月刊バスケットボール6月号

3x3

2023.09.20

【3x3.EXE PREMIER 2023 PLAYOFFS】落合知也、矢上若菜、それぞれのパリへの思い

10シーズン目の「3x3.EXE PREMIER PLAYOFFS」
男子はALPHAS.EXEが初優勝、女子はYOKOHAMA G FLOE.EXEが連覇

会場となった大森ベルポート アトリウム


5月に開幕した国際バスケットボール連盟(FIBA)承認の3人制グローバルプロリーグ「3x3.EXE PREMIER」の2023シーズンは、日本、タイ、ニュージーランド、オーストラリアの4カ国・全90チーム(男子72チーム・女子18チーム)による、5か月間にわたるレギュラーラウンドが終了。9月16、17日、東京都品川区の「大森ベルポート アトリウム」を会場に海外カンファレンスを含めてのPLAYOFFSが開催され、男子は参入2シーズン目のALPHAS.EXEが初優勝、女子はYOKOHAMA G FLOW.EXE(昨年のチーム名はG FLOW.EXE)が昨年に続く連覇を飾った。MVPは男子がALPHAS.EXEの♯10ペター・シューカー、女子はYOKOHAMA G FLOW.EXEの#9吉武忍が受賞した。

男子初優勝を飾ったALPHAS.EXE


昨年のPLAYOFFSでは準決勝敗退で涙をのんだALPHAS.EXEは、今シーズン、ラウンド優勝は5回を数え、国内EASTカンファレンス1位に。PLAYOFFSでも、ニュージーランドのSWISHと対戦した準々決勝では攻める場面で連携の甘さが見られるなど中盤まで追いかける展開となったが、集中力を高めた終盤の連続得点で一気に勝負を決めるなど、海外勢を含む幾多の難敵を退けると、最後は、準決勝でSHONAN SEASIDE.EXEを劇的なサヨナラ2Pで下して勢いに乗るSHINAGAWA CC WILDCATS.EXEを下してのビッグタイトル獲得となった。MVPを受賞した#10ペターはセルビア出身の23歳で、今シーズンからALPHAS.EXEのメンバーに。身長はリーダーの♯91落合知也と同じ195cmで“ビッグマン”とは言えないが、文字どおり体を張ったプレーでシーズンを通してゴール下の守護神としての仕事を貫くと同時に、今シーズンのノックアウト(10分間の試合時間を待たずに21点先取で勝利)を決めるビッグショットの数でも1位を獲得するなど大車輪の活躍。今PLAYOFFSでも2日間5試合で45得点を記録し、文句なしのMVPとなった。

男子MVPを受賞したALPHAS.EXEの♯10ペター・シューカー


一方、女子でPLAYOFFS史上初の連覇を飾ったYOKOHAMA G FLOW.EXEは攻防で圧倒的な力を発揮し、今大会3試合全てにノックアウト勝利を収めた。
大会史上初めて女子連覇を飾ったYOKOHAMA G FLOE.EXE


MVPを獲得した#9吉武は、チームの得点へとつなげるために攻防で果敢にボールに絡む“泥くさい”プレーで連覇の立役者に。チーム最年少の27歳は、「楽しくバスケットができました。チームの中でそれぞれ役割が違うので、自分ができることはこれだろうと。(チームとして)すごくバランスよく戦うことができたと思います」とはじける笑顔で振り返った。

女子MVPを受賞したYOKOHAMA G FLOE.EXEの♯9吉武忍


「やり続けることが大切。投げ出したら絶対にだめ」
ーーーー落合智也

ALPHAS.EXEは昨年、B2越谷アルファーズの3人制プロチームとしてスタートしたが、今年1月より運営法人を越谷アルファーズの運営母体である株式会社フープインザフッドから、落合が代表を務める株式会社WORMAiDへと移管。落合は同チームの選手兼代表取締役となり、選手としてはパリ五輪の出場とメダル獲得を目指し、代表取締役としてはチームの運営を担うという、より大きな責任を担うこととなった。それまで越谷アルファーズに籍を置きながら、同チームの理解もあって3x3プレーヤーとしての活動を並行して行ってきた落合だが、日本代表として一昨年の東京五輪の舞台に立った経験も礎に、今では3x3に専念しており、「ALPHAS 3x3から日本を代表する選手を育成、輩出し、日本を代表するプロチームを目指す」という思いでこの2年間をひた走り続けてきた。その一つの成果が、今回のPLAYOFFSでの優勝だったと言えるだろう。

熱いディフェンス後、♯10シューカーへとボールを託した♯91落合


ALPHAS.EXEのメンバーには東京五輪をともに戦った保岡龍斗(27歳。5人制ではB1秋田ノーザンハピネッツに所属)も名を連ねるが、今回のPLAYOFFSは#10ペター・ショーカー(23歳)、#11望月渚生(25歳)、#8ゴラン・ビエリッチ(21歳)という若いメンバーを主体に、35歳の#91落合(35歳)がチームの精神的な柱としてロスターに加わった。大会を通じて見れば、絶対的な経験の少なさから小さな連携ミスも散見された。しかし、10分という限られた試合時間の中でみごとに修正、大事な場面で爆発力を発揮するなど、「実戦に勝る練習なし」という格言を地で行くような戦いぶりを見せた。もちろん、華やかな舞台の影でこれまでコツコツと積み上げてきたものが実を結んだことも間違いない。優勝を決めたあとの落合は、これまでの数々の優勝時と比べても格別の喜びの感情を見せていた。

