試合時間残り5秒…開志国際を破った藤枝明誠の奇策
残り5秒、2点リードで取った藤枝明誠の奇策
男子・福岡第一(福岡)、女子・京都精華学園(京都)の優勝で幕を閉じたウインターカップ2023。数々の名勝負が繰り広げられた同大会から、開志国際(新潟)と藤枝明誠(静岡)による準々決勝の攻防を、戦術的に視点から振り返ってみたい。
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<2点リードで残り5秒、相手ボール、チームファウルは1つ>
試合時間残り5.0秒で2点リード、自軍のチームファウルは1つ、相手ボールでフロントコートからのインバウンド。このシチュエーションでどんな選択をするだろうか?
まず、第一に抑えなければならないのは相手の3Pシュートだ。決まれば逆転を許し、一転して窮地に追い込まれてしまう。第2に、インサイドでのイージーなシュート、あるいはバスケットカウント。前者は得点に高い期待値が持たれ、決められればオーバータイムに持ち込まれる可能性が高まる。後者は3Pと同じく負けにつながる場合がある。できればどれにも該当せずに守り切りたいところだが、この中では2点を取られることは最悪、致し方ない。
だが、藤枝明誠はもう一つの選択肢を取った。
ウインターカップ男子準々決勝で前回大会王者の開志国際と対戦した藤枝明誠は、4Q最終盤に冒頭のシチュエーションに立たされていた。
スコアは76-74。残り5秒で#99ボヌ・ロードプリンス・チノンソが2本中1本のフリースローを沈めて2点差としたところで開志国際は最後のタイムアウトを取った。「最後は3Pでいこうと思っていて、澤田(竜馬)と平良(宗龍)のどちらでも空いた方でと思っていました」と開志国際・富樫英樹コーチは最後のポゼッションを振り返る。しかし、ここで藤枝明誠が取ったのはファウルゲームを仕掛けることだった。
ファウルゲームとは、一般的には終盤で負けているチームがファウルを仕掛けてクロックを止め、相手にフリースローを打たせた後にオフェンスのチャンスを増やすためにおこなう戦術として知られている。
しかし、プロの世界などでは相手に攻撃のチャンスを与えないための戦術として、ときおり使われることがある。この試合でいえば、5.0秒間の時間があればインバウンドパス以外にもう一度パスを回す、あるいはシュートフェイクをかけてドライブを仕掛けるなどの選択肢が取れたはずだ。しかし、チームファウル1という状況を逆手に取った藤枝明誠は#12赤間賢人がインバウンド後にすかさずボールマンにファウル。これをボーナススローを与えるギリギリのチームファウル4つまで、3回連続で行ったのだ。
コート上の選手がボールに触れた瞬間にクロックは進むため、開志国際は赤間の3ファウルの間に貴重な時間を3.7秒も削られてしまった。5.0秒と1.3秒ではできることは大きく異なる。結局、開志国際は#4澤田が遠い位置でボールを受けて苦し紛れの3Pを打たざるを得ないシチュエーションに持ち込まれ、敗れたのだった。
バスケットボールをよく見る人にとっては、ある意味では予測できた結末だった。富樫コーチはこのプレーについて言及はしなかったが、少なからず頭の中でよぎっていたプレーだったかもしれない。
しかし、言うは易し、行うは難しである。もし、少しでもファウルするタイミングや位置がズレていたらシューティングファウルを取られていたかもしれない。インバウンド前にファウルを行ってしまえば相手にフリースローとポゼッションを与えてしまう。そうなれば最悪の場合、試合がひっくり返っていた可能性もあった。藤枝明誠・金本鷹コーチは一連のプレーについて以下のように語っている。
「最初に言ったのが、スローインの場面でパサーがフロアにボールを入れる前にファウルをしたら無条件でフリースロー1本と相手ボールでのスローインになってしまうから注意しろと話して、次にボールを持った選手のマークマンがボールを取りにいきながらファウルしなさいと指示しました。あまりにも露骨にやってしまうとアンスポーツマンライクファウルになってしまうので。そこは赤間がうまくファウルを3つ使ってくれました」
高校生ながらにここまでうまくファウルを使った#12赤間は見事だった。そして、注意点を的確に伝えた金本コーチの指示もまた、見事だった。
ここまで正確な指示ができたのは、金本コーチがかつて静岡県内でも上位に位置する審判員の資格を保有していたから。今はその資格を返還したそうだが、「あの知識はもともと選手たちにも入れていたものでした。私自身が審判の資格を持っていたこともあって、審判の方と話をしたり、ルールについてはしっかりと理解しておかなければ選手たちが辛い思いをしてしまうかもしれないので、ルールが変わるたびに都度話をしていました」と金本コーチ。
ウインターカップ期間中、男女を通じて同じような場面は何度か見た。しかし、ファウルゲームで時間を消費させる選択を取ったのは、筆者が見た限りではこの試合の藤枝明誠のみであった。接戦でリードしている場面での正攻法がこの戦術というわけではないし、場面に応じて的確なプレーを選択しなければならない。ただ、メインコートの緊迫した場面でこの選択ができるあたりに、藤枝明誠の強さとクレバーさを感じることができた。
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文/堀内涼(月刊バスケットボール)
タグ: ウインターカップ2023