月刊バスケットボール12月号

大学

2024.10.21

ケガを乗り越え充実のシーズンを過ごす米須玲音「河村勇輝さんの背中を見て自分も一歩ずつ」

2020年のウインターカップ。この年はコロナ禍でインターハイが中止となり、日本一を狙う高校生にとっては、冬のタイトルが文字通り唯一のチャンスとなっていた。

東山と仙台大明成による男子決勝は劇的だった。

終始、先行していたのは東山だった。米須玲音を中心としたスピーディーなトランジションと緻密な連係から生まれるハーフコートオフェンスで明成を圧倒し、最大で17点のリード。3Qを終えた時点でも55-42としており、多くの観衆が東山の初優勝を予感していた。

しかし、4Qは東山にとって悪夢だった。スタメンの平均身長が191.8cmの明成が敷くゾーンディフェンスに東山の足が止まる。みるみる点差は縮まり、残り5秒で山﨑一渉がターンアラウンドジャンパーをねじ込んで逆転されると、これが決定打となった。歓喜に沸く明成と崩れ落ちる東山の画はあまりにも対照的で、勝負の世界の劇的さと残酷さを表すのには十分すぎる結末だった──。

あっという間に月日が流れ、米須は大学4年生になっていた。


あの負けから4年…
米須玲音の現在地

あの2020年決勝のコートで膝から崩れ落ちてから、もう4年が経った。

日本大進学後には膝と肩の大ケガに見舞われ、満足にプレーできているとは言いがたい。米須は「肩と膝をケガして2度も長く離脱してしまったので、あっという間に4年生のリーグになってしまいました。でも、やっぱり試合をしていると長く感じるというか、試合ができている分、良い時間を過ごせているかなと感じていますね」と、この4年間を振り返る。

今シーズンはここまでケガなく過ごし、関東大学リーグ戦で全18試合に出場。合計84アシスト(1試合平均4.7本)は1部のアシストリーダーだ。

10月20日の拓殖大戦では、16分59秒の出場で8得点、6リバウンド、5アシスト。高校時代に観る者をアッと驚かせたパスは健在で、加えて得点力やディフェンスにも磨きをかけながら優勝を目指している(日本大は同試合終了時点で14勝4敗の3位)。米須はここまでのリーグ戦を「充実している」と語る。

「勝ち負けはありますけど、ベンチの外で見ているときよりも自分がやっているからこそ、より勝つうれしさを味わえています。リーグ戦が始まって2か月くらいですが、充実していますね」

口調は穏やかだった。

拓殖大戦では序盤で2桁リードと先行したものの、米須がベンチに下がっている間に相手の巻き返しに遭い、前半を終えて30-37のビハインド。しかし後半、コートに戻った米須を中心に日本大の反撃が始まる。コンゴロー・デイビッドの強烈なインサイドを起点に、新井楽人や山田哲汰が要所でスコア。さらに、米須もオープンの3Pシュートを連続で決め切るなどリズムを取り戻し、最後は79-60で勝利した。

「前半で7点ビハインドになってしまったので、やらないといけない、パスばかりしていたら勝てないと思っていました。ああいう展開でフリーでボールが回ってきましたし、練習からビハインドの展開でのシューティングもやってきたので、自信を持って打つだけでした。僅差の場面で連続で決められたのは個人としても一歩成長できたし、チームとしても大きなシュートだったかなと思います」(米須)

高校時代からパスは一級品だったが、得点は控えめだった。その意味では、攻めどころでしっかりと自らスコアした点は、米須の言う成長を感じられた部分だ。





それでも、得点力はまだまだ課題。この試合で2本射抜いた3Pもまだ完全に武器とは言えない。オープンコートでのタッチダウンパスやスキップパスはBリーグですぐにでも通用しそうな感覚を持っているものの、近年重視されるペイントアタックからのキックアウトなどは印象には残らなかった。米須自身も自ら攻めることは今シーズンのテーマであると明かす。

「伸ばすべきなのは、やっぱり得点力じゃないですかね。出る分数にもよりますが、それを言い訳にするのは良くないです。今年は僕が2桁得点と5アシスト以上をやっていけたら、チームが負ける確率も低くなると思っています。日大はガードがコントロールしている部分があるので、2桁得点と5アシスト以上を目標に、少しずつレベルアップしている段階ではあるのかなと思います」

前述のとおり、拓殖大戦の米須のスタッツは8得点、5アシストと、彼の設定した基準にはあとシュート1本分足りなかった。決して得点力がないわけでも、シュートが苦手なわけでもないのだから、その伸びしろは間違いなくるはずだ。

一方、ディフェンスでは確実なレベルアップを感じさせた。高校時代は細身だった体はかなりガッチリとし、相手ガードにぴたりとマークスながらチームメイトにも声をかける。単純に技術が上がったというよりも、意識の変化だろう。米須は高校バスケ引退後に特別指定選手制度を活用して、川崎ブレイブサンダースで活動していた。米須が加入する前シーズンの川崎はBリーグ初年度の2016-17シーズン(ファイナル進出)以降では最も優勝に近いシーズンを送っており、勝率でリーグ2位タイ(31勝9敗/.775 ※コロナ禍でシーズンが中断し、試合数が1つ多かったアルバルク東京が32勝9敗で首位)、平均得点でリーグ3位(83.0)、そして平均失点でもリーグ5位(74.5)という鉄壁を誇っていた。

強度の高いディフェンスを伝統とするクラブで活動し、米須の意識も大きく変化した。そして、同じくして進学先の日本大もディフェンシブなスタイルへとシフトしていった。米須は「高校までは、正直そこまでディフェンスをやってなかったです」と笑い、「高校の終わりに川崎に入って、自分も先輩たちの背中を見てディフェンスを頑張ろうと思うようになりました。それに、僕が入った頃の日大はディフェンスがベースのスタイルになってきていたので、それも大きかったです。川崎でディフェンスをしなければいけないという背中を見せてもらって、さらに日大でレベルアップさせてもらったという感覚です」と続けた。

ケガに苦しんだ中でも、4年間で間違いなく彼は変化した。









写真 ©︎B.LEAGUE、中川和泉、編集部/文 堀内涼(月刊バスケットボール)

PICK UP

RELATED