月刊バスケットボール1月号

大学

2024.08.19

総括WUBS2024――大会の価値を物語る5つの事象

WUBS2024 DAY1のNCCU戦で得点機を狙う日体大の月岡煕(写真/©月刊バスケットボール)

3回となるWUBSSun Chlorella presents World University Basketball Series=世界大学バスケットボール選手権)が、今年も国立競技場代々木第二体育館で810日から12日にかけて開催された。日本からの3チームを含む全8チームで大学バスケットボール世界一の座を競う今大会で優勝したのは、フィリピン代表フォワードのケビン・キンバオを擁した同国大学王者デ・ラサール大だった。


日本勢は、昨年のWUBSで準優勝を収めたインカレ王者の白鴎大、今春のスプリングトーナメントを制した日体大、そして日本学生選抜のいずれもが初日に敗れ、上位進出を逃した。一方、東アジアのライバルたちは、韓国の高麗大が準優勝、チャイニーズ・タイペイの国立政治大(NCCU)が3位に入った。

単純に最終順位を振り返っただけでも、バスケットボールファンならば様々な思いが頭を巡るに違いない。日本の各チームは、それぞれが結果についての残念な思いと今後につながる経験の意義、あるいはそれを飛躍につなげる意欲を語っている。それはWUBSが日本の大学バスケットボール界にもたらす価値にほかならない。しかし今大会には、それだけにとどまらない幅広い価値があったことを、いくつもの出来事が物語っている。ここでは、WUBS開催期間中に現場で遭遇した5 つの事象から、大会の意義を綴ってみたい。

1. フィリピン代表ケビン・キンバオの存在感

今大会で初優勝を達成したデ・ラサール大の大黒柱ケビン・キンバオは、昨夏のワールドカップにつながるアジア地区予選や今年に入って行われたアジアカップ2025予選でフィリピン代表としてプレーした実績を持つフォワードだ。フォワードといいながらも、プレースタイルとしてはウイングとしての高い能力を持つオールラウンダーで、ショットメイク、プレーメイク、リバウンド、ディフェンスとあらゆる側面でデ・ラサール大に優位性をもたらすことができる。個としての魅力は状況判断の良さとそれに追いついていける身体能力、その能力を大事な場面で発揮する内面的な強さだ。キンバオはボールを長時間保持することなく、瞬時にオープンの味方を見つけて的確なパスを出し、獲りたいリバウンドを獲り、必要な時にディフェンスのストップを成功させ、ほしい時に得点を奪って見せた。


大会MVPに輝いたキンバオ(写真/©WUBS2024)

高麗大との決勝戦では、77-73で始まった第4Qに決定的な仕事で15-0のランを演出。一気に流れを変えて、最終スコア101-86の勝利を手繰り寄せた。キンバオが、祖国から遠く離れた代々木第二を自らの秀逸なパフォーマンスで完全にホームコートにしてしまった様子は、驚くべきものだった。実は、母親が長年埼玉県に住んでいるのだという。それもあってか、デ・ラサール大ベンチ後方のスタンドは、決勝戦では大勢のファンがフィリピン流の大声援でチームを盛り立てていた。この日は高麗大側のファンも大勢来場しており、負けじと声援を送っていたが、終盤キンバオの活躍に拍車がかかると、がぜんデ・ラサール大応援団が勢いづき、いつしか会場全体のムードがデ・ラサール大を後押しするような雰囲気になっていた。

これがプロではなく、大学生のチームであるところにすごみを感じる。デ・ラサール大がフィリピン大学界の王座をかけて戦った昨年暮れのUAAPファイナルは、昨年のワールドカップと同じアラネタ・コロシアムに25000人を超える大観衆を集めて開催された。そんな状況で、観客を味方にすることは能力だ。今回WUBS2024でキンバオが披露したプレーは、その能力と育成環境の深みを感じさせるものだった。

2. 下位にとどまった日本勢の抱える課題について


DAY1のシドニー大戦で果敢なドライブを見せる白鷗大の内藤春樹(写真/©月刊バスケットボール)

