月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2023.09.08

注目せずにはいられないサンロッカーズ渋谷 - 新指揮官パヴィチェヴィッチが語る情熱

©B.LEAGUE

サンロッカーズ渋谷は2023-24シーズンに向け、モンテネグロ出身の名将ルカ・パヴィチェヴィッチを新指揮官として迎えた。パヴィチェヴィッチはかつて日本代表を率い、馬場雄大を初めてその一員に招へいした人物として知られている。また、2017年から2022年まではアルバルク東京のヘッドコーチを務め、Bリーグで2017-18シーズンと2018-19シーズンを連覇。天皇杯でも2019年と2021年にチームを3位に導いたほか、アジアチャンピオンズカップでも王座獲得に成功している。




サンロッカーズ渋谷は昨年6月にクラブ運営体制の変更を発表。実業団チームだった前身の日立本社、日立大阪時代を含め87年に及ぶ歴史を持つチームの運営会社(当時株式会社日立サンロッカーズ、現株式会社サンロッカーズ)の株式を、それまで親会社だった株式会社日立製作所からセガサミーホールディングス株式会社が譲り受け、強力にバックアップしている。新たな運営体制での初シーズンを2832敗(勝率.467)と負け越し、チャンピオンシップ出場を2シーズン連続で逃す悔しい結果。そして明らかになったのがとともに迎えた今オフの531日に、サンロッカーズ渋谷が発表したのがパヴィチェヴィッチHC就任だった。

一昨シーズンを終えた後、一度は日本を離れたパヴィチェヴィッチHCBリーグの現場に復帰すること自体、サンロッカーズ渋谷を注目チームに挙げる理由となる。そう決断した背景をパヴィチェヴィッチHC本人に聞くと、「2016年に日本に来て、代表チームのヘッドコーチを務めた後アルバルク東京に移ったとき、クラブには勝てるチームを作りたいという願いと、組織化によりそれを達成しようという目標がありました」という答えに始まり、長々と思いの丈を語ってくれた。



「競争激化のBリーグで伝統クラブを最強クラブに」のビジョンに共鳴
※以下、パヴィチェヴィッチHCのコメントです

私が日本で6年間過ごす間に、彼ら(アルバルク東京)は現在に至る成功の道筋をたどりましたし、私も日本を大好きになりました。Bリーグでの非常に激しい競争に向き合いながら、この国で作ることができた友だちと過ごした生活はとても居心地がいいものでした。ですから、1年前にその旅が終わって母国に帰ったとき、私は「素晴らしい経験をさせてもらったな」と内心の区切りをつけていたんですよ。一度ヨーロッパに戻ってみるかとね。これまでにギリシャやフランス、ドイツでコーチをしてきたので、今度はイタリアやスペインはどうだろうなんて思いながら様子を見ていたんです。

そんなふうに自分としての準備を整えていたところに、サンロッカーズ渋谷から昨シーズンが終わる前に連絡をもらいました。どこに行くかをまだ決めていませんでしたから、日本に行くべきか、当初の考えどおりヨーロッパにとどまるべきかかなり深く考えましたよ。

Bリーグでアルバルク東京を率いていた頃、サンロッカーズ渋谷とは30試合くらい対戦していました。多いですよね。しかもアルバルク東京とサンロッカーズ渋谷は、どちらもハチ公口前にバスケットボール・ストリートがある渋谷の街で活動するクラブ。だから私はサンロッカーズ渋谷を良く知っていたんです。日立グループとの歴史も含めてね。そこで話を聞いてみることにしました。

その中で、長年チームを運営してきた日立の体制に変化があり、大志を抱いたセガサミーグループが代わってオーナーとなることを知り、彼らがサンロッカーズ渋谷を成長させるビジョンを描いていることもわかりました。この国の最強チームになろうというプロジェクトの助けとなる人材を探しているのだと。

日本は今、注目すべきチームがたくさんありますが、リーグ自体も成長していますね。大志を抱くチームがいくつもあって、切磋琢磨を重ねている状況で、2つ、3つのチームだけが勝ちまくっているようなリーグではありません。可能性という意味で本当に楽しみなリーグです。次にどこが勝つか、誰にもわかりません。そういった中で、これは素晴らしい挑戦の機会だと感じました。数日熟考してから家族にも相談したところ、妻もぜひ一緒に行きたいと言ってくれましたよ。日本はいろんなことを学び、大好きになった場所。それも心を決めた理由の一つです。日本に戻れることがものすごく楽しみです。



