試合では常に平常心──山崎稜の揺るがぬメンタリティ「試合に勝ってから喜べれば」
「日本生命 B.LEAGUE FINALS 2023-24」のゲーム2、琉球ゴールデンキングスに初戦を取られ、後がなくなった広島ドラゴンフライズを、試合前の会場アナウンスは「トンボ(=ドラゴンフライ)の軍団の逆襲」と紹介していた。
広島のクラブ名は広島県廿日市市宮島町に生息している“ミヤジマトンボ”に由来しているが、日本では古くからトンボは「勝ち虫」と呼ばれる縁起の良い虫として知られている。
ゲーム2は、そんな“勝ち虫軍団”の文字どおりの逆襲となった。
中村から山崎へのキックアウトが
ゲーム1では出だしで琉球に先行され、前半で18点のビハインド。3Q終盤から4Qにかけてリズムをつかんでばん回したが、琉球を捉えるまでには至らなかった。この試合を踏まえて、ゲーム2はスタメンを変更。ニック・メイヨとアイザイア・マーフィーをセカンドユニットに置き、河田チリジとケリー・ブラックシアー・ジュニアを先発に据える3ビッグで試合をスタートした。
すると、本来の自分たちの持ち味を取り戻したかのように序盤から快調にスコアを伸ばし、とりわけ、ゲーム1で封じ込められたドウェイン・エバンスが立ち上がりを引っ張ってドライブから連続でスコア。彼のペイントアタックでディフェンスが収縮したところから外に展開しマーフィーが2本の3Pを決めるなど、プレー的にもメンタル的にも互角以上の戦いを見せていた。
3Q残り7分39秒には琉球のリズムにのまれて逆に11点のリードを許す場面もあったが、そこで取ったタイムアウト明け以降は攻防共に集中力を取り戻し、最終的には72-63で快勝。決着をゲーム3に持ち越した。
エバンスが16得点6リバウンド、5アシストとオールラウンドにチームを導き、積極的にペイントにアタックしたブラックシアー・ジュニアも10得点、5リバウンド、メイヨもミスマッチをアタックしながら効果的に外にパスを捌き、河田はフィジカルなプレーで琉球のビッグマンと渡り合った。加えて中村拓人も巧みなゲームコントロールで貢献し13得点、控えの上澤俊喜も約7分の出場ながら、流れを大きく引き寄せる2本のショットを成功させ、5得点という数字以上のインパクトを残した。
ビッグマンと司令塔が責務を全うしたなか、ウィングの山崎稜も勝利に欠かせなかった。広島が誇るシャープシューターは、ゲーム1でも3本の3P(3/6)を含む10得点を挙げていたが、この試合では自分のリズムで打てるタイミングを辛抱強く待ち、さらに効率良く3Pを射抜いていった。4/5の成功率80%、エバンスに次ぐ14得点を記録した。
この日の山崎のハイライトとなったのが4Q残り4分32秒で決めたコーナースリー。リバウンド争いで中村がルーズボールを制すとワンマン速攻に近いシチュエーションに。力強くドリブルプッシュした中村はチェイスしてきたヴィック・ローのブロックをかいくぐって琉球ベンチ目の前で待ち構える山崎にキックアウト。パスをした瞬間には山崎の3Pが決まる確信を持った様子で右手を上げながら自陣に戻り、山崎はゆとりを持って丁寧に放った3Pをスウィッシュで決め切った。スコアは60-49と広島の11点リード。このシュートは勝利を大きく引き寄せる渾身の一発だった。
「走っている最中に拓人からアイコンタクトがあって、パスが来るかなと思いつつ、でも彼はああいう形でのリバースレイアップも得意なので、(パスが来るのを)期待しながら待っていました」
山崎は笑顔でそう振り返った。中村も「パスを出した瞬間に入ると思いましたし、信頼関係というか。(山崎が)ノーマークだったらどんどんパスを出したいと思っていますし、常にそういう話もできています。それで実際に決めてくれました」と話した。
山崎はチャンピオンシップの7試合で3Pを26/45成功の57.8%という驚異的な確率を記録している。成功数はCS出場全選手の中でトップ、成功率も合計10本以上試投している選手の中では断トツの数値だ。
ブレックスメンタリティが
このパフォーマンスから、Bリーグ公式SNSでは「CS男」と紹介される山崎だが、そのキャリアは決して順風満帆ではない。
