月刊バスケットボール8月号

NBA

2024.06.01

ティム・ダンカンが2014NBAファイナルでサンアントニオ・スパーズを王座に導けた理由——パーソナル・トレーナー、ジェイソン・エコルスとの回想

2014NBAファイナルを制した直後の1枚(左からトニー・パーカー、ティム・ダンカン、マヌ・ジノビリ 写真/石塚康隆©月刊バスケットボール

サンアントニオ・スパーズの黄金期をけん引したティム・ダンカンのトレーナーを2009年から務めているジェイソン・エコルス。この人物がオーナーを務めるゼンウェルネス(Xen Wellness - Personal Training [xenwellnesstx.com])は、キックボクシングを始め、柔術、柔道などあらゆる格闘技を学べるトレーニング施設だ。


トレーナーの中にはオリンピアンも在籍し、ワールドクラスの指導を受けることができる。ただ格闘技のトレーニングをするわけではなく、呼吸方法やリカバリーの指導も積極的に行っており、格闘技を心身の健康を保つツールとして捉えることをコンセプトとしている。誰でも通えるこのスタジオは、これまでに多くのスパーズの選手が通ったことでも知られている。中でもダンカンが最も有名だ。ダンカンとのトレーニングについて、ジェイソンに話を聞いた。


ティム・ダンカンとファイティングポーズをとるジェイソン・エコルス(写真/ジェイソン・エコルス氏提供)





奏功したスウェットエンジェル・トレーニング

——まずはこの場所について教えてください。

この場所をオープンしたのは2005年です。今の自分があるのは、神が偽りなく自分を愛し、加護してくれたからです。僕はとても幸運で、この場所も最近エコルスフィットネスセンターからゼンウェルネスに名称を変えより充実したサービスを提唱しています。この場所はもともと小さな小屋から始まって、ティム・ダンカンと知り合い、直ぐに意気投合して友人になりました。そこから少しずつ今のスタジオの形態が出来上がっていきました。スタジオの内装は、ダンカンのような7フッターが動き回れるように設計されています。ティムとトレーニングしているうちに輪が広がって、デビッド・ロビンソン、モンティ・ウィリアムス、ブルース・ボウエンともトレーニングするようになりました。我々が格闘技をウェルネスの一環として活用できることにとても感謝しています。僕が格闘技を通してアスリートに提供できるウェルネスは、彼らが既に持っている才能の手助けとなります。ティムはここに通い始めたとき、既にGOAT(Greatest Of All Time=「史上最強」の意)でした。僕とティムがここで取り組んだことは、フットワークの調整や、彼がそれまでに経験したことがないトレーニングを学んでもらうことでした。ロビンソンがここでトレーニングを始めたのは、既に引退した後だったで、健康維持の一環として格闘技を活用していました。

——長らく格闘技、特にキックボクシングのトレーナーとしてアスリートのトレーニングに携わっていますが、指導者としてのスキルはどこから得たものなのでしょうか?

これまでにたくさんの先生と出会いました。例えば、サンアントニオではやや悪名高かったですが、ジョー・スイフト(ニューヨーク出身の空手家)やテキサスの空手のレジェンドであるアル・フランシスなどが、僕にとって最初の先生でした。そこから時間が経って南フロリダのキルクリフという総合格闘技ジムのヘンリー・ホーフトと出会います。ヘンリー自身もオランダ式のキックボクシングを学び、プロ選手としても活躍しました。彼を師事する格闘家には、UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ[Ultimate Fighting Championship]の略号)やPFL(プロファイターズリーグ[Professional Fighters League])傘下のベラトールなど総合格闘技団体で活躍する選手が数多くいます。今では彼のジムで36ヵ国から選手たちが通っているほど、とにかく多くの選手からリスペクトされている先生です。僕はヘンリーから認定された最初のアメリカ人トレーナーの一人です。

——ダンカンとのトレーニングについて教えてください。彼は素晴らしいバスケットボール選手でしたが、キックボクサーとしてはどうだったでしょう?