この決勝戦には、日本の大学バスケットボールの課題に関連付けられる側面があったので、その点にも触れてみたい。実は、今年に入ってデ・ラサール大と高麗大の対戦は初めてではなかったという。高麗大が年明けにフィリピン遠征を行い、対戦して勝利を収めていたそうだ。DAY1に初戦勝利を収めた後のタイミングで高麗大のチュ ヒジョンHCと話した際、「昨年と違って今年は優勝を狙えますね」と言葉をかけると、チュHCは「しかしNCCUに勝つのは相当難しいです。デ・ラサール大には勝っていますけれど」と答えた。つまりチュHCには、デ・ラサール大に対する戦い方の算段と自信があったということだ。実際、高麗大はデ・ラサール大のフィジカルに対抗するために、韓国でのリーグ戦でほとんど使わないというゾーンディフェンスを長い時間使い、40分間中30分間は互角に戦っていた。キンバオの超絶プレーメイクがなければ、勝負はどうなっていたことか。

フィリピンと韓国の大学生プレーヤーたちがどれほど深く交流しているのか、詳細な状況まではわからない。背景には両国の大学生たちがプレーするシーズンの流れも影響していると思われる。しかしいずれにしても、国際経験の不足が長年の課題となっている日本のチームから見れば、非常にうらやましく感じられるのではないだろうか。

WUBS2024では、各チームの試合結果から、日本勢と決勝進出を果たした両チームの対戦は日本学生選抜が初戦で高麗大に敗れた一戦(最終スコアは79-72)のみにとどまった。しかし、その好機が生まれる可能性を大会としては提供できていた。それは今後大学バスケットボール界の発展を促す特別な価値だったのではないだろうか。

今回参加した日本勢も、できれば勝利という結果とともにこの機会を大いに生かしてほしいところだったし、プレーヤーたちもチーム関係者もその思いは同じだっただろう。DAY2に白鷗大の網野友雄監督に話を聞くと、「ホスト国の代表として(全チーム初戦敗退は)あってはならないこと。自分たちとしてすごく反省しています」と率直な思いを語ってくれた。ただ、背景としての経験不足からは目を背けるべきではないだろう。個別チームのアプローチや出来の問題というよりは、国際試合に臨む気持ちの作り方や、知らない相手との戦い方への慣れを実際に経験して得ることが必要と思われる。

日体大の藤田将弘監督が大会の3日間を振り返って、「選手たちが日に日に(大会の環境や相手に)慣れていくのを見て対応力が高いなと思いました」と語った言葉からも、経験の大切さが伝わってくる。デ・ラサール大、高麗大と日本勢の間に、やはり国際経験の差はあったのではないだろうか。それを参加チームが肌で感じた価値は大きいはずだ。

3. ディフェンディング・チャンピオンNCCUの涙

昨年の大会で優勝したNCCUは、最終的に優勝したデ・ラサール大に準決勝でオーバータイムの末に敗れ、連覇を逃した。この一戦を終えた後、ミックスゾーンでチェン・ツーウェイHCに話を聞こうと待っていたところに、指揮官よりも早くやってきたNCCUの選手たちは、目を真っ赤にして悔しさをにじませていた。チャイニーズ・タイペイでは大学リーグ4連覇中の強豪で、プロにさえ勝ってしまう実力チーム。しかし現在の新チームはそこから主力がごっそり抜け、チームカラーも違っている。現在の所属プレーヤーとしては、「上級生が抜けたから負けた」ということが受け入れられなかったのだろう。


3位決定戦でゲームハイの21得点を記録した司令塔リンツ―ハオ(写真/©WUBS2024)

遅れてやってきたチェンHCは、そんなチーム事情に触れながら、「みんな最後まであきらめないで闘い続けてくれました」と話し、選手たちをねぎらった。「ここで負けたことで涙を流していた選手もいます。それだけ気持ちを入れて戦って、一つになってくれていたことが一番大事なんですよ」

NCCUにとって、昨年WUBSで優勝したという事実は自信の裏付けとなったようだ。大会終了後、P.LEAGUE+所属のプロチームも参戦するインターリーグでも成果を出し、続く大学リーグ戦で上記のとおり4連覇を成し遂げた。また、6月には滋賀レイクスが、NCCUで直近シーズンまで主軸ガードとして活躍したユー アイチェを特別指定選手として迎え入れることを発表している。NCCUにとってWUBSは、チーム力向上や選手たちのキャリア形成における可能性を広げる意味でのスプリングボードとなっていると言えるだろう。

敗北の涙を流すほどの意欲で来日し、その後につながる成果をつかんだNCCUの関係者は立派の一言だ。かつ、海外からの参加チームがそれだけの意欲を燃やそうと思える舞台生み出していることは、WUBS関係者が胸を張って誇れるものではないだろうか。

3. 海外勢のステップアップに証明される大会の価値

今大会では、上位進出に至らなかったペルバナス・インスティテュート(インドネシア)、昨年の最下位からベスト4の一角に名乗りを挙げたシドニー大のプレーぶりに明らかな成長が見られたことも記しておきたい。

