月刊バスケットボール10月号

大学

2024.09.04

令和のリスタンダードを──日体大・藤田将弘監督と根本研監督のチャレンジ「カレッジスポーツの社会的価値向上を目指す」

左から藤田将弘氏(日体大男子バスケットボール部監督)、豊島錦也氏(スポルディング・ジャパン)、根本研氏(日体大女子バレーボール部監督)

日本体育大学は1893年の創立以来、国内の体育大学において第一線を走り続けている。バスケットボール部はインカレで男子14回、女子19回の優勝を成し遂げ、バレーボール部は男子6回、女子29回の頂点に立っている。そんな日体大を率いる男子バスケット部の藤田将弘監督と女子バレー部の根本研監督は共に同校OBの先輩・後輩という間柄。互いに日本におけるカレッジスポーツ発展への強い思いを秘める2人の対談が実現した。

伝統を残しつつ新風を吹かせるために

──現時点での日本のカレッジバスケ、カレッジバレーの改善点はどこだと考えていますか?

藤田 これは教育文化も関係していると思いますが、日本ではスポーツは「する」ものだという歴史を今も歩んでいると感じています。最近はいろいろなところから情報を得られる時代に変わってきましたが、やはり歴史というのは根強くて、大学の中でもバスケットはバスケット、バレーはバレーといったように各チームが頑張っているだけで、その部活の関係者外にまでなかなか情報が広がっていかない状況です。正直、バレー部の先週の試合結果すらも、こちらから聞かなければ分からない。でも本来、選手は大学内でスターでなければいけないと思うんです。

根本 それは藤田さんがおっしゃったように文化背景の違いだと思いますね。女子バレー部は4年に1回アメリカに遠征に行って、さまざまなビッグカンファレンスの大学と試合をさせていただいていました。そこで体験したアメリカのゲームというのはとにかくワクワクしかないような環境だったんですよね。今、バスケットはアリーナスポーツとして国内で成功していると感じますし、カレッジでも男子バスケット部の試合を見ると、(演出などを)いろいろしていてすごいなと感じます。
一度、藤田さんがバレーのリーグ戦を見に来てくださったときに言われた印象深い一言があったのですが、それが「おれが中学生のときに見ていた試合とあんまり変わらないな」という言葉でした。バレーは(競技以外の面が)あまり変わっていないんです。でも、アメリカではチャンピオンシップゲームなどになると、すごいスアリーナを使って演出もあります。あの感覚は文化の違いだと感じますね。だからこそ、日本でカレッジスポーツを盛り上げてアメリカのような文化を作るのはすごくチャレンジングなこと。バレー界では今秋からSVリーグが開幕しますが、SVリーグとBリーグがタイアップしていくような時代に突入していかないと全体のムーブメントを起こせる状況になっていかないんじゃないかと思います。例えば午前中はバスケの試合を観て、午後はバレーの試合を観るとか。もしかしたら、そういった環境作りが日本におけるこれからの観戦モデルになってくるのではないかなと思います。フィールドスポーツと違いアリーナスポーツはキャパシティーが限られるので、その中でゲームをスポンサードしていく。そこをショーアップするときにバスケットの得意なことをバレーに生かす、バレーのファン層をバスケットにも波及するようなことが必要だと思います。



──藤田監督はかねてから競技面での強化に加えて、チームのブランディングにも力を入れています。そもそもスポルディングとのつながりは何がきっかけだったのですか?

藤田 バスケット部は2年前にスポルディングとパートナー契約を結んで新しいロゴを作るところから始まりました。もともと契約以前からスポルディングとはいろいろな話をしていて、その中でバスケット部はメーカー変更のタイミングを考えていたんです。そんなときに根本さんにスポルディングの話を持っていきました。なので、実はバスケット部よりも先にバレー部の方が先にスポルディングのユニフォームを作っていたんですよね。ただ、歴史がある部活の中で新しい風を吹かすというのは大変なことだったと思います。

根本 まさにそうで、特にバレーはウェア関係もとてもクローズドな世界でやってきた歴史があります。現在でも日本バレーボール協会をスポンサードしているメーカー以外のウェアを着るのには制限があるのですが、個人的にはより市場を解放していかなければ今後の競技の発展はないだろうなという肌感がありました。スポーツというのはいろいろな方が携わって初めて成り立っているのに、バレー界はこれでいいのかと。そこでスポルディングとまずはアウターウェアから変えていく取り組みを始めました。
そもそも、バスケットもバレーも日体大がウェアスタイルを全国に広めていった元祖と言っても過言ではなくて、結果的に全国の部活動で「バスケットはこう」「バレーはこう」というスタイルになっていったんです。

藤田 それを変えていこうとしているのが、今の時代の日体大で監督をしている我々だったということですね。競技面で自分のチームを強くしていく、育てていくのは指導者として当たり前ですが、(ブランディングなどの)それ以外の部分でビジョンを掲げていくのが本来の我々の使命なのではないかと思うんです。

根本 ウェアにしても今の学生が着たいと思ったものを着るとか、『これ、格好良いな』と思ったものが取り入れられない。それはカレッジスポーツじゃないと思うんです。冒頭にアメリカの話をしましたが、向こうのコーチや選手と肌で触れて感じた雰囲気は日本にはないものでした。我々が練習をしていると1人でも「入れてほしい」と言ってくる学生がいたり。そうしたフランクな雰囲気、スポーツが国境を越えていくような文化がすごく好きなんですよね。アメリカのスポーツであるバレーボールと、アメリカのメーカーであるスポルディング。これは面白いと思って日体大のバレー部で取り入れさせていただきました。

