試みをスタートさせました。どういう経緯で開始されたのでしょうか?
*=DAOとは分散型自律組織の意味。ブロックチェーン技術を利用して管理される組織のことでトークンというデジタル資産を持つ参加者全員がルールに基づいて意思決定を行い、活動する
田畠)DAOはファンクラブや我々が主体的に発信するようなものと違い、分散型、自立型の組織でトークンの所有者がみんなで決めるという特徴があり、それが長所でもあります。僕らに地域文化に根付く活動をしなければならないという課題があるように、所有者が考える課題もあります。佐賀に関して、地域に関しての課題に対するアクションをみんなで決めて実行するため、僕らがやるものとは違った種類の活動になりやすいわけです。極端な例を挙げると、バスケットボールに興味はないけど、地域の課題に対して何かをしたいという方でもいいわけです。それでも、僕らの裾野を広げることにつながると思い、始めさせていただきました。
――クラブで行う社会貢献活動とバルーナーズDAOで実践する活動というのは角度が変わるということですね。
田畠)おっしゃる通りです。皆さんで課題を出して実行するのかしないかもみんなで決めるというところが基本になります。どうしてもクラブがやると自分たちが主体になります。だけど公平性という観点では、こっちを解決したいという意見もあります。非常に新しい意見を聞くこともできますし、さまざまな方が関わるというのは素晴らしいです。まだ立ち上げから1年しか経っていないこともあって、試行錯誤ではありますが、これから幅が広がるはずだと思っています。
――具体的には昨季、バルーナーズDAOの企画として「若者の日」*を実現されましたね。
*=SAGAアリーナを若者でいっぱいにすることを目的にしたイベントで、22歳以下限定で無料観戦できる試みを実施した
田畠)大学など22歳以下の若者にお声がけして行ったイベントでした。おかげさまで佐賀でもバスケットボールの知名度が上がってきていますが、観戦まではという方も少なくなかったのです。そういった方々が試合を見て「佐賀でこんな体験ができるんだ」「こんなに楽しいとは思わなかった」といった正直な声をいただきました。これは新たなファンにつながる層だと思いますし、もっとできることがあるんじゃないかと思う機会でもありました。何より喜んでもらったというのはうれしかったですね。一方で、オペレーションなどで課題があったところもありますので、ブラッシュアップしていければと考えています。
――クラブとして、選手やスタッフの社会貢献活動への熱量、意欲というのはどう感じていますか?
田畠)選手にしてもスタッフにしても、非常にありがたい状況であると感じています。一方で理想だとは思っていません。昨年、ボストン・レッドソックスの吉田正尚選手が「選手たちは誰に言われることなく自然と病院を慰問したり、社会貢献活動を行ったりしている」という話をしていたのですが、実際に調べてみるとレッドソックスの経営陣がサポートしてもらえる価値のあるチームを作るというミッションを掲げているからなんだと思います。そういう状況を作るためには、我々フロントやクラブ自体がもっと社会に貢献するというメッセージを強く持っていなければならないと思います。もちろん、1年や2年で変わるものではないので、熱量を持って発信したり、伝えていくという過程が必要だと思います。
――そういった意味で、活動を重視する宮永HCの存在は大きいですね。
田畠)本当に、今の選手たちの姿勢があるのは宮永HCのおかげだと思っています。選手の一番の仕事はプレーすることと考え、それ以外というと理解を得られないケースもあると思います。宮永HCが「今、バスケットボールができている環境は当たり前じゃないんだ」という思いを持っているからこそ、推進してくれていることに感謝しています。
――最後に社会貢献活動について、佐賀バルーナーズとして目指す姿を教えて下さい。
田畠)ようやく僕らはB1に昇格することができて、Bプレミアというところも見えてきました。本当にありがたいことです。ただ、これはゴールではなくてスタート地点であり、多くの方の助けがあったからこその話なんです。よくスタッフには、「みんなに貢献していくことで、最終的にクラブにそれが返ってくる」と言っています。ただ、まだトップクラブといえる体制が整っているわけではないですが、地域に恩返しが出来るフェーズになったと思っています。少しずつでも恩返ししていく、地域貢献していけるようにやっていきたいです。
宮永雄太ヘッドコーチ「同じ志を持っている選手が集まってきてくれている」
――2018年に設立してすでにB1で戦っているということは驚くべきことだと思います。一方で地域に根ざすクラブとして社会貢献活動も重視しているのでしょうか?
宮永)そうですね。私自身、現役時代に千葉ジェッツに3年間在籍していました。その時の代表が島田慎二チェアマンで、地域に対してどういう思いを持ち、どういう行動が必要かということを本当に勉強させていただきました。私の中にもその思いは強く残っていますし、田畠社長も同じ思いを持っている方です。そういった環境ですので、社会貢献活動もとても大切にしています。
――そういう思いもあって、HC自ら積極的に社会貢献活動に参加されているわけですね。
宮永)そうですね。子供たちとバスケットボールで触れ合う機会も多く設けていますが、企業の皆様にお話をする機会もすごく増えてきました。まだ設立して間もないクラブである佐賀バルーナーズがどのようにB1に挑戦しているか、そういったことをお話させてもらっています。
――井上選手を始め、選手の皆さんが高い意識を持っているように思います。宮永HCも強い思いを持っていらっしゃるとおっしゃっていましたが、クラブとしていい方向に向かっているという印象でしょうか。
宮永)そうですね。選手たちとは契約の話をする際に、自分たちが何を大事にしているのかというのはしっかり伝えています。それを受けて、同じ志を持っている選手が集まってきてくれていると思っています。その中でも井上選手は、そういう面でも引っ張っていってくれていると思います。
――宮永HCが要職に就任されたのが2011年でした。3年間の中で感じた佐賀の方の特徴、魅力とはどんなところでしょうか?
宮永)すごくやさしくて温かいですね。これは共通して言えることだと思います。佐賀県という場所は、他に比べるとあまり娯楽やエンターテイメントがありません。そのような土地にバルーナーズというクラブができ、SAGAアリーナという大きなアリーナ、空間が生まれたということを皆さんが楽しんでくれていると感じていますので、今後も続けていきたいと思います。
――プロクラブとして、社会貢献活動をする意義とは何でしょうか?
宮永)やはり皆さんからご支援をいただき、成り立っているわけです。そこが土台だと思いますし、我々のような地方クラブにとってそこはとても大切だと思いますので、今後もその思いで活動していきたいという思いがあります。
――大切にする地域という中で、若い子供たちに与える影響は大きいと思います。どんなメッセージやエネルギーを受け取ってほしいでしょうか?
宮永)なかなか言葉で表現するのが難しいですね。一番大事なのは、直接肌で感じてもらうことだと思います。我々の選手が学校を回って一緒にバスケットボールをやっている中で、その選手たちがSAGAアリーナで活躍しているシーンを見ている中で得られるものがあると思います。そういったものを提供し続けていきたいです。
――B1初年度の昨季は合計15万人という来場者となりました(平均5,061名はB1クラブ中5位)。これだけの数字を記録できたのも、オフコート活動あってこそということでしょうか?
宮永)そうだと強く感じます。学校や企業を訪問し、街中で歩いている際にも「試合がおもしろかったよ」といった声をいただきます。そういった活動を地道に続けてきたからこそだと思いますし、アリーナでの体験をもっともっと魅力あるものにしていきたいと思います。
取材協力:Bリーグ
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文/広瀬俊夫(月刊バスケットボール)