シドニー大は昨年1勝も挙げることができなかったが、今年は初戦で白鷗大相手に70-67の勝利を挙げると、準決勝では昨年の7-8位決定戦で敗れた相手の高麗大にも、オーバータイムまで食い下がる大善戦。最後は77-82で力尽きたが、昨年のチームとは間違いなく、まったく「別人」だった。象徴的な例としてスコアリングガードのマイキー・ヨーンのパフォーマンスを取り上げると、昨年は3P成功率27.3%(11本中3本成功)で平均6.3得点だが、今回は同44.4%(18本中8本成功)で15.7得点。アグレッシブさは昨年も同じだったが、決定力が断然違っていた。

何が変わったのか? もちろん数人の選手の出入りがあったが、3位決定戦終了後にヨーンに話を聞くと、「去年は少し受け身になってしまったところがありました。マインドセットが昨年とは違っています」とのことだった。「昨年準優勝の日本のチーム(白鷗大)と初戦でやることがわかっていたので、もうこれは思い切りやるしかないと覚悟を決められたというか。オーストラリアのバスケを見せてやれ! みたいな気持ちになれたんです」と話してくれた。一方で、新任のマシュー・ジョンソンHCは、「とにかく選手たちが楽しめるように心がけました」と柔和な笑顔で語った。


DAY1白鷗大戦でドライブから得点を狙うシドニー大のマイキー・ヨーン(写真/©WUBS2024)

ペルバナスは昨年の6位から8位に順位こそ落としたが、主力ガードのグレーンズ・タンクランが初戦の第1Qに足を痛めてその後十分プレーできなくなるアクシデントに見舞われながら、平均得点を昨年の52.3から65.7まで上昇させることができていた。現時点では、上位進出は高すぎるハードルだったかもしれない。しかし7-8位決定戦を終えた後タンクランにコメントを求めると、「練習の成果が少しは出せたと思います」と笑顔を見せてくれた。

ヨーンとタンクランの言葉は、成長を自分たち自身も感じられていることをうかがわせる。NCCUの成功例を含め、WUBSにやってくる海外の若者たちの成長や前向きな変化は、かけがえのない価値ということができるだろう。

5. 来日チームが「日本愛」を深めた3日間

今大会では、日本のバスケットボールが参加各国・地域で高い評価を受けていることが感じられた。どのチームも基本的には、日本に来てプレーしたいという希望を持っているようだ。デ・ラサール大のキンバオは、将来日本でプレーしたいかと尋ねると、「それは僕の最大のゴールです」とのこと。母親の目の前でMVPに輝いたWUBS2024は、その目標達成への大きな一歩となったのではないだろうか。チームメイトのマイケル・フィリップスは、兄弟で日本語を学んでいるとのことで、インタビューも基本的に日本語を交えて答えてくれたが、やはり「僕もBリーグでプレーしたいです!」と夢を語っていた。


積極的に日本語でコミュニケーションを試みたマイケル・フィリップスは、将来日本でプレーすることを夢見ているという(写真/©WUBS2024)

シドニー大のマシュー・ジョンソンHCは、もう一度招待を受けたら来日したいかという問いに、「Absolutely!(絶対に!)」と即答。ペルバナスのタンクランは、やはりBリーグに注目しているといい広島ドラゴンフライズの話をしながら目を輝かせていた。

WUBSは、海外のバスケットボール関係者に日本のバスケットボール文化を実体験する機会を提供しており、それが明らかに好評を得ている。大会前に米NCAAディビジョン1の複数の大学から参加打診があったことも公になっていたが、WUBSは今後の発展に向けたポテンシャルは非常に高いと思える大会だ。ハイレベルな海外チームが来日すれば、それだけ日本のバスケットボール界に還元できる要素は多くなるが、逆に各国・地域に対しても様々な価値を提供できる。そして、応援スタイルをはじめ様々な世界の文化に触れながら、エキサイティングなバスケットボールを楽しめることで、もちろんファンにとってもメリットが大きい。

そんな期待や楽しさの種がぎっしり詰まったWUBS3日間は、振り返ればまるで「真夏の代々木の夢物語」を見ていたかのような、幻想的な時間だった。しかしその価値は夢想ではなく現実だ。あっという間に過ぎていった価値ある3日間が、今後の大学バスケットボール界の興隆につながることを願わずにはいられない。

取材・文/柴田 健 (月刊バスケットボール)

タグ: 白鷗大 日本体育大

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