月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2024.01.24

【Bリーグ】オールスター史上初の女性レフェリー北沢あや子さんが語る魅力「緊張感と高揚感をいろいろな形で味わってほしい」

“空気を読んで”富樫勇樹のハイライトをお膳立て


3日間にわたって沖縄アリーナを中心に開催された「B.LEAGUE ALL-STAR GAME WEEKEND 2024 IN OKINAWA」は、大盛況ののちに幕を閉じた。DAY1からDAY3のそれぞれに見どころがあり、まさに“球宴”という言葉が当てはまるイベントになったことだろう。

中でも、メインイベントのオールスターゲーム本戦はエンタメ要素もありつつ、終盤は接戦となり、結果的にMVPを受賞したのは地元・琉球ゴールデンキングスの岸本隆一という完璧なシナリオを描いた。

【動画】富樫勇樹の5点プレーを見る

真剣勝負のレギュラーシーズンでは見られない選手たちの笑顔や組み合わせ、プレーの数々がファンを沸かせたが、最高のエンタメを作り上げたメンバーには当然、試合を裁いた3人のレフェリー、小澤勤さん、東祐二さん、そして北沢あや子さんも含まれる。


左から順に小澤さん、東さん、北沢さん

女性としてオールスターゲーム本戦を担当したBリーグ史上初のレフェリーとなった北沢さんに、試合直前に特別に話を伺うことができた。

まず、オールスターゲームの担当レフェリーがどういった選考で決定するかだが、基本的にはそのシーズンをもって定年となるベテランのレフェリーが選考されるという。そして、今回はその条件に該当する小澤さんと東さんに加え、Bリーグで活躍する女性レフェリーの代表として北沢さんに白羽の矢が立ったのだ。

「連絡をいただいたときには『まさか!』と正直思いました。ただ、やはりすごく光栄なことで、オールスターゲームでレフェリーができるのは一生に一度だなと。沖縄アリーナでの開催というところにもすごく興奮しました。実は、昨年のワールドカップをこのアリーナに見に来たのですが、それが個人的には初沖縄だったんです。映像では何度も沖縄アリーナは見ていたのですが、ワールドカップが開催されたこのコートに立てるという興奮が大きかったです」

北沢さんは緊張感と高揚感が入り混じったような表情で、オールスターゲームの担当に選ばれたことを知らされたときの心境を明かしてくれた。

今回はレフェリーもオールスター仕様のスペシャルユニフォームを着用。ブラックとゴールドのコントラストが美しく、デイゴの模様が沖縄らしさを演出していた。北沢さんにとってはこのウェアを着られることも一つの思い出で、「もともとはいろいろなカラーの候補があったのですが、個人的にゴールドが好きだったので良かったです。今日しか着ることがないという意味でもすごく貴重で、このウェアを見たときにもすごく興奮して、着るのが楽しみでした」と笑顔で語ってくれた。



普段は主婦業と並行しながら週末はレフェリーとして各地を転々とする日々。夫であり、同じくBリーグのレフェリーを務める北沢岳夫さんと二人三脚でバスケットボール界を盛り上げている。そもそも、レフェリーの道に進むきっかけとなったのは、18歳の頃に所属していたバスケ部に学生審判部があったことから。

そこからレフェリングの魅力にのめり込み、2014年にはJBA公認S級審判ライセンスを取得。現在はBリーグとWリーグの両トップリーグでレフェリーを務めている。ちなみに、S級・A~E級までのライセンスを保持する方は国内に計5万人以上いるが、その中でS級もしくはA級のライセンスを持つ方は480人程度(女性は112人)。その中でBリーグでレフェリーを務めている女性はたったの9人だそうだ。

それだけに、多様性という意味でも今回の選出は大きな出来事だった。北沢さんは自身の選出が今後のレフェリー界に与える影響について「Bリーグには今9人の女性レフェリーが所属しています。まだ、女性レフェリーがBリーグのコートに立つのは珍しいことかもしれませんが、昨年のワールドカップでも沖縄会場でアメリカの3名の女性レフェリーが吹いていて、日本戦の担当をされている方もいました。ワールドカップのような舞台に女性レフェリーが立つことも特別なことではないです。そのレベルのレフェリーが集まっているということであって、そこには男性も女性も関係ないと思っています。Bリーグでもそれは同じ。チャンスがあればこういう舞台に立って、よりレベルの高いコートに立ったときの緊張感や高揚感をいろいろな形で体験してほしいですね」と語る。

その表情はとても晴れやかで、心の底からバスケットボールを愛している一人のファンのそれだったように感じられた。北沢さんにとってレフェリーの最大の魅力は、その「緊張感と高揚感」だ。

「もう数時間後にはオールスターのコートに立つんですよね。今日はすごく楽しみたいと思っています。見渡したときに観客席のファンの顔が見えるようなコートだと思うので、ワクワクしますし、それが一番の魅力です」

オールスターゲームでも、レギュラーシーズンのゲームでも、あるいはBリーグのチャンピオンシップやWリーグのプレーオフでもその感覚は変わらない。



編集部が独断で選ぶ北沢さんのオールスターゲームでのハイライトは、富樫勇樹の“5ポイントプレー”を演出した場面だろう。比江島慎からファウルをもらって3Pシュートを沈め、4ポイントプレーのチャンスを得た富樫に対し、B.BLACKがハドルを組んでいる間にボールを渡し、そのフリースローを富樫は意図的にミス。自らリバウンドを拾ってゴール下を決め、実質的な5ポイントプレーを決めたのである。

「いわゆる空気を読むことが今日の私たちに課された一番大きな役割かと思います(笑)。ワールドカップで活躍した選手はもちろん、各クラブで人気のある・活躍している選手たちが沖縄アリーナに勢ぞろいするというのは、本当に今回しかないこと。集まった皆さんも、そういう選手のダイナミックでスピーディーなバスケットなどを見に来ていると思います。私たちがプレーするわけではありませんが、そこを最大限に見てもらえるようなレフェリングをしたいと思います」

そう意気込んでいた北沢さんと富樫によるファインプレーは、ファンを大いに楽しませた。

どんなリーグでも、レフェリーは基本的に批判されることはあっても褒められることはない。瞬時の判断が求められるがゆえに精神的にも体力的にも非常にタフな仕事だ。だが、北沢さんのようにバスケットボールを愛している人たちがレフェリーとしてコートに立っているからこそ、試合が成り立つことを忘れてはならない。

オールスターゲームから早くも半月近くが経過する。レフェリーに注目してゲームを見返してみたら、また新たな試合の楽しさに触れることができるかもしれない。


取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

PICK UP

RELATED