月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2023.10.10

6年ぶりにBリーグのベンチに復帰、小野秀二(バンビシャス奈良HC)の2023-24シーズン展望

10月8日の対アルティーリ千葉戦でチームに指示を出すバンビシャス奈良の小野秀二HC(写真/©B.LEAGUE)

プレーヤーとしてもコーチとしても、日本のバスケットボール界を代表する人物の一人である小野秀二が、バンビシャス奈良のヘッドコーチとして6年ぶりにBリーグ公式戦の舞台に戻ってきた。コーチングという意味では母校の秋田県立能代工業高校(現秋田県立能代科学技術高校)、大阪エヴェッサアカデミー校長(ゼネラルアスレティックマネージャー)兼U15ヘッドコーチとしてキャリアを重ねてきた。また、今年7月にはびわこ成蹊スポーツ大男子バスケットボール部総監督就任というニュースもあった。しかしBリーグの舞台で指揮を執るのは、アースフレンズ東京Zを率いた2016-17シーズン以来のことだ。


1078日の両日、千葉ポートアリーナで行われたB2開幕節のアルティーリ千葉戦では、故障者が複数出て万全とは言えないチーム事情も手伝い連敗スタート。しかし2試合を通じて、小野HCらしい勝負勘の鋭さや指導力の高さが感じられる流れがあった。

一つは、初戦で序盤から相手にペースを奪われた後、第4Qをリードして終え、GAME2も第3Q半ばまでは主導権を奪った事実だ。アウェイの千葉ポートアリーナは両日とも地元ファンが5,000人以上集まったが、GAME1ではティップオフ直後からホームのアルティーリ千葉が速攻で得点を重ねる展開となった。第1Q終了時点で奈良は13-28と15点差を追う状況。最終的にも80-9515点差で敗れた後の会見では、小野HCも「特に前半ファストブレークを出されたのが大きかった」と序盤の戦い方を悔いていた。「ガードとセンターの主力(柳川幹也とシェイク・ムボジ)がいないことで人のやりくりが難しい状況で、ビッグマンのキャム(キャメロン・ジャクソン)が早々に二つファウルしてしまったことなどで、うまくケミストリーを生み出せなかったかなと…」

ただ、第2Q以降は徐々に自分たちのペースを取り戻していた。キャプテンを務める身長186㎝のシューティングガード古牧昌也、新たに加わった身長188㎝のスモールフォワード林 瑛司、201㎝のフォワードながら機動力も兼ね備えたシャキール・ハインズらが躍動した後半は、スコア上も48-42とアルティーリ千葉を上回った。


故障でやや出遅れ気味だったという新戦力の林が2試合連続で2桁得点(GAME117得点、GAME211得点)に乗せたことは奈良と小野HCにとって大きな収穫だ(写真/©B.LEAGUE

「後半は、序盤に走られたことへの対応ということで指示を出し、前半速攻で11失点したのを2にするなど、本来の我々のゲームプランが遂行できました」。4つのクォーターを通じての速攻での得点は、バンビシャス奈良の14-13。小野HCは、「ディフェンスからのトランジションでイージーバスケットを狙う」というチームコンセプトを体現できたことに対して手応えを語っていた。「あれがゲームの最初からできるように。スピード感はバスケットボールの面白さですから、これはチームに要求しています」 

もう一つ、小野HCがGAME2の前半に使ったタイムアウトの効果にも触れておきたい。前日の反省から序盤で相手にイージーバスケットを許さないことを肝に銘じて臨んだGAME2で、バンビシャス奈良はその意図通りの展開で優位に立った。林が早い時間帯から好調に得点を重ね、クォーターの残り2分を切って本多純平が3Pショットを沈めた時点では、25-14とこの試合最大の11点差のリードを築いていた。

その状況からA千葉が徐々にペースを取り戻していく流れとなった第2Qに、小野HCはタイムアウトを2度要求した。最初は32-28の4点差に詰められた残り6分6秒。古牧がトラップディフェンスでボールを奪われ、速攻を止めようとした際にアンスポーツマンライク・ファウルを取られた場面だ。この直後A千葉は、前田怜緒がフリースローを2本ミスし、続くオフェンスも木田貴明のフィールドゴールが外れて、結局奈良は失点することなくしのぐことができた。

もう一つのタイムアウトは、熊谷尚也のベースラインドライブからのフローターで40-39とされた残り2分7秒。アンドワンのフリースローも得た同点機だったが、熊谷はリズムを狂わされたかこの一投をミスし、奈良はボールを奪い返したのだった。


小野HCは、GAME2でビッグラインナップによるゾーンディフェンスが奏功したこともポジティブな要素として語っていた(写真/©B.LEAGUE

結果的にどちらのタイムアウトも、一気に流れが相手側に傾きそうな場面を切り抜けた形だ。試合後その点について尋ねると、小野HCは「そうなんですよね」とわずかにうなずきながら、「フリースローはディフェンスがいないので簡単なはずなんですけど、ちょっと長く休むことで雰囲気が変わるときがあるんです」と話した。アンスポーツマンライク・ファウル直後はタイムアウトのコールも当然だったといえばそうかもしれない。A千葉のフリースローのタッチがこの日全般に悪かったと言えばそれも確かにそうだろう(33本中18本成功の54.5%だった)。しかしそれ以上に、小野HCの経験の奥深さも感じられる出来事だった。

活況に沸くBリーグ、第2節はホームの奈良で勝利を目指す

さて、いずれにしても小野HCとバンビシャス奈良にとって、連敗スタートが喜ばしいものではなかったのは間違いないだろう。しかし小野HCは、千葉ポートアリーナを2日間ほぼ満員にしたホームとアウェイのファンへの敬意も込めながら、かつてない熱気の中で公式戦のベンチに戻ってきた喜びも語っていた。
「やっぱりうれしいですよね。(盛り上がりの)要因としては夏のワールドカップで代表チームが頑張ってくれたのが一番大きいと思うし、多くの人にバスケットの面白さを伝えてくれました」

アウェイでもホームでも、バスケットボールを愛する人にとってコートは故郷のようなものなのだろう。「コートと観客との距離が近くて、床をキュキュッとカットする音や選手同士がコミュニケーションをとる声が聞こえますよね。初めての人も、会場に見に来てくれたら間違いなくバスケットボールの魅力にはまってくれると思います。(こんな活況が)長く続くといいですね」

次戦は神戸ストークスをホームに迎え撃つロートアリーナ奈良でのホーム開幕戦。今度は地元ファンからの後押しを受け、バンビシャス奈良がどんなプレーを見せるか、小野HCの采配とともに注目したい。


身長203㎝の日本人ビッグマン三森啓右が2試合で30分越えの出場時間を得て、特にGAME2ではフィールドゴール3本中2本を決めてきたことも明るい話題。小野HCは「まだ58試合あるので、どんどん伸びていってほしい」と期待を寄せている(写真/©B.LEAGUE)



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: バンビシャス奈良 B2リーグ

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