彼は最高でした。まず7フィートの選手が繰り出す蹴りを受けることは大変で、彼とトレーニングするには彼のサイズに適応する必要がありました。彼の身長は6フィート11インチ(211センチメートル)、僕は5フィート9インチ(175センチメートル)だったので、最初は戸惑いました。サイズに慣れたあとは、ティムは僕の一番の生徒になりました。素晴らしい格闘家で、素晴らしい友人でもあります。

——いつからダンカンとのトレーニングを始めたのでしょうか?

2009年です。格闘技の練習をする小さなコミュニティがあって、そこで共通の友達を通して知り合いました。そのあと、僕のスタジオでトレーニングをするようになりました。

——基本的にダンカンとのトレーニングはオフシーズンだったのでしょうか?

そうですね。屋外のスタジオを活用していました。真夏に屋外でトレーニングです。華氏105度(摂氏40度)の中、殴って、蹴ってのスパーリングを続けていました。今は屋外スタジオに屋根がありますが、初期は屋根がなかったので、直射日光を浴びながらの猛暑トレーニングでした。僕らはスウェットエンジェル(汗の天使)トレーニングと呼んでいました。2014年のNBAファイナルで、AT&Tセンター(現フロストバンクセンター)のエアコンが故障して、レブロン・ジェームスが足にけいれんを起こした試合*1がありました。あの試合直後に「スウェットエンジェル・トレーニングがあったから今日は勝てたよ」とティムから連絡が来たのを覚えています。

*1=サンアントニオでの第1戦。ジェームズがけいれんのため第4Qの終盤ベンチに下がり、その間にスパーズが16-3のランで圧倒して110-95の勝利を収めた。スパーズは第2戦を落としたが、シリーズを4-1で制し、5度目の王座獲得に成功した。


2014NBAファイナル第5戦で得意のターンアラウンド・ジャンパーを狙うダンカン(写真/石塚康隆©月刊バスケットボール)





ダンカンの得意技は回し蹴りと左フック

——ルーティンはどんなものだったのでしょうか?

大体週に34回、彼は午後の早めの時間にやってきます。サンアントニオで一番太陽が照っている暑い時間帯です。

——その時間帯に練習に来るのは意図的だったんでしょうか?

そうです(笑) 基本のキックボクシングの動きの反復練習をして、最後はスパーリングをします。激しいスパーリングをするので、心肺機能を高められる高度な有酸素運動になります。バスケットボールとは異なる動きをするので、身体の使い方のトレーニングとしても最適でした。

——2人のスパーリングの映像は何度か見たことがあります。

彼は良い選手です。何度も彼の打撃を貰ってグラついたことがあります(笑)

——彼の得意技は何でしたか?

彼は回し蹴りの達人でした。あとは左フック。どこから来るのかわからないとてもズルいフックでした(笑)。もともと才能のあるアスリートだったので、格闘技の動きをマスターするのもとても早かったです。

——ダンカン以外にもロビンソンなどをトレーニングしているというお話でした。他にもショーン・エリオットやチャールズ・バッシーをトレーニングしている映像を見たことがあります。

そうです。バッシーは、実はドラフト前のコンディショニングをこのスタジオでしていました。彼もティムと同様にフットワークや体の使い方を中心としたトレーニングでした。

——バスケットボール選手以外にも有名な総合格闘技の選手もここでトレーニングをすることがありますよね?

ルーク・ロックホールド(UFCの元ミドル級王者)などが来たことがあります。フロリダで練習していたときは、残念ながらこの世を去ってしまったアンソニー・ジョンソン(2022年に38歳の若さで死去した総合格闘家)やマイケル・チャンドラー(ベラトールの元世界ライト級王者)、ジェイソン・ジャクソン(同じく元世界ウェルター級王者)、カマル・ウスマン(UFC元世界ウェルター級王者)などの横で練習をすることができました。彼らのコーチは僕のコーチだったので、プロ選手の動きを目の前で見て、手本にしながら僕も学んでいました。

この企画は、スパーズのスーパーファンとして知られる小谷太郎さんが立ち上げた「Paint it Silver & Black!」プロジェクトの一環として小谷さんの全面的協力の下でスパーズ周辺の様々な話題を取り上げています。不定期ながら随時楽しい企画をお送りしていきますので、乞うご期待!



取材・文・写真/小谷太郎(Paint It Silver &Black!)

タグ: ティム・ダンカン サンアントニオ・スパーズ

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