月刊バスケットボール6月号

比江島慎、経験値を見せ付けた日本代表最年長の意地

渡邊雄太「あれが僕の