月刊バスケットボール1月号

Bリーグ

2023.12.23

杉本 慶、大崎裕太、前田怜緒——アルティーリ千葉ガード陣それぞれの視点

B22023-24シーズンは1220日の第13節までを終えて、アルティーリ千葉が222敗(勝率.917)の好成績でリーグ全体のトップに立っている。東地区では、同率で2位の座を争う越谷アルファーズと青森ワッツを7ゲーム引き離しており、西地区首位でリーグ全体2位のライジングゼファー福岡とも4ゲーム差。現在はクラブの最長連勝記録に並ぶ14連勝中で、1223日(土)・24日(日)に千葉ポートアリーナで行われる年内最後のホームゲームでは、クラブ新記録の15連勝・16連勝をかけて岩手ビッグブルズと対戦する。


見どころの豊富なクリスマス・ウイークエンドの2試合を前に、アルティーリ千葉のガードを務める杉本 慶、大崎裕太、前田怜緒の3人が今シーズン中の取材機会に聞かせてくれたコメントを振り返ってみたい。彼らの言葉には、チームの好調さの要因が詰まっている。


「どんな対策をされてもその上をいく」――杉本 慶

クラブ創設時から所属している杉本は、シーズン当初から11月に一時離脱するまでアシストランキングのトップ10を賑わしていた。現時点でも平均6.7得点、6.2アシスト(規定外ながらリーグ3位相当)という数字。リーグトップの88.7得点を記録しているアルティーリ千葉で、総得点のうち30%程度に杉本が直接的に絡んでいる。直近の福島ファイヤーボンズ戦も得点は4にとどまったがアシストが10。プレーメーカーの役割をしっかり果たした。


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10月の越谷アルファーズ戦を終えた後の会見で、杉本は「アルティーリ千葉のバスケットボールが昨シーズンまでからワンステップ上のことをやろうとしているので、日ごろの練習で詰めていけたらと思います」と話していた。地いつなスカウティングにより、杉本に普段なら打たないシューティングスポットから打たせるよう仕掛けてきた越谷のチームディフェンスに苦しめられたと言い、チームとして今シーズン初の黒星を喫した週末でもあった。しかし相手のレベルアップと警戒心を受けて、闘争心をさらに燃やしていたことが以下のコメントから感じられた。

「対策をされてもぶれることはないです。対策をされて僕が普段打たないショットを今日打ったということで、たぶんほかのチームも同じ対策をすると思うんですけど、そうされたからってそのシュートを打たないという選択肢はありません。僕としては対策されたら、普段打ってこなかったパターンはたぶんこうなるだろうという状況を練習して、その対策の上を越えていくこと。頑張っていこうと思います」

杉本は昨シーズンのプレーオフでB2残留が決まった後、「こんな事を言う資格があるからはわかりませんが、皆さんこれは大きな貸しを杉本に作ったと思ってください。その貸しを絶対に返します」とソーシャルメディアでメッセージを発信し、ファンに感謝と強い決意を伝えていた。その意気込みが、必勝を期す今シーズンの開幕後も確かに感じられる。数字とは別に、ベテランのこうした姿勢がチームを鼓舞していることは間違いないだろう。





「連勝に気を緩めず次の試合に向けて準備」――大崎裕太

大崎は3人の中で最も小柄な身長177cm。杉本とも前田とも違うクイックネスとリズムがあり、「僕はそんなに得点を量産する方ではないですけど、ディフェンスで前から当たって相手のリズムを少しでも崩せればいいなと思っています」と自らの持ち味を説明する。「スターターでもベンチでも、相手のリズムを崩すことを意識してやるようにしています」

1353秒の平均出場時間も3.5得点も3人の中で最も少ないが、フリースロー成功率85.7%はトップ。また、アシストとターンオーバーの比率(A/TO)が2.4(アシストが平均2.4に対しターンオーバーが1.0)というのも、チームとしてのターンオーバー数がリーグワースト2位の14.2というアルティーリ千葉では、大きな意味を持ってくる。ターンオーバーが多いことは、アグレッシブさの裏返しの側面もあるので、特に様々なチャレンジをしながら勝てている前半戦で、必ずしもネガティブな兆候と断じる必要はない。それでも、ポイントガードが堅実なボール運びをできると信じられることはやはり重要だ。


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大崎が直近5試合でスターターに抜擢されたのも、こうした長所があるからだろう。その間の平均得点は9.0に跳ね上がり、3P成功率は53.8%13本中7本成功)という素晴らしい確率。アシストも平均3.4に上昇しており、A/TO5.7と倍増以上――17本のアシストに対し、ボールを失ったのは3回だけ――というハイレベルなパフォーマンスで期待に応えている。

