月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2024.03.09

【EASL Final Four】富樫勇樹、別格の“タフさ”をアジアに知らしめる28得点

勝負どころで躍動しゲームハイの得点

東アジアスーパーリーグ(EASL)の優勝をかけた「EASL Final Four 2024」が、フィリピン・セブ島のフープスドームにて幕を開けた。

2グループに分かれたリーグ戦を勝ち抜き、グループAからは6戦全勝の千葉ジェッツと安養ジョングァンジャンレッドブースターズ(KBL/韓国)、グループBからはソウルSKナイツ(KBL/韓国)とニュータイペイキングス(プラスリーグ/台湾)の4クラブが勝ち残った。

千葉Jの初戦の相手はニュータイペイ。序盤はリズム良く得点し、1Qで32得点を奪った千葉Jだったが、ニュータイペイの見事な連係プレーとハードなディフェンスに阻まれ、2Qと3Qはビハインド。特にワイドオープンの3Pシュートがなかなか決まらず、4Qを残して1点のビハインドと我慢の時間が続いた。

その時間帯に別格の存在感を放ったのが富樫勇樹だった。試合前日の記者会見に出席したSKのオ・ジェヒョン、安養のレンツ・アバンドゥ、そしてニュータイペイのジョセフ・リン(ジェレミー・リンの実弟)は、そろって富樫の名を千葉Jの警戒すべき選手として挙げていた。特に準決勝でマッチアップすることになるジョセフは富樫について「彼はタフなショットを打ちますよね。彼がそういうショットを気持ち良く打てないようにする方法を見付けるしかないです。彼が2本連続で3Pを決めたら、どんな3Pでも決めるような気がしますから。良いシュートコンテストをしたり、彼をスローダウンさせる方法を見付けて、彼にできるだけ不快に感じてもらえるようにしないと」と話していた。


ジョセフ・リンとマッチアップする富樫

その言葉どおり、試合開始から富樫へのプレッシャーを強め、富樫自身も思うようにプレーできない時間帯もあった。だが、終盤になればなるほど、勝負師としての富樫のパフォーマンスがニュータイペイを凌駕していった。

3Qまでで21得点を挙げていた富樫は、4Q残り5分のクラッチタイムと呼ばれる時間帯に差し掛かると更にギアを上げた。まずは5分11秒に右ショートコーナーからジャンパーをヒットし千葉Jにリードをもたらすと、再逆転を許した3分18秒には同点に追い付く3Pをヒット。さらに、残り1分21秒にはビッグマンに囲まれながらもリードを2ポゼッション(87-82)に広げるレイアップをねじ込んでみせた。4Qの全7得点がクラッチタイムに挙げたものだったのだ。

富樫は試合の総括としてこう語っている。

「反省点は多くありますが、相手にやられたことを修正してやるしかないと思います。相手もすごい良いリズムで点を返してきたので、なかなか止めるのは難しかったですが、勝負どころでシュートが入るまで我慢できたと思います」

6本の3Pを含むゲームハイの28得点に5アシストの活躍で、現地の観客からも大歓声を浴びた富樫。抜群のテクニックで観客を魅了した彼だが、改めてアジアのバスケットボールファンに知らしめたことの一つが、心身のタフさだった。



特にフィジカル面ではBリーグの試合はもちろん、日本代表戦や天皇杯、そしてEASLと誰よりも多く試合に出続けている。現在も右手の親指の付け根付近を痛めているが、その影響を微塵も感じさせず、そればかりかEASLの過密日程をプラスに捉えるコメントまで出している。

「コートの影響やボールの違いなど、違う環境でなかなか難しい部分は正直ありました。それでも意外とEASLの公式球でシュートタッチが良い選手も多かったり、僕も含め、Bリーグの試合で調子が上がらなかった後のEASLの試合が良くて、自分の中で良い気持ちでまたBリーグに戻るということもあります。スケジュールを考えたら厳しいですが、意外と悪くないプラスな部分が僕にはすごくあったので。(EASLのゲームでは)30数点取ったり、オーバータイムだった試合もありましたが、気持ち良くプレーできています。チームとして(B1の)リーグ戦に加えてもう6勝しているという感じで、僕はプラスに捉えています」

実際、Bリーグでの過去5試合はFG成功率がいずれも40%を切っており、特に3Pは5試合中4試合で20%未満だった。対してこの準決勝はFG成功率50%(10/20)、3%成功率46.2%(6/13)という高水準で終え、富樫の中ではリセットの試合にもなったというわけだ。

ちなみに、上記の答えは「試合序盤のハンドリングミスなどに右手のケガの影響はないか?」との問いへの答え。ケガの話には一切触れない回答が返ってきたあたりにも富樫のタフさが感じられた。

富樫は以前「コートに立つことに強いこだわりを持っています。多少のケガでも出場しますし、コートに立ち続けたいと思っている」と話していた。

人を惹きつける華やかなプレーは言わずもがなだが、このタフさこそが富樫勇樹のスペシャルな魅力の一つではないか。そう強く感じさせられる準決勝だった。

取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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