藤田 そして遅ればせながらバスケット部もスポルディングと契約をして、まずはロゴデザインが始まりました。今はバレー部にも同じロゴを使わないかと話を持ちかけて、実現したところです。色は変えていますけどね。

根本 バスケットはチーム名よりもロゴが先行していくことが多いと思うのですが、バレーはあまりチームロゴという文化がないんですよね。日体大の大学としてのロゴもあるのですが、かつて各クラブでロゴを大学のものに統一する話が出たときもうまくまとまりませんでした。実際に変えようとすると各クラブで歴史があり過ぎて…。例えばバレー部であればトリコロールを長い間採用していてなかなか変えられないとか。

藤田 だからバレー部のライオンズロゴはトリコロールのカラーを採用しているんですよ。伝統やこだわる部分は残しつつ、変えていきましたね。

根本 アメリカンフットボール部がゴールデンベアーズという愛称から先駆けてチームカラーをブルー、愛称をライオンズに変更した歴史がありました。バスケット部はもともとグリズリーズでしたから。そう考えると徐々に他の部活動もライオンズに変わっていく可能性はあると思います。

藤田 そのためには我々自身がそれを変えられるだけの大学内での立場を得る必要がありますし、時間もかかります。だからこそ、僕が根本さんに歩み寄ったように、これから時間をかけていろいろな部活動にアプローチしていこうと考えています。最終的には日体大として、クラブの愛称やロゴを統一していきたいですね。(つづく


【スポルディングのカレッジスポーツへの思い】

カレッジスポーツには学費はもちろん、部費や遠征費、寮費といった多額の費用がかかる。しかし、日本のカレッジスポーツへの協賛企業は他のカテゴリーに比べて少なく、そうした影響もあって大学ではスポーツを継続できない学生もいるというのが、現実として突きつけられている課題の一つだ。その中でスポルディングは、『アメリカのカレッジスポーツのように、より多くの企業が協賛することで学生の支援や地域貢献につながり、それが最終的にはカレッジスポーツの地位向上となる』という日体大の思想に賛同し、協賛を開始した。スポルディング・ジャパンのシニアセールスマネージャーで、自身も日体大の卒業生である豊島錦也氏は「ブランドとして高品質な製品を提供することはもちろん、藤田監督や根本監督のような独自の考えを持っている先生方や学校、団体には喜んで協賛させていただきたいです」と、アツい思いを語った。恐れずチャレンジしていくマインドは日体大とスポルディングに共通する部分だ。





日本のスポーツは「する」文化。アメリカでは「観る」文化

──トップダウンではなく、現場からカレッジスポーツを変えていこうという取り組みですね。

根本 そうですね。今回のロゴマークのようにデザインを統一してカラーリングで遊んだりするのは面白いと考えています。ただ、全クラブが、となるとやはりトップダウンで指示が降らないと変えるのは難しいという現実もあると思います。

藤田 その中でも指導者は徐々に次の世代に引き継がれていて、我々が学生だった頃からはほぼ入れ替わったと思います。今は40代、50代の先生方が各クラブを見ているので、これからまた変わっていく余地はあるなと思っています。

 
左が男子バスケット部、右が女子バレー部のロゴマーク 

──例えばアメリカのNCAA(全米体育協会)などは収益面なども含めてビジネスとしても成り立っています。どこがそれを成功させている理由だと考えていますか?

藤田 まず、アメリカでは“その街にその大学あり”という文化がありますね。だからこそ、その大学のクラブを自然に愛するようになりますし、クラブが地域に根付いています。ビジネスとは少し違うと思いますが、まず街作りの中で大学があると街自体も明るくなるというか。そういう感覚は日本との違いだと感じますね。

根本 アリーナにしても競技を観せるための施設として作られているじゃないですか。一方で日本ではギャラリーすらない。少しでもギャラリーを設けておけば地域の方々に試合を観ていただくこともできるのになと思います。僕はハワイ大と長年付き合いがあるのですが、バスケットの試合は本当に演出も格好良いしいつも超満員。バレーもかなりの観客が入ります。競技としての人気度は違えど、大学の試合を観るための年間シートなども販売されていますから、プロと同じような仕組みですよね。それを楽しみに毎週末、家族や地域の方が試合観戦に来て、試合後にはご飯を食べて帰るといった流れです。

藤田 日本の高校や大学では昼間に試合をしていますよね。早ければ朝の9時や10時から始めているわけですから、そもそもの仕組みが違います。観せるものでもあるという考えであれば、試合開始は夜の方がいい。休日の日中は家族で出かけて、夕方から体育館に行って地元の大学を応援する。でも、試合開始が昼だとそれだけで休みが1日潰れてしまいます。

根本 日本ではバスケットもバレーも「するスポーツ」というイメージですよね。一方で野球やサッカーは「観るスポーツ」という視点も広がっていると思います。そういう意味では我々も今後、「するスポーツ」から「観るスポーツ」にシフトしていける機会は訪れると思います。バレーに関しては国内の競技人口はすごく多い。だから、週末は自分たちがプレーしているから試合は観ないわけです。でも、夜に日本代表の試合があればアリーナは超満員になるので、同じスポーツでもあり方の違いが大きいと思いますね。


第59回日筑定期戦(2024.4.21)より




文/堀内 涼(月刊バスケットボール)、写真/山岡邦彦

タグ: 日本体育大学 スポルディング

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