法政大ではインカレ準優勝も経験した落合だが、同大を卒業後はバスケットボールから距離を置きモデルの道へ。しかし、友人から誘われたストリートボールチーム「UNDERDOG」に加入したことがきっかけとなり、3x3の世界へと足を踏み入れた。2014年のリーグ創設以来、3x3.EXE PREMIERへの参戦を続けて今シーズンで10年目となり、日本の3x3の第一人者として果敢に海外への挑戦を続け、そこで得た経験を、志を同じくする日本の仲間たちに惜しみなく共有してきた。そんな落合にとって、今回、若いチームメイトたちとともに過ごした時間には、10年前の自分自身を見るような思いが去来していたかもしれない。

刻一刻と進む試合コート上でかける厳しい言葉も全てが若い選手の血肉となる


「チームには若いやつがたくさんいて、本当に説教ばっかしてるし、チームの運営もうまくいかないときもたくさんありますけど、でもこうやって結果が出ると、つらいこと苦しいことを忘れるくらい嬉しいし、みんなでつかみ取ったっていうのがもう最高なんで、また頑張れる、厳しいことにチャレンジできる、その繰り返しなんですよ」

少年のように目を輝かせながら、35歳の落合はそう語る。

表彰式のウイナーズスピーチで、落合は「日本一厳しい練習」と言っていた。その「厳しさ」について尋ねると、次のように答えた。

「3x3はメンタルゲームなので、自分に打ち勝てるかどうか、どれだけ我慢できるかっていうのを伝えないといけない。それと、本当に有望な選手がたくさん集まってくれているんで、例えばうちを離れて違うチームで活動する可能性もある。そうなったときに、うちでやったことが絶対生きる。やり続けることが大切だし、勝つためにはやらなくちゃいけないこと、きついこともたくさんある。投げ出したら絶対にだめ。自分がここまできたキャリアもみんな知っているので、すごく信頼して付いてきてくれている。だから自分も本当に毎日厳しくしているんです。もう、みんな嫌になっていると思うくらい(笑)」

来年のパリ五輪の出場枠は、男女とも東京五輪と同数の8チームという狭き門だ。東京では男子日本代表は開催国枠を得たが、パリではまず日本が出場国枠を得ることが必要で、そのためには個々のチームが国際大会で相応の成績を収め、トータルで世界における日本のランキングを上げなければならない。「日本人全員で世界に立ち向かうんだっていうのを大事にしたい」と落合も語る。

東京五輪をともに戦ったメンバーには、保岡の他、アイラ・ブラウン(B1千葉ジェッツ)、そして富永啓生(ネブラスカ大)がいた。先のワールドカップ最終戦で大爆発した富永の活躍は落合にとっても大いに刺激になったようで、「今、5人制がこれだけ盛り上がっている中で、3x3も歯を食いしばって必死についていきたい」と意気込む。今回の優勝は、各駅停車の駅の一つにすぎない。目指すゴールに向かって、落合はまた走り続ける。

落合自身もまた目標に向かってひた走り続ける


「私が持っている経験や知識を生かして」
ーーーー矢上若菜

女子で史上初の連覇を飾ったYOKOHAMA G FLOE.EXE。昨年のMVP矢上若菜は、今年も内外問わない得点力を見せてチームの勝利に貢献した。福島県出身の矢上は、福島西高、専修大を卒業後、社会人の秋田銀行RED ARROWSに入団、同チームのメンバーとして2015年から5年連続で日本一を経験した。5人制を引退後の2020年からプレーしている3x3だが、昨季より3x3.EXE PREMIERへの新規参入を果たしたYOKOHAMA G FLOE.EXEでは底抜けに明るいチームのムードメーカー的な存在となっている。


豊富な運動量と鮮やかな技術でYOKOHAMA G FLOE.EXEの連覇に貢献した♯5矢上


「連覇の重圧はすごくありましたけれども、やるからには勝ちたい、主役になりたいという気持で戦いました」と全ての戦いを終えて本音を語った矢上。まだ会場での観戦に制限があった昨年は祖母が配信で見守っていたそうだが、今年は「両親が来てくれて、誰よりも大きな声で応援してました」と屈託なく笑う。

5人制と比べて客席との距離が近い3x3だが、「パッと客席を見るだけで、応援してくださる方と目が合うこともありますし、『頑張れ!』とか1人1人の言葉がすごく聞き取れるので、プレーしていてもそれが本当に力になるのを感じます」と、この競技を心底楽しんでいるようだ。

そんな矢上にとって、来年に迫ったパリはどのように見えているのだろう。「もちろん自分が行けたら一番ですけれど、(代表の)練習相手でも私はいいと思っていて、私が持っている経験や知識を生かして、何かしらの役に立つことができれば…そんなふうに思っています」。

東京五輪で最終的に代表に選ばれたのは、全てWリーグに所属する選手だった。練習環境の確保や、男子と比べて少ない試合機会など、3x3を主戦場とする女子選手にとって、パリは簡単に“目標”と言えるものではない。しかし、今、歩んでいる道の、その先にパリがあるのもまた確か。歩みを止めず、進み続けることで見つかるもの、得られるものがきっとあるに違いない。

持ち前の明るさを武器にこれからもYOKOHAMA G FLOE.EXEの仲間たちと前へ進む


「3x3.EXE PREMIER PLAYOFFS」の詳しい試合結果は下記の公式サイトへ
https://www.3x3exe.com/premier/3x3news/





取材・写真〇村山純一(月刊バスケットボール)

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