「序盤はあまり自信を持てずにやっていた時の方が多かったかなと思うんですけど、練習ではやれている部分もあるし、昨シーズンよりも自信を維持できています。やっていること、考えていることは(開幕当初も今も)変わっていません。良い結果につながってきてよかったです」というのが本人の弁だ(1217日のベルテックス静岡戦後)。

離脱者が複数いた中でアルティーリ千葉が連勝を続けられているのは、チャンスが来たときにそれを逃さず活躍した大崎のような下支えがあればこそ。「連勝していると緩んでくるというのをアンドレ(レマニスHC)も話しています。毎週、目の前の試合に集中して準備していることが今の連勝につながっているので、考えすぎずに次の試合に向けて準備するだけです」。このメンタリティーがチームに伝播していることも、間違いなく好調の要因だ。





「スタートを任され『やってやるぞ!』という気持ちしかなかった」――前田怜緒

26歳で3人の中では最年少の前田は今シーズンの新戦力で、若々しいエナジーで大いにチームの助けとなっている。身長191cmの高さにスピードを兼ね備えたコンボガードという特徴が生き、開幕前に聞いていた目標の2桁得点アベレージに近い9.5得点にリーグ8位の3.9アシストと、数字もついてきた。実は、敗戦が現在の好調のきっかけだったそうだ。1216日の静岡戦GAME2勝利後、前田は会見で以下のようなコメントをしていた。

「試合に正しいメンタルで挑む準備が、青森ワッツ戦のGAME1114日、78-81の黒星)あたりからできるようになりました。負けた試合から学ぶものがありました。あの試合ではけが人や体調不良などで人数が少なかった中で黒星という結果。それを受けて、どんな状況でも、どんな相手であっても自分たちのやることをやろうと。個人的に最初の数試合はなかなかそういう切り替えがうまくできなかったんですけど、最近はそれが良くなってきたかなという感じです。まだまだやらなければいけないですけど」


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17日の愛媛オレンジバイキングス戦からはスターターを務めるようになっているが、特に杉本欠場の中で同じB2東地区のライバルである越谷と戦ったアウェイのビッグゲームでスターターとしてプレーした週末(12月2日・3日)は、前田の闘志を強く駆り立てたようだ。


「スタートかどうかはコーチもチームも気にしていないですが、杉さんが体調を崩して自分がスタートを任されたときには、『やってやるぞ!』という気持ちしかありませんでした。本当にやるしかないという気持ちが強くて、それが越谷戦でのパフォーマンスにつながりました」。前田はその越谷戦で平均16.5得点、7.0アシストを記録。特にGAME223得点、11アシストのダブルダブルで勝利に貢献している。本人が語っている通り、まさしく気持ちが強く表れた活躍ぶりだった。

ユニークなチームの強みを最大限に膨らませるバックコートの“Aチーム”

オフとシーズン開幕後の補強により、今シーズンのアルティーリ千葉はチームの特徴がより鮮明になり、レマニスHCの表現したいバスケットボールを開幕からかなり高いレベルで表現することができている。熊谷尚也、アレックス・デイビス、デレク・パードン、そして身長226cmのビッグマン、リュウ チュアンシンの加入で、フロントラインのリムプロテクションとペイントでの得点力は一段と向上。前田の加入でバックコートも大型化し、攻守両面で破壊力が上昇した印象だ。

中でも、現時点では未完の状態とは言え、スーパービッグラインナップを組めることは大きな強みとなっている。例えばチームのリーディングスコアラーであるブランドン・アシュリー(206cm)とB12度ブロック王に輝いたデイビス(206cm)を、アジア枠のリュウと組み合わせたフロントラインの平均身長は212.7cmというワールドクラスの高さだ。そこに前田がガードを努め、熊谷(195cm)をウイングに起用すると、5人の平均身長でも204.8cm。運動量も非常に豊富で、コート上のあらゆるところにチャンスを生み出すことができる。24歳のリュウは経験面でまだまだ伸びしろが大きいが、それだけにシーズン終盤は今よりも恐るべきチームになっている可能性がある。コンディションさえよければ、ライバルチームにとっては大変な脅威だろう。


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しかし見る側としてはサイズ自体だけでなく、そのポテンシャルを3人のガード陣がどのように引き出していくかに着目すると、アルティーリ千葉のバスケットボールをより深く楽しめるのではないだろうか。バックコートの3人がそれぞれ強い思いを持って毎試合集中してコートに立つことで、シューターたちもビッグマンたちも縦横無尽の活躍ができるのだ。

有能なユニットを指す言葉に“Aチーム”という表現があるが、杉本、大崎、前田の3人にはまさしくそんな存在感がある。クリスマス・ウイークエンドの2試合でも、彼らがチームの総合力を最大限に膨らませられるかどうかが、クラブの連勝記録更新のカギになるのではないだろうか。



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: アルティーリ千葉

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