月刊バスケットボール10月号

NCAA

2024.08.21

山﨑一渉(ラドフォード大)インタビュー——「ロサンゼルス・オリンピックにはぜひ出たい」

©月刊バスケットボール

仙台大附明成高卒業後の2021年に渡米し、NCAAディビジョン1のラドフォード大に入学した山﨑一渉が帰国し、Tokyo Samuraiのサマーキャンプ会場に姿を見せた。折しもパリ・オリンピックのバスケットボールが盛り上がっている真っただ中の86日。その会場で、自身の現状や日本のバスケットボールの発展ぶりについて話を聞くことができた。


山﨑は昨夏、ラドフォード大の一員として世界大学バスケットボール選手権(World University Basketball Series=WUBS)に出場する予定だったが、開幕直前の練習中に右膝を痛め、帰国こそしたもののプレーすることができなかった。診断は前十字靭帯断裂、内側側副靭帯損傷、半月板損傷という重傷。2023-24シーズンは全休となり、我慢の日々を送り、今日を迎えている。この日は練習への参加はしなかったが、Tokyo Samuraiのキャンプに集まった若者たちに激励のメッセージとアドバイスを送り、若者たちのプレーを見守っていた。その場はアメリカの大学のコーチから若者たちが直接指導を受けられる環境。自身もTokyo Samuraiのコンサルティングを介してラドフォード大進学を決めた山﨑だけに、若者たちがこのキャンプを本場での挑戦に向けた足掛かりにしてくれたらという思いがあるようだ。



Tokyo Samuraiのキャンプには参加した若者たち。中央奥に山﨑の姿も(写真/©月刊バスケットボール)


練習開始前、山﨑は参加者に激励のメッセージを送っていた(写真/©月刊バスケットボール)

「ケガする前よりもいいプレーヤーになれたと感じています」

——昨シーズン開幕3ヵ月前ぐらいのケガでしたよね。1年間どんな経過だったのですか?

開幕の頃にはリハビリとかは全部順調にいって、走るようになったりとかシュートできるようになったりしたあとは、やっぱり自分で自主練したりとか、ウエイトもちろんリハビリと併せてやっていて、チームプラクティスのときは上(ジョギングコース)で走ってとか、そういう感じで過ごしました。

——そういうふうにできるようになったのは早かったんですか?

自分の感覚的には確かに早かったです。もう走り出しれるようになった、もうシュートできるようになった、もうジャンプできるようになった!...という感じでした。

——去年のチームの戦いぶりはどんなふうに見ていましたか?

シーズンの前半はすごいいい感じで、みんなも本当に一つになって戦えて、勝ちも多くて。ハイメジャーのウエストバージニア大にも勝ったり。カンファレンスゲームになったときに、あんまり自分たちが思うように勝てずに非常に苦しんだ後半戦でした。

——どの辺が難しかったんですか?

カンファレンスのシーズンに入ったときに、自分たちのシステムがうまくいかないというか、本当に何か悪い流れをチームとして全然乗り切れなかったです。そのゲームだけじゃなくて自分たちが何回も連続で負けてしまったときに、自分たちで変えて前に進めなかったのは感じますね。

——出られなくて歯がゆかったでしょうね。

そうですね。やっぱりベンチで見ていても苦しい試合が多かったです。シーズン途中からはアウェイゲームには行かないで、残ってトレーニングをやらせてもらっていましたけれど。

——仲のいいケニオン・ジャイルズ選手をはじめ、仲間とどんな声を掛け合っていたんですか?

彼は部屋が一緒なので、帰って部屋にいるときに「どう思う」とか、いろんなことを自分にも聞いてきてくれて。そういうのもあってやっぱり自分もチームの中にいる感じがしたなっていうふうに思えました。そういうコミュニケーションをとっていました。

——八村塁選手(ロサンゼルス・レイカーズ)からは何か激励をもらったりしましたか?

クリスマスにレイカーズの試合を見にいって塁さんと話したんですけど、ケガについて「焦らないで、時間をしっかり使って強くなって戻っておいで」と言ってもらえました。

——2024-25シーズンは3年目で、役割的に少し変わったりするのかなと思いますが。

アメリカではトランスファーも多いので、今年のチームでは自分がラドフォード大にいる期間が一番長いんです。だからやっぱりコーチのことも自分が一番よく知っているし、練習やコーチが求めているものも自分がわかると思うので、率先してチームを引っ張っていきたいと思っています。

——学校や普段の生活的にはどうですか?

英語もだいぶ伸びて、今ではもう日常会話のコミュニケーションでは全然困ることもなく、チームメイトやコーチともたくさん話しています。勉強面も、英語に慣れた分だいぶ楽になりました。

——シューターとして期待されていたと思いますが、今シーズンはどんなプレーヤー像を描いていますか?