Bリーグ初年度の2016-17シーズンは富山グラウジーズでプレーし、次のシーズンには栃木ブレックス(現宇都宮)に移籍。リーグトップクラスのクラブでは限られたチャンスで高水準なプレーを続けることを求められた。そして、宇都宮で3年を過ごしたのちに20-21シーズンには当時B2だった群馬クレインサンダーズに移籍。その後、B1昇格に貢献し昨季までプレーすると、今季から活躍の場を広島に移していた。
徐々にロールを増やし、今ではファイナルを戦うクラブのエースシューターとなった山崎。彼は自身のキャリアを、特に宇都宮での経験がもたらすものをこう振り返った。「1年目は富山で1シーズンプレーして、すぐにブレックスに移籍しました。やっぱりそこで学んだブレックスメンタリティは今でもあると思っていますし、その心が今の僕のバスケットを支える土台になっていると思います。あそこで3年間培ったものは本当に大きいです」
奇しくも、バスケットLIVEでこの試合を解説していたのは、宇都宮時代の恩師・安齋竜三HC(越谷アルファーズHC)だった。山崎の活躍を、安齋HCも喜んだことだろう。
ただ、これだけ活躍し、注目されても山崎はいつものポーカーフェイスのままだ。前述した中村のアシストからの3Pが決まった後も顔色一つ変えず、セレブレーション一つせずにディフェンスに戻っている。リードしていても劣勢でも、メンタルは全くぶれない。その点について山崎に尋ねると、以下のような答えが返ってきた。
「元々そんなに感情を出すタイプじゃないので(笑)、試合中に自分のシュートが決まってもどんどんゲームは進んでいきますし、最後まで何があるか分かりません。試合が終わって、勝って喜びを出せればと思っているので、試合中は常に落ち着いて平常心でやっています。多分、バスケットをやり始めてからずっとそうだと思います」
もちろん、一つのプレーに一喜一憂し、感情を全面に出してプレーする選手はチームにとって重要だ。だが、それと同じくらい、どんな状況でも動じないメンタルを持った選手は重要で、そうした選手がチームに揺るがない一本の筋を通してくれる。
ゲーム3は勝った方が優勝だ。何が起こるか分からない。この最終決戦では、山崎のプレーはもちろん、彼のメンタリティが広島の初優勝のカギを握りそうだ。
広島のクラブ名は広島県廿日市市宮島町に生息している“ミヤジマトンボ”に由来しているが、日本では古くからトンボは「勝ち虫」と呼ばれる縁起の良い虫として知られている。
ゲーム2は、そんな“勝ち虫軍団”の文字どおりの逆襲となった。
中村から山崎へのキックアウトが
勝利を大きく引き寄せる
ゲーム1では出だしで琉球に先行され、前半で18点のビハインド。3Q終盤から4Qにかけてリズムをつかんでばん回したが、琉球を捉えるまでには至らなかった。この試合を踏まえて、ゲーム2はスタメンを変更。ニック・メイヨとアイザイア・マーフィーをセカンドユニットに置き、河田チリジとケリー・ブラックシアー・ジュニアを先発に据える3ビッグで試合をスタートした。
すると、本来の自分たちの持ち味を取り戻したかのように序盤から快調にスコアを伸ばし、とりわけ、ゲーム1で封じ込められたドウェイン・エバンスが立ち上がりを引っ張ってドライブから連続でスコア。彼のペイントアタックでディフェンスが収縮したところから外に展開しマーフィーが2本の3Pを決めるなど、プレー的にもメンタル的にも互角以上の戦いを見せていた。
3Q残り7分39秒には琉球のリズムにのまれて逆に11点のリードを許す場面もあったが、そこで取ったタイムアウト明け以降は攻防共に集中力を取り戻し、最終的には72-63で快勝。決着をゲーム3に持ち越した。
エバンスが16得点6リバウンド、5アシストとオールラウンドにチームを導き、積極的にペイントにアタックしたブラックシアー・ジュニアも10得点、5リバウンド、メイヨもミスマッチをアタックしながら効果的に外にパスを捌き、河田はフィジカルなプレーで琉球のビッグマンと渡り合った。加えて中村拓人も巧みなゲームコントロールで貢献し13得点、控えの上澤俊喜も約7分の出場ながら、流れを大きく引き寄せる2本のショットを成功させ、5得点という数字以上のインパクトを残した。
