月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2023.12.01

選手からコーチへ、群馬U18山田大治コーチと京都U18内海慎吾コーチの試行錯誤の日々

京都ハンナリーズU18内海伸吾コーチ(写真左)と群馬クレインサンダーズU18に山田大治コーチ(写真右)

「プロは持っているものを表現するのが仕事。U18は表現するものを作り上げる期間」


11月30日から12月3日にかけて、栃木県の日環アリーナ栃木にて開催されている「B.LEAGUE U18 CHAMPIONSHIP 2023」。初日を終えて四つ角のシードを取るレバンガ北海道U18、名古屋ダイヤモンドドルフィンズU18、琉球ゴールデンキングスU18、そしてサンロッカーズ渋谷U18が順当に勝ち上がる一方、千葉ジェッツU18と大阪エヴェッサU18、さらには茨城ロボッツU18とU18川崎ブレイブサンダースによる1点を争う攻防(前者は83-78で千葉J U18勝利、後者は73-72でU18川崎勝利)も見られるなど、4面同時進行の各コートで激しい火花が散らされた。

【動画】群馬 U18、京都 U18の2回戦を見る

今回はそんな選手たちの奮闘をサポートする指導者の中から京都ハンナリーズU18に内海慎吾(元京都ほか)コーチと群馬クレインサンダーズU18に山田大治(元トヨタ自動車ほか)コーチの2名にスポットを当ててみたい。
それぞれに共通するのは選手時代に培った経験を選手たちの育成に還元しながらも、コーチという新たなステージで試行錯誤する姿だった。


群馬クレインサンダーズU18に山田大治(元トヨタ自動車ほか)コーチ

山田コーチは群馬がU18チームを立ち上げた昨年4月から指揮を執っているが、「立ち上げ当初はメンバー3、4人からのスタートでした。今は15、6人いますが、選手たちは県大会で1、2回戦のチームの中でなかなかチャンスを得られない子たちが登録変更という形でウチに入ってくれています。基礎がまだまだの子が多いので、そこからまずはやっています。それこそ、レイアップの指導もしたり」と、今なおほぼゼロのところからイチを生み出す日々だ。

今大会では初戦で香川ファイブアローズU18と対戦したが、結果は60-94の完敗。「練習してきたことが遂行できずに相手のプレッシャーにも負けてしまいました。ウチのチームは出だしが課題で、いつも後半に『ヤバい』となってスイッチが入るのですが、そのスイッチを前半から入れてほしいです。そこはコーチの責任でもありますし、今シーズンは勝ち星を挙げられていなかったので、どうしても勝たせてあげたかったのですが…」と山田コーチ。今シーズン最後の試合を終え、悲願の1勝は来シーズンに持ち越しとなった。

指導者と選手時代とのバスケットの捉え方の差については「指導者になってみて思うのは、プレーしている方がよっぽど楽だったなということですね(笑)。こちらの意図がなかなか伝わらなかったり、コーチと選手の熱量に差があるときがあったりもします。そこをどう乗せていけるかには日々悩んでいて、試合で負けると悔しがるけど、次の日には練習で気を抜いてしまうこともあったり。そこのバランスは難しいですね」と思いを口にする。一方で「今はまだまだですが、成功体験を重ねていけば選手たちも通用すること、しないことが分かってくるんだと思います。今はまだそこまで至っていないですが、それが形になったときのことを考えるとワクワクしますね。楽しみです」と選手やチームの伸び代が指導のモチベーションとなっている様子だ。




京都内海コーチ(写真左)とかつて東山高の監督をつとめていた田中幸信コーチ(写真右)

京都U18の内海コーチはまた違った環境に身を置いている。同チームの指揮を執るのはかつて東山高を指揮していた田中幸信コーチ。昨年の現役引退後に指導者に転身した内海コーチにとって、強豪校を長年率いた田中コーチは最高の師となる存在だろう。「田中先生は選手一人一人のことを本当に細かく見ているんです。これは私の性格かもしれませんが、『ミスしたけど次はアジャストするだろう』と見過ごしてもいい場面でも、しっかりとそれを選手に伝えるんです。すぐに気付いてすぐに伝える。そこはすごいなと思います。まだまだ私も指導者としては駆け出しなので、田中先生に教わりながらやらせてもらっています」

京都U18は現状、通年でトライアウトを実施しており、それを経てメンバーに加われるというシステムだ。中には東山高のバスケ部から登録変更しているメンバーも多いそうだが、その中で「高校では自分の満足のいく練習がなかなかできていない子たちもいて、ハンナリーズでバスケットに100%打ち込めるようになった子も多いです。ここに自分のバスケットを来て作り上げてきた子たちですし、特にU15を経験した子はこういった大きな舞台への慣れもありますね」と内海コーチ。なかなか日の目を見なかった選手たちを発掘・育成していくBユースの存在はU18世代に新たな可能性を与えている。

また、群馬U18の山田コーチなど、選手から指導者に転身した同志たちの存在は指導者としての内海コーチにとって大きな助けになっているそう。「去年ユースチームに関わるようになった頃は現場にあまり知り合いがいなくて少し寂しかったのですが(笑)、少しずつ選手上がりの方が指導者に進んできてくれたり、同世代のコーチが増えています。Bユースはそれぞれのチームが対戦相手ではありますが、こういう舞台を協力して作っていく関係でもあります。そうした協力体制があって助けてくれる方もたくさんいるので、指導者駆け出しの身としてはすごく頼もしいです」

指導者としてのやりがいについても「この世代は1年間で技術も体つきも大きく変わるので、成長が目に見えて分かります。プロは持っているものを表現するのが仕事ですが、彼らにとって今は表現するものを作り上げている期間です。こんなこともできるんだ、と感じたりできるのは楽しいです」と目を輝かせていた。

今回紹介した2人のコーチのほかにも、琉球U18の与那嶺翼コーチ、SR渋谷U18の秋葉信司コーチ、シーホース三河U18の高島一貴コーチ、そして三遠ネオフェニックスU18の岡田慎吾コーチなど、現役時代には所属元のトップチームでプレーしていたコーチが多くベンチに座っていた。

現役生活を終え、人生の第二章として指導者に転身する元選手は今後さらに増えていくことだろう。Bユースの誕生、そして発展はトップ選手のセカンドキャリアの新たな選択肢ともなっていきそうだ。



文/堀内涼(月刊バスケットボール)、写真/月刊バスケットボール

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