チームとフロントを同期させ、一体となって臨む

私とすれば、(説明を聞いて)新機軸のサンロッカーズ渋谷、新時代のセガサミーグループと一緒に頑張ってみようじゃないかいう思いになりました。よし、ならばいざという感じです。ワクワクできて、力強い何かをこの人たちと築いていこうと。コーチの立場で、このような機会を見つけようと思っても、そうそう見つかるものではありませんしね。

ここでは新しいことが始まろうとしています。長年の伝統を持つクラブが、新しい歴史の扉を開こうとしているんです。すべてがゼロから構築されていきますから、大変な仕事になります。チーム作りもそうです。スカウティングや評価、リクルーティングに即座に取り組んで、頂点を目指せるチームにします。

それを念頭に、仕事は山ほどあります。チームを機能させるコーチングスタッフも同じです。フィジカル・トレーニングを考えたりチーム練習を組み立てたり。コーチングとフロントの考えが同期できることも大事ですよね。セガサミーグループとサンロッカーズ渋谷の誰もが大きな挑戦に向き合っています。私もその一人であることを承知した上で、プロとして引き受ける決断をしました。

新生サンロッカーズ渋谷、9/9プレシーズンゲームでお披露目

サンロッカーズ渋谷の話題はパヴィチェヴィッチHC就任だけにとどまらない。名将の下で初のB1王座を目指す2023-24シーズンのロスターには、ベンドラメ礼生やライアン・ケリーら既存戦力に加え、FIBAバスケットボールワールドカップ2023で日本代表の躍進を支えたジョシュ・ホーキンソン、アルバルク東京時代にパヴィチェヴィッチHCの下で著しい成長を遂げた田中大貴らBリーグを代表するスターが加わった。

上記のコメントを聞いたのは、まだFIBAワールドカップ2023が開幕する前の6月半ば。パヴィチェヴィッチHCは、パリオリンピック出場権獲得に成功した日本代表の屋台骨として活躍するホーキンソンの姿をこの時点では見ていない。


日本代表がパリオリンピック出場権獲得を決めた9月2日のカーボベルデ戦で、ゴールに突進するジョシュ・ホーキンソン(写真/©FIBAWC2023)



ホーキンソンのワールドカップでの活躍は特筆に値すべきというような表現では足りない。2次ラウンドと17-32位決定戦の全日程を終えた時点での個人スタッツランキングを覗けば、ホーキンソンの驚くべき貢献ぶりがすぐにわかる。

☆ジョシュ・ホーキンソンのワールドカップにおける成績(カッコ内は大会全体での順位)
平均得点 21.07位) 
フィールドゴール成功率 58.8%(5位)
2P成功率 73.5%(1位)
フリースロー成功率 88.1%(10位タイ)
リバウンド 10.82位)
ブロック 1.412位)
出場時間 34.9分(6位)
エフィシェンシー 28.61位)

NBAプレーヤーがぞろぞろいる中でこの成績を残して渋谷にやってくるホーキンソンをはじめ、情熱と意欲満々のパヴィチェヴィッチHCがどのようにサンロッカーズ渋谷をリードしていくか、非常に興味深い。またパヴィチェヴィッチHCのバスケットボールを熟知している田中が加わり、ホーキンソンだけでなくケリーら既存のビッグマンたちとどんなオフェンスを展開するか、ベンドラメら既存のバックコートの戦力がホーキンソンといかなる連係を見せるか。そんなことを想像するだけでもワクワクできる。

2023-24シーズンの新チームお披露目は、今週末99日(土)にオプアリ(オープンハウスアリーナ太田)で行われる群馬クレインサンダーズとのプレシーズンゲーム。レギュラーシーズン開幕までまだ1ヵ月以上あるが、まずはこのアウェイゲームでパヴィチェヴィッチHCと新生サンロッカーズ渋谷のお手並み拝見だ。

9/9(土)プレシーズンゲーム情報
サンロッカーズ渋谷2023-24試合日程



取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: サンロッカーズ渋谷

PICK UP

RELATED