月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2023.12.31

B2後半戦で大変身する? 岩手ビッグブルズが怖い存在である理由

12月30日の愛媛オレンジバイキングス戦で3Pショットを狙う蒔苗勇人(写真/©B.LEAGUE)

※以下、文中のデータはすべて12月30日までの日程を終えた段階でのものです。

B3からB2への昇格を果たした今シーズンの岩手ビッグブルズは、開幕直後から111敗で、上位カテゴリーの洗礼を浴びたような厳しい経過をたどってきた。これまでにB1からB3まで3カテゴリーすべてでコーチの立場を経験してきた鈴木裕紀HCとしても、「年越しのタイミングでこれだけ苦しいのは(自身のキャリアで)初めて」というのが実感だ。


しかし、1112日に神戸ストークスを78-69で倒し、翌週の18日にも福島ファイヤーボンズに86-85で勝利して今シーズン初の連勝を記録したあたりからは、流れが徐々に上向きになってきている。愛媛オレンジバイキングスをスウィープした1229日・30日の連戦を終えて、シーズン通算成績は721敗(勝率.250、東地区6位)まで改善。この直近2試合はGAME12,055人、GAME22,401人とクラブとして今シーズン最多の入場者数記録も連日更新しており、ブースターが希望を持って見守っていることも感じられる。

レギュラーシーズンは残すところ約半分。ここからプレーオフ進出を果たすには、910ゲーム差をひっくり返していかなければならない。それが可能かどうかは時が過ぎるのを待たなければわからないが、大変身の可能性を示す兆候をこのチームは示している。そのいくつかをまとめてみたい。





B2トップレベルのディフェンス力

岩手は12月に入ってからも47敗と負け越しているが、チームの特徴であるディフェンス力が週を追うごとに力強さを増してきている。平均失点は76.0。これはリーグ全体の4番目に少ない数字だが、月ごとの平均を出してみると10月が78.618敗)、11月が77.826敗)だったのに対し12月は72.6と大きく改善した。12月に負けた相手は越谷アルファーズ、山形ワイヴァンズ、滋賀レイクス、アルティーリ千葉といずれも現時点で勝ち越しているチームばかりだが、それでも岩手のディフェンス力は改善を続けているのだ。愛媛とのホーム連戦もGAME179-73GAME276-73で、やはりディフェンシブな試合展開が勝利に結びついた。

ディフェンス面で個別のスタッツを見ると、フォワードのケルヴィン・マーティンが平均2.1スティールでリーグ1位(マーティンは平均12.1得点、6.1リバウンドも記録している)。それだけでなく、もう一人の外国籍フォワードのマルティン・クラムポルも、平均1.8スティールがリーグ2位で平均1.0ブロックもリーグ6位タイ。クランポルはチームトップの平均16.1得点に加え、リバウンドも6.5本というチームの要だ。


マルティン・クラムポルは攻守でチームの要と言える活躍ぶりだ(写真/©B.LEAGUE)

1223日にアルティーリ千葉とのGAME1を66-75で落とした後の会見で、鈴木HCはディフェンスの仕上がりについて、「(開幕当初は)チームルールが浸透していなかった中でディフェンス面のいいところが出せなかったんですけど、そこから少しずつ積み上げてきてだいぶ形になってきたという手応えを感じています」と話していた。

「ディフェンスに関してはどこと対戦してもロースコアで、自分たちのゲームプランどおりに進めているので手応えはあります」。「点数が入らなくても試合に勝つためにディフェンスはチームとしてやり続けよう、スモールもビッグもなく変わらずやり続けようと話しています」。鈴木HCはチームディフェンスに対する自信や意欲をうかがわせる言葉を何度となく語っていた。

希望をもたらす新戦力の活躍

うまく機能し始めたディフェンス面に対して、オフェンスに関してはまだ課題がありそうだ。岩手の平均得点70.2はリーグ最少。シューティングに関しても、フィールドゴール成功率40.6%はリーグワースト、フリースローはアテンプト13.0本、成功数8.8本ともリーグ最少で成功率67.8%が神戸ストークスに次ぐリーグ13位、3P成功率30.4%はリーグワーストの愛媛と0.1ポイント差の13位と芳しくない。

