月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2023.09.17

ニック・ファジーカスが今シーズン限りの引退を表明 – 「最後にチャンピオンシップファイナルで60得点して優勝できたら素晴らしい」

916日に川崎市とどろきアリーナで行われた川崎ブレイブサンダース対宇都宮ブレックスのプレシーズンゲーム後、ブレイブサンダースの2023-24シーズン出陣式が行われ、その中でニック・ファジーカスが今シーズン限りの引退を表明した。クラブからのお知らせとして時間を取り、ファジーカス自身が来場したファンを前に「今年で引退します」と日本語で発表を行うと、観客席はどよめき、直後からソーシャルメディアでも「まだまだできるのに」「会場に見に行かないと」などのメッセージが飛び交った。


川崎はファジーカスの最後のシーズンを「NICK THE LAST(ニック・ザ・ラスト)」と銘打ち、Bリーグ制覇を達成して終える意気込み。出陣式で発表された「All-In この場所 この瞬間に すべてを懸ける」というスローガンも、まさに全力を注いで念願を果たしたいという思いが伝わる言葉だ。出陣式では新たなキャプテンに篠山竜青が、副キャプテンに藤井祐眞、納見悠仁、長谷川 技の3人が就任することも発表された。篠山は「ニックの引退・ラストイヤーということで、長年一緒にやってきた自分がもう一度キャプテンとしてチームを引っ張れたらと思い、キャプテンに就任させていただくことになりました。チーム一丸となってラストイヤーを飾れるよう、覚悟を持って1年間やっていきたいと思います」とコメント。ファジーカスと同期で川崎入りした長谷川は、ファンへのあいさつで「ニックが引退するということで、何としてでも勝ちたい。そういう気持ちが強いです」と話し、感情の波を抑えきれず言葉を詰まらせる場面もあった。


宇都宮ブレックスとのプレシーズンゲームで得点を狙うニック・ファジーカス(月刊バスケットボールWEB)

宇都宮の比江島 慎は、長年日本国内の大会でライバルチームのエースとしてファジーカスと戦い、2019年のFIBAワールドカップで予選・本戦で共に日の丸を背負った仲。「彼が日本のバスケットボール界に与えてくれた影響は本当に計り知れないと思いますし、実際、(4年前の)中国でのワールドカップに導いてくれたのも間違いなく彼です。感謝したいですし、彼がいなくなるBリーグというのは想像できない」とファジーカスの引退に感慨深げだ。NBAで言えばレブロン・ジェームズのような存在と例えながら、「まだまだ現役でやれると僕は思っていますけど、彼が決めた判断ならば、最後のレギュラーシーズンの対戦をかみしめてやっていきたいです」と話していた。

クラブから発信されたファジーカスのコメントは以下のとおりだ。

今年で引退します。
驚きを隠せないファンの方も多いと思いますが、僕自身川崎で12年間、プロの選手として約17年間プレーをしてきて、自分の中に残っているのはあと1年だと感じました。
僕が今日この場所で引退発表をしたかったのは、これまでの12年間、川崎のファンの皆さん、日本のバスケットボールファンの皆さんに支えてもらってきたと思っているからです。だからこそ、子どもたちやファンの皆さんが「最後にもう1回ニックを観に行きたい」とか、「ニック・ファジーカスの最後のプレーを観たよ」というようなことが言えるように、今日の出陣式で発表することを決めました。
最後の1年、僕自身のすべてを懸けてこのチームを頂点に連れていくというのが僕の目標です。引退は僕自身と家族で決めた決断です。去年の終わりくらいから少しずつ考え始め、今年の夏もすごく悩みましたが、最終的にこのような決断に至ったので、ぜひ、日本のバスケ、Bリーグ、川崎のファンの皆さんに僕が最後の1年プレーをし続ける姿と優勝する姿を見届けて欲しいと思います。よろしくお願いします。

激動の日本バスケットボール界で歴史を作った偉人

ファジーカスは川崎が東芝ブレイブサンダースという呼称だった2012年に来日し、その後12年間にBリーグの前身となったNBL2度、天皇杯で3度王座獲得など、強力な得点源としてチームに貢献した。来日からの12年間は、日本のバスケットボール界がFIBAから対外試合禁止の制裁を受けるような厳しい時期を経て、今年のワールドカップで男子日本代表がパリオリンピック出場権を自力で獲得するほどの成長を遂げた激動の期間。その間ファジーカスが、2018年に帰化枠で日本代表に加わり1998年以来21年ぶりとなるワールドカップ出場を手繰り寄せる大活躍を見せたことは忘れがたい。4年前のワールドカップ出場を自力で成し遂げたことで、男子日本代表の東京2020オリンピック出場がかなったのであり、それが今年のワールドカップにおける快進撃の礎となり、来年のパリオリンピック出場権獲得につながった。

出陣式後に行われた会見では、ファジーカス自身、オーストラリア代表を倒した2018年のワールドカップ予選の試合を最も記念すべき試合として挙げていた。また、引退試合で大量得点を記録して勝利をつかんだコービー・ブライアントの名前に触れながら今シーズンに臨む意気込みを聞くと、「最後がBリーグファイナルで、私が(ブライアントのように)60得点を記録して勝てたら素晴らしいですね」と話して笑顔を見せた。



©KAWASAKI BRAVE THUNDERS

☆ニック・ファジーカスのプロフィールと主な経歴

生年月日: 1985617日(アメリカ合衆国コロラド州アーバダ出身
身長/体重: 207cm/114kg
ポジション: センター
出身大学: ネバダ大(背番号22は永久欠番)

◆略歴
2007-2008 ダラス・マーベリックス
2008 ロサンゼルス・クリッパーズ
2008-2009 ベースオーステンデ (ベルギー)
2009 ASVEL (フランス)
2009-2010 JDAディジョン (フランス)
2010-2011 リノ・ビッグホーンズ
2012 ペトローン・ブレーズ・ブースターズ (フィリピン)
2012 サン・ミゲル・ビアーメン (アセアンリーグ)
2012- 川崎 (東芝東芝神奈川)

◆代表歴
20186月 日本代表候補選出
21年ぶりのW杯出場権獲得、45年ぶりのオリンピック出場に大きく貢献
20199 FIBA バスケットボールワールドカップ2019 出場
20228月 ワールドカップ2023アジア地区2次予選ウィンドウ4 出場

◆主な受賞記録および達成記録
レギュラーシーズンMVP受賞 2
リーグベスト5受賞 6
天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会 大会ベスト5受賞 3
※レギュラーシーズンMVPおよびリーグベスト5はNBL・Bリーグを通じての記録
B1個人通算8,000得点(20221225日達成、B1史上初)
B1個人通算4,000リバウンド(2023412日達成、B1史上初)
トップリーグ含む公式戦総得点数:13,822得点(2022-23シーズン終了時)
現在までのBリーグ通算成績



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: 川崎ブレイブサンダース

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