月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2024.05.10

B1チャンピオンシップ 宇都宮ブレックス対千葉ジェッツの見どころ――勝った方が王座獲得の可能性大? 不思議な歴史を持つ両チームの対戦

5月6日に都内で行われた「日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24」進出会見より(写真左=比江島慎[宇都宮ブレックス]、右=金近蓮[千葉ジェッツ]/©B.LEAGUE)

510日(金)に日環アリーナ栃木で幕を開ける「日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2023-24」のクォーターファイナル、宇都宮ブレックス対千葉ジェッツの見どころをまとめる。この日のGAME119:25からで、以降翌11日(土)のGAME219:30、もし11敗のタイとなった場合のGAME313日(月)の19:25に試合開始となる。


両チームがB1チャンピオンシップ(以下CS)で相まみえるのは5度目のこと。最初の対戦はブレックスが「栃木ブレックス」という呼称だった2017年のクォーターファイナルで、このときはブレックスがスウィープでリーグ初代王者への道を切り開いた。2度目に戦った2019年のセミファイナルでは千葉Jがリベンジを果たしてファイナルに進出している(ファイナルではアルバルク東京に敗退)。3度目はどうかというと、2021年のファイナルで王座を賭けて戦い、千葉Jが初の王座獲得に成功した。直近のケースは2022年のクォーターファイナルで、このときは宇都宮がスウィープして勢いよくチャピオンシップ・ランをスタートさせた。



こうしてみると、両チームが対戦した4度のCSで3度、その勝者が王座獲得に成功しているのは興味深い。今年のCSでもそんな過去の流れが続くのだろうか。宇都宮がクラブ最高勝率を更新する51勝9敗(勝率.850)という高い勝率を残していることを思うと、あながちそんな可能性も低くないのかもしれない。ただし、実はこれまでに6度開催されたCSの歴史(2020年はコロナ禍で開催されなかった)において、リーグ最高勝率を達成したチームが一度も優勝できていないというデータがあるのも、おもしろい運命のいたずらだ(それでもリーグ最高勝率チームは6度のCSで5度ファイナリストになっている)。

今シーズンの直接対決を見ると、宇都宮が千葉Jに負けなしの4連勝。それも以下のとおり、4試合中3試合が千葉Jのホーム開催だったにもかかわらず、いずれも宇都宮が2桁点差で快勝を収めていた。

1220日(日環アリーナ栃木) 宇都宮 78-65 千葉J
327(船橋アリーナ) 千葉J 70-93 宇都宮
427日(千葉ポートアリーナ) 千葉55-82宇都宮
428日(千葉ポートアリーナ) 千葉J 74-85宇都宮

ただし、214日に船橋アリーナで行われた天皇杯セミファイナルでは、千葉Jが前半一時21点あったビハインドを跳ね返して78-72で勝利している。千葉JEASL(東アジアスーパーリーグ)に平行参戦しながらその天皇杯を制し、故障者もある中でEASLでもチャンピオンシップを獲得した誇らしい実績もある。心機一転のクォーターファイナルでは、レギュラーシーズンの成績が反映されるわけでもない。ゼロからのスタートは何が起きるか誰にもわからない。


比江島慎と富樫勇樹、それぞれの存在感

両チームがクォーターファイナルで良い結果を得るためのカギを挙げるとすれば、最大のものは両エースと言える比江島慎と富樫勇樹のパフォーマンスということになるだろう。

言うまでもないことだが、比江島は昨年のFIBAワールドカップ2023で日本代表がパリ2024オリンピック出場権獲得に成功する過程で、勝利の立て役者となった後の今シーズンだ。世界を驚かせたリム・アタックとロングレンジゲームの切れ味はシーズン中も冴えわたり、3P成功率44.0%でB1のベスト3P成功率賞にも輝いた。この確率自体はキャリアハイではないが、1試合平均アテンプト数が初めて4本を超えた2020-21シーズン以降では最高値だ。

これまでは、動く方向とスピードを自在に変えながらゴールに突き進む「比江島ステップ」という武器が「シグニチャー」だったかもしれない。しかし今や、3P成功直後の感情豊かなセレブレーションの方が、お茶の間ではおなじみなのではないだろうか。自身のスタイルを少しずつ進化させながら、宇都宮に移籍してからの6シーズン中2番目に高い平均12.6得点のアベレージも残せていることは高く評価されるべきだろう。

チームとしての宇都宮は、平均失点69.2というリーグ最強のディフェンスを最大の武器としている。千葉Jとの直近の対戦でも、千葉Jはペイントタッチを思うようにできないままミドルレンジや3Pエリアからタフなプルアップ・ジャンパーを打たされるケースが多かった。そこにきてオフェンスでは、変幻自在な比江島が脅威となる。翻弄された相手ディフェンスが深追いすれば、遠藤祐亮やD.J・ニュービルらにオープンルックが生まれ、良い形でゴールを狙ってくる。ほかのどのチームも、数字以上に比江島に苦しめられているのだ。

さらには、ギャビン・エドワーズや竹内公輔らビッグマンが体を張ってリバウンドやディフェンスで奮闘する。宇都宮の好成績は、彼らが誰にも根負けしないファイターであることを示している。




比江島慎の脅威は、実際に対峙すると外で見ている以上に大きく感じられるに違いない(写真/©B.LEAGUE)

それでは千葉Jが勝機を見出すにはどうすべきなのか。比江島とともに日本代表のヒーローとなった富樫勇樹をはじめ、クリストファー・スミス、ジョン・ムーニー、ゼイビア・クックスらの名前を見て、個々の戦力で劣っているとはまったく思えないのに、Bリーグでは望むような結果とまでは言えない状況だ。

ヒントはやはり、今シーズン開幕以降で唯一宇都宮に勝利した天皇杯にあるのではないだろうか。

あの試合では、第1Qを終えて6-24という不利な展開に、チーム全体が消沈したムードに包まれていた。違ったのは、この試合で3P9本中5本を成功させて29得点を記録した富樫だ。数字以上に印象的だったのは、得点を奪うたびに笑顔を輝かせていたこと。試合後の会見では、「(試合の前から)多くの人が宇都宮有利と思っていたと、僕は思っていました」と話し、「味方が相手を怖がっているように、僕は見えました。そこを無理やりでも自分でこじ開けなければいけなかった」という試合中の心境も明かしている。

富樫がブザービーターとなる3Pショットを含む13得点を挙げ、55-583点差に迫った第3Qの流れで、「こじ開ける作業」が確かに遂行されていた。最終クォーターには宇都宮は落ち着きを失っており、残り約4分を残して67-67の同点となった場面で比江島がファウルアウトしてからは、千葉J11-2の決定的なランで試合を締めくくった。





千葉ジェッツのエース富樫勇樹はスタッツ以上に精神的支柱としてチームをけん引している(写真/©B.LEAGUE)

今の千葉Jには、あの日の富樫と同じ姿勢をチームで共有することがまず必要だろう。その上で、スカウティングを含む戦術面の駆け引きを、自信を持って遂行することができるかどうか。それが千葉Jにとっての勝利のカギなのではないだろうか。



文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB)

タグ: 宇都宮ブレックス 千葉ジェッツB1チャンピオンシップ

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