リハビリもうまくいきましたけど、ケガで休んでいる間に自分で自分を見つめ直して、足りないところに取り組む時間がすごくありました。その分自信を持ってプレーしたいですね。特にシュートはかなり打ち込んできたので、自信を持って打っていきたいなと思うし、チームとして自分に打たせてくれたり、その役割を任せてくれているので、期待に応えられるような高確率でシュートを決めていきたいです。

——今もうスクリメージ的なことをやってどんどんシュートしていっているんですか?

そうです。

——離脱していた間に自分の中で特に成長できたなと感じているところはありますか?

1年間リハビリと練習をしながら、チームメイトたちのプレーを見てきて、「ここでこうするべきだな」「こうした方がいいな」というような、プレーしていると見えないところが結構見えて、そこはすごく良かったなと思います。シュートとかドリブルも毎日やっていたので伸びているなと思います。全ての練習に参加するようになって、ケガする前よりもいいプレーヤーになれたと感じています。

刺激を受けた日本代表の躍進

——パリ・オリンピックの日本代表の選手たちを見ていると、山﨑選手が高校生だったわずか数年前と比べてもレベルが段違いに上がっている感じがあります。どんな見方をしていますか?

そうですね。自分と年齢が近い人がたくさんいて、高校生だった頃の河村勇輝さんや富永啓生さんは見ていましたし、プレーしたこともあります(河村は山﨑が仙台大附明成1年生のとき福岡第一の3年生、富永は山﨑と入れ替わりに桜丘高を卒業)。その頃もすごかったけど、自分に満足しないで頑張り続けてきたから今があるんだと思うし、それによって日本のレベルを上げているので、すごいことだと思います。

——フランス戦では河村選手がビクター・ウェンバンヤマ選手の上から3Pショットを決めるなど29得点を記録しました。自分があの舞台に立てたらと思ったりしませんでしたか?

今年はケガで動けませんでしたが、2年前に1回キャンプに呼んでもらいましたし、やっぱり自分も将来は日本代表になりたいです。国のためにオリンピックのような舞台に出られるようになりたいですね。アメリカで世界レベルのバスケができていると思うので、それが自分にも生きてくるんじゃないかとも思っています。

——次のロサンゼルス・オリンピックなど、具体的に目標はありますか?

ロサンゼルス・オリンピックは本当に出たいなと思います!

——Bリーグのレベルも上がっています。ルディ・ゴベア選手のダンクをブロックした渡邉飛勇選手はB2(信州ブレイブウォリアーズ)でプレーするんですよね。日本のトップリーグのレベルアップについてはどう思っていますか?

Bリーグも本当にすごく良いクラブがたくさんあって、競争もすごい激しくなっていますね。日本代表だけを見ても本当に素晴らしい選手ばかり。これからもどんどん成長して、本当に世界レベルのリーグの一つになると思います。

いざ、飛躍の2024-25シーズンへ

年齢の近いプレーヤーたちの躍進や、そのプラットフォームとなっているBリーグの発展に、山﨑も強く刺激を受けているようだ。そんな中で、身体的にも内面的にも成長を実感できている山﨑の現状は、「楽しみ」という一言に収まらないほど希望に満ちている。

コンディション的には、山﨑本人が自信を見せているだけでなく、ラドフォード大のアシスタントを務めるジェームズ・ハリング氏も「もと通りというより、もしかしたらケガ以前よりも良好な状態かもしれません」と太鼓判を押すほど。「1日も無駄にせず真摯に取り組んできた成果ですよ」とハリング氏は山﨑の姿勢を評価した。また、2年目の昨シーズンは離脱したものの「1年目にフレッシュマンとしてチームのほぼ全試合(36試合中33試合)に出場した経験もある」と話し、2024-25シーズンの飛躍を大いに期待している様子だった。


右がラドフォード大アシスタントのハリング氏。「山﨑は人に好かれる性格」とも話し、2024-25シーズンの活躍に期待を寄せている(写真/©月刊バスケットボール)

今夏のパリ・オリンピックでは、日本代表以外にも山﨑が目標にできる存在がいた。南スーダン代表のガードでラドフォード大出身のカーリック・ジョーンズだ。ジョーンズは山﨑の入学より1年早く2021年にラドフォード大を卒業し、NBA2シーズンプレーした。今大会では平均18.0得点、7.7アシスト、5.0リバウンドを記録し、初出場で歴史的1勝を手にした南スーダンの大黒柱となっていた。


南スーダン代表として歴史を作ったカーリック・ジョーンズは、山﨑にとってラドフォード大の先輩(写真/©FIBA.Paris2024)

ジョーンズと同じことを、山﨑が日本代表として4年後にロサンゼルスで実現する場面を想像すると、夢が果てしなく膨らんでいく。あるいはそれよりも前に、高校の先輩である八村が2019年に成し遂げたように、山﨑の活躍がラドフォード大をNCAAトーナメントの上位戦に導くかもしれない。その可能性は? 十分あるだろう。千葉県松戸市出身、身長201cmのフォワード、山﨑一渉が飛躍の本番を迎えるのはこれからだ。

取材・文/柴田 健 (月刊バスケットボール)

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