月刊バスケットボール1月号

Bリーグ

2024.05.29

初優勝の広島を支えたドウェイン・エバンスの涙「この優勝はキャリアのハイライト」

広島ドラゴンフライズがBリーグの歴史を変えた。

「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2023-24」のゲーム3、泣いて笑ってもこの試合で勝った方が今季のチャンピオンとなる大一番で、広島は65-50のロースコアゲームで琉球ゴールデンキングスを下し、初のリーグ制覇を成し遂げた。

ディフェンシブな展開が続いたシリーズの中でも、特にディフェンスの強度が高かったこの一戦。広島は、シリーズをとおして琉球を苦しめたスイッチディフェンスとマッチアップゾーンを巧みに使い、前半を終えて35-29と6点のリード。

後半に入っても流れを明け渡すことはなく、特に3Qには残り6分26秒から1分22秒までの約5分間、琉球に1点も許さない完璧な守りを見せていた。巧みなシステムに選手個々のインテンシティの高い対人ディフェンスが組み合わさり、インサイドでもアウトサイドでも琉球は攻め手を失っていた。

最終的な50失点はBリーグファイナル史上最少で、チームでも今季2番目の少なさ。最後の最後でチームディフェンスが完成形となり、それが優勝を大きく手繰り寄せることとなった。






攻防両サイドで万能なプレーを見せたエバンス

「ディフェンスはシーズンをとおして我々がプライドを持ってやってきたこと。ディフェンスが試合の多くを支えてくれた。オフェンスでも我々は相手を混乱させ、それを得点につなげることができた」

大黒柱としてチームを引っ張ったドウェイン・エバンスは、こう試合を振り返った。エバンス自身、このシリーズはオフェンスでは思うように点を取ることはできなかったが、ディフェンスではスイッチの要として、ガードからセンターまでの全てのポジションをハイレベルにマーク。とりわけ、ゲーム3では岸本隆一への見事なプレッシャーディフェンスで、3Q残り3分43秒には流れを大きく引き寄せるスティールをお見舞い。河田チリジがファウルトラブルでベンチに下がっている時間帯にはジャック・クーリーをフィジカルで押さえ込むシーンもあり、特にハイエナジーなディフェンスで広島のリングを死守してみせた。

苦戦したオフェンス面でも、ゲーム3の終盤にはミスマッチを突いたアイソレーションからのドライブで得点、あるいは相手のファウルを引き出した。試合時間残り3分からそれぞれ12点差、14点差と決定的なリードを築いた彼の連続ゴールは、チームとしてこの試合で決めた最後のフィールドゴールでもあった。

チャンピオンシップMVPは山崎稜、日本生命ファイナル賞は中村拓人が受賞したが、エバンスは間違いなく広島の大黒柱であり、攻防の起点でもあった。チャンピオンシップの8試合で記録した平均16.9得点、6.0リバウンド、4.1アシストは全てチームトップの数字だ。

「琉球で、すばらしい2年間を過ごして広島に来たんだ。広島はアンダードッグで、まだ成功の少ない状況だったけど、この舞台で彼ら(琉球)を倒すことができた。これ以上のことはないだろう。自分の決断はすばらしかったと感じるよ。うまくいくと分かっていた。自分の心に従ってここに来たんだ。僕はすごく成長できた。でも正直、信じられないよ」

エバンスは優勝の喜びをこう口にした。





「自分の心に決めたことは何でもできる」


2020-21シーズンに琉球に加入する以前は、ドイツで4クラブ、イタリアで1クラブの計5クラブを渡り歩き、行く先々でチームとしてはリーグ上位の成績を残してきたが、たどり着いた最高位はベスト8だった。

それが、琉球在籍2年目の2021-22シーズンに、エースとしてファイナルまで到達。そのファイナルでは宇都宮ブレックスにスウィープされ優勝には届かなかったものの、頂点まであと一歩だった。そんなクラブを離れ、オフに広島に移籍。そして今季、古巣相手のファイナルで初優勝をつかんだことには大きな縁を感じる。32歳にしてプロキャリア初のリーグ優勝。これは彼のキャリアにどんな意味をもたらすのか。そう問うと、エバンスはこう答えた。

「この優勝はキャリアのハイライトだ。これが全てだ。さまざまな困難がある。ここに来ることができて、チームにポジティブな方法で影響を与えることができた。アンダードッグとしてすばらしいことを成し遂げることができた」

その目には、かすかに涙がにじんでいた。

「まだ実感が沸かないよ。僕らが戦い続けなければいけなかったことを、みんなは知らないと思う。シーズンをとおしてここにたどり着くまでに選手として、チームとして本当に疑われ、見過ごされてきた。ありきたりに聞こえるかもしれないけど、自分を信じること、物事を本当にイメージすること(が大事だ)。自分の心に決めたことは本当に何でもできるんだ」

琉球で2年、広島で2年の計4年間を日本でプレーし、その間に日本を愛し、チームメイトやその土地を愛してきたエバンス。彼のキャリアハイライトが日本で生まれたことは、彼自身にとっても、ファンにとっても忘れがたい出来事になっていくはずだ。





写真/石塚康隆 取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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