ビッグマンと司令塔が責務を全うしたなか、ウィングの山崎稜も勝利に欠かせなかった。広島が誇るシャープシューターは、ゲーム1でも3本の3P(3/6)を含む10得点を挙げていたが、この試合では自分のリズムで打てるタイミングを辛抱強く待ち、さらに効率良く3Pを射抜いていった。4/5の成功率80%、エバンスに次ぐ14得点を記録した。
この日の山崎のハイライトとなったのが4Q残り4分32秒で決めたコーナースリー。リバウンド争いで中村がルーズボールを制すとワンマン速攻に近いシチュエーションに。力強くドリブルプッシュした中村はチェイスしてきたヴィック・ローのブロックをかいくぐって琉球ベンチ目の前で待ち構える山崎にキックアウト。パスをした瞬間には山崎の3Pが決まる確信を持った様子で右手を上げながら自陣に戻り、山崎はゆとりを持って丁寧に放った3Pをスウィッシュで決め切った。スコアは60-49と広島の11点リード。このシュートは勝利を大きく引き寄せる渾身の一発だった。
「走っている最中に拓人からアイコンタクトがあって、パスが来るかなと思いつつ、でも彼はああいう形でのリバースレイアップも得意なので、(パスが来るのを)期待しながら待っていました」
山崎は笑顔でそう振り返った。中村も「パスを出した瞬間に入ると思いましたし、信頼関係というか。(山崎が)ノーマークだったらどんどんパスを出したいと思っていますし、常にそういう話もできています。それで実際に決めてくれました」と話した。
山崎はチャンピオンシップの7試合で3Pを26/45成功の57.8%という驚異的な確率を記録している。成功数はCS出場全選手の中でトップ、成功率も合計10本以上試投している選手の中では断トツの数値だ。
ブレックスメンタリティが
今のキャリアにつながっている
このパフォーマンスから、Bリーグ公式SNSでは「CS男」と紹介される山崎だが、そのキャリアは決して順風満帆ではない。
Bリーグ初年度の2016-17シーズンは富山グラウジーズでプレーし、次のシーズンには栃木ブレックス(現宇都宮)に移籍。リーグトップクラスのクラブでは限られたチャンスで高水準なプレーを続けることを求められた。そして、宇都宮で3年を過ごしたのちに20-21シーズンには当時B2だった群馬クレインサンダーズに移籍。その後、B1昇格に貢献し昨季までプレーすると、今季から活躍の場を広島に移していた。
徐々にロールを増やし、今ではファイナルを戦うクラブのエースシューターとなった山崎。彼は自身のキャリアを、特に宇都宮での経験がもたらすものをこう振り返った。「1年目は富山で1シーズンプレーして、すぐにブレックスに移籍しました。やっぱりそこで学んだブレックスメンタリティは今でもあると思っていますし、その心が今の僕のバスケットを支える土台になっていると思います。あそこで3年間培ったものは本当に大きいです」
奇しくも、バスケットLIVEでこの試合を解説していたのは、宇都宮時代の恩師・安齋竜三HC(越谷アルファーズHC)だった。山崎の活躍を、安齋HCも喜んだことだろう。
ただ、これだけ活躍し、注目されても山崎はいつものポーカーフェイスのままだ。前述した中村のアシストからの3Pが決まった後も顔色一つ変えず、セレブレーション一つせずにディフェンスに戻っている。リードしていても劣勢でも、メンタルは全くぶれない。その点について山崎に尋ねると、以下のような答えが返ってきた。
「元々そんなに感情を出すタイプじゃないので(笑)、試合中に自分のシュートが決まってもどんどんゲームは進んでいきますし、最後まで何があるか分かりません。試合が終わって、勝って喜びを出せればと思っているので、試合中は常に落ち着いて平常心でやっています。多分、バスケットをやり始めてからずっとそうだと思います」
もちろん、一つのプレーに一喜一憂し、感情を全面に出してプレーする選手はチームにとって重要だ。だが、それと同じくらい、どんな状況でも動じないメンタルを持った選手は重要で、そうした選手がチームに揺るがない一本の筋を通してくれる。
ゲーム3は勝った方が優勝だ。何が起こるか分からない。この最終決戦では、山崎のプレーはもちろん、彼のメンタリティが広島の初優勝のカギを握りそうだ。
写真/石塚康隆、取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)