鈴木HCとしても、この側面は「スコアが伸びない部分は難しいところ。シュートは簡単に自分たちがコントロールしてスコアできるという保証が何もありません」と頭を悩ませている部分。チームには、「たくさん点数を獲ろうというよりもチームでEOFEasy shot, Open shot, Free throw)をもらえるシチュエーションを作り出そうと話ている」という。「オープンができても決めきれないというのは数多くあるんですけど、それでもそこができていればチームとしてはOKだよと…」


鈴木裕紀HC率いる岩手ビッグブルズにとって、オフェンス面のパンチ力は大きな課題だ(写真/©B.LEAGUE)

しかしここにきて、愛媛戦から戦列に加わった特別指定枠の蒔苗勇人が、この現状に明るい希望をもたらす活躍を披露している。仙台大明成出身で現在中央大4年生の蒔苗を、鈴木HCは合流直後の愛媛戦GAME1からいきなりスターターで起用。蒔苗はこの試合で9得点を挙げた後、翌日のGAME2では3Pショットを12本中6本決めて20得点を記録した。身長187cmのスイングマンのデビューウィークは平均14.5得点、3P成功率40.0%(20本中8本成功)。力強い滑り出しという以上の出来栄えだ。

この蒔苗だけでなく、ほぼ同時期に特別指定枠で加わった菅原佳衣や11月に契約したエリック・トンプソンがチームオフェンスにどんな化学変化をもたらすかは、大いに注目すべきポイントだ。菅原はまだ出場機会がほとんどないが、トンプソンに関してはすでにペイントを活躍の場として力を感じさせている。ポストにポジションを確立した状態のトンプソンに、関屋 心や月野雅人らペリメーターのプレーヤーがいかにボールをうまく預けられるかが、強豪チームとの対戦では一つの課題になる。そこが改善されると、ドライブ&キックからだけではなくインサイド・アウトサイドのパスのやり取りを介して3Pショットを狙うこともできるようになり、確率の向上も期待できそうだ。


強豪チームに対し関屋 心らガード陣が冷静なプレーをできるかどうかは、岩手が今後巻き返しをできるかどうかの一つのカギになる(写真/©B.LEAGUE)

ショットが成功してもしなくても、オフェンスの終わり方が大事

もう一つオフェンス面での面白い着目点はリバウンドにある。鈴木HC1224日のアルティーリ千葉とのGAME2で相手にフリースローを41本与えたことについての反省で「うちのファウルが多い原因は(トランジションで)走られるところ。走らせないためには、オフェンスの終わり方が重要」と話していた。一方、アルティーリ千葉のアンドレ・レマニスHCはこの点について、GAME1終了後の会見で具体的に言及した。岩手は「タグ・アップ」というオフェンス・リバウンドのコンセプト(あるいはディフェンス面でのトランジションのコンセプト)を適用してきたのだという。


オフェンス・リバウンドとトランジションに関する遂行力も岩手にとって大きなテーマだ(写真は対愛媛戦GAME1でリバウンドに食らいつくエリック・トンプソン/©B.LEAGUE)

このコンセプトは大まかに言えば、味方がショットを放った後は全員でリバウンドに飛び込み、相手チームがペイント周辺に集まるように仕向けた上で、そのままディフェンスになってもマッチアップする相手を捕らえて走らせないようにする工夫だ。鈴木HCは「オフェンスの終わり方が悪くて走られてしまうと、ファウルが混んで一気にモメンタムを持っていかれてしまいます」とこの点の重要性を説明していた(この試合ではそれを遂行し切れなかったことが敗因の一つと分析していた)。

鈴木HCには、この部分の改善なしに年明け以降の巻き返しはないという捉え方がある。その現状において、アルティーリ千葉戦の連敗で速攻からの失点が24に達したのに対して、翌週の愛媛戦では半分の12で連勝できた事実は、何らかの意味を持っているのではないだろうか。

岩手の現状は決して楽観視できるものではない。ただし期待を感じさせる要素が多く、特にそれがディフェンス面での力強い改善を含んでいるだけに、チームの安定感が向上していくだろうことも予想しやすい。シーズン中盤・終盤でそれがどの程度のレベルまでできるか注目だ。





取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: 岩手ビッグブルズ

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