月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2024.05.07

篠山竜青が川崎の未来に馳せる思い「どういう選手たちと文化を築いていくのか。その姿勢が大事」

最終節の第1戦で千両役者ぶりを発揮

B1リーグは60試合の長いレギュラーシーズンを終え、今週末からいよいよチャンピオンシップ(CS)に突入する。

しかし、そこに川崎ブレイブサンダースの名はない。

横浜ビー・コルセアーズとのレギュラーシーズン最終節に臨む時点で、川崎は中地区4位、ワイルドカードでも4位の32勝26敗としていた。ここからCSに出場するためには、まずは自分たちの連勝が必須条件。加えて、ワイルドカード2位の千葉ジェッツが連敗すること、あるいは中地区2位のシーホース三河が連敗すること、さらには同じく中地区で1ゲーム差を追うサンロッカーズ渋谷の試合結果も影響していた。いずれにしても、千葉Jと三河が勝利した時点で、自分たちの試合結果に関係なくCS出場への芽は摘まれる状況だった。

第1戦のティップオフは15時35分。試合開始からほどなくして、先に試合が始まっていた千葉Jが秋田ノーザンハピネッツに勝利。さらに、3Q中には三河が三遠ネオフェニックスに勝利し、川崎のCS進出の希望は絶たれた。

もちろん、チームや選手はそれを知らない。クラブスタッフの中には他会場の結果を追う担当者もいたはずだが、それは伝えない。コートサイドで写真を撮影しながら結果を追っていた我々記者陣もいち早くその事実は分かっていた。川崎ファンの中にもそれを察した方はいたはずだ。

第1戦は大接戦だった。前半はデビン・オリバーが3Pシュートやカッティングからリズム良く得点した横浜BCが試合をリードし、7点差で折り返す(43-36)。3Qでも河村勇輝とカイ・ソットを中心にさらに点差を広げ、最大13点の差をつけた。



しかし、試合はまだ終わらない。勝負の4Qで真価を発揮したのは篠山竜青だった。ニック・ファジーカスに次ぐチーム2番目の年長者、川崎一筋12年を戦うベテランは4Qで10分間フル出場。開始わずか9秒で3Pを射抜いて点差を1桁に戻すと、その約3分後にも再び3P、さらには4本のアシストで味方のチャンスを演出。残り3分16秒には速攻からレイアップをねじ込み、川崎に2Q中盤以来初となるリードをもたらした。

この大活躍には佐藤賢次HCも「今日は(藤井)祐眞が激しくディフェンスをされて難しいシュートを打ってしまったりと、ゲームコントロールの部分で少し苦戦している中で、竜青はその情報をもとに、どこがチャンスでどこがズレるのかというところをPGとしてしっかりとコートで表現してくれました。プラスマイナスも今日に関しては竜青が+24で、祐眞は-18でした。経験のあるPGとしての実力を遺憾なく発揮してくれたと思います」と賞賛。

延長戦までもつれたこの試合で、結局篠山は最後の15分間コートに立ち続けた。そして、記録した全11得点を4Qと延長戦だけで記録した彼の活躍、さらには河村へのしつこいディフェンスで貢献した長谷川技や飯田遼の粘りなどもあり、川崎は総力戦で横浜BCを退けたのだった。

「自分が出たときにはもっともっと人とボールが動くようにと意識していますし、コート上の5人の強みと弱みを考えてプレーするところが、今日は良い形になったと思います。一つの指標でしかないですけど、プラスマイナスはシーズンを通して自分の中で気にかけていた数字。スタッツに表れない部分やゲームコントロールで貢献できればというのは、ここ数シーズン同じ思いでやっています」

篠山は自身のパフォーマンスをそう振り返った。

「再建だからといって選手を簡単に切るようなクラブではあってほしくない」

だが、冒頭でも述べたように川崎はCS出場を逃し、横浜BCとの第2戦が今季最後の試合になることが決まっていた。

「他会場の結果もあって、明日で最後の試合になりますが、最後まで川崎らしく戦って、会場に来てくれる方々や応援してくれる人たちに一つの商品価値として良いゲームを届けなければいけないと思います。またしっかり修正して、明日も勝って終われるようにと思います」と篠山。

ひとしきりの回答の中でも筆者に中で刺さった一言は、「自分たちで招いた結果」という言葉だ。

悔しさやCS出場の連続記録が途切れてしまったことへの失望感はもちろんあっただろう。ファジーカスの引退というエモーショナルな出来事を迎える前日という状況もあり、この言葉はある意味ではドライでもあった。しかし、それ以上に結果を受け止めてクラブとして前に進まなければいけないという決意──この言葉からは篠山のそんな心境を、そして今季の川崎の苦悩を垣間見た。

ファジーカスの引退に伴い、川崎は否が応でも再建に向かうことになる。Bリーグ開幕以降は毎年ロスターチェンジはしながらも、ファジーカスに合う選手を探しながら篠山、藤井、長谷川らコアメンバーを変えずに戦ってきた。だが、全ての中心であったファジーカスが去る来季は大改革が予想される。どんなコンセプトで誰を中心に据えたチーム、文化を作っていくのか。それは北卓也GMをはじめとしたフロント陣に託された最重要タスクだ。


ホーム最終戦では、次節があったこともありファジーカスへの思いを「あえて出さないように我慢していた」と篠山

チームメイト、そして友人としてファジーカスの相棒となったジョーダン・ヒースはどうなるのか。フィジカルでサイズもあり、ショットクリエイターにもなれる今が全盛期のトーマス・ウィンブッシュとロスコ・アレンは引き止めるのか。自らのプレーで出番を勝ち得た飯田や益子拓己、野﨑零也にはどんなオファーを提示するのか。そもそも、篠山や藤井らコアメンバーはどうするのか。ファジーカス時代のような強固なチームカルチャーを作り、これから探す自分たちの新たな強みを再構築する。その土台作りとして、このオフシーズンは今まで以上に重要なものとなる。

篠山は言う。

「この結果をしっかりと受け止めてクラブとして…再建と言っていいと思いますが、迷うことなく舵を切るところをしっかり切らないといけないと思うし、改めてニックがいなくなった後の川崎ブレイブサンダースはBリーグの中でどういう存在であって、どういう歴史をここからまた築いていくべきなのか」

「スタッツや試合での活躍だけを見てチームを編成するのではなく、リスペクトし合える人間関係が築けるとか、努力し続けられるとか、そういう人間がいることによってチームとしての文化や強さが築かれていくと思います。再建だからといって、試合にあまり出ていない選手を簡単に切るようなクラブではあってほしくないと心から思います。クラブとしてどういう選手に来てほしくて、どういう選手たちと文化を築いていくのか。その姿勢が大事だと思います」

その口調は力強かった。そして、切実だった。

川崎は来る2025年に創設75周年を迎え、その3年後の2028年には1万人収容の新アリーナも開業予定と、大きな節目を迎える。横浜BCとの第2戦は79-87と黒星。結果としては無念のシーズンエンドとなったが、ファジーカスのラストゲームとなったこの試合は、一時代の終わりであり、新時代の始まりを告げるものでもある。

ファジーカス時代を過去の栄光としてしまうのか、それとも歴史の大切な1ページとして未来につないでいくのか。この夏、川崎ブレイブサンダースの真価が問われる。

取材・文・写真/堀内涼(月刊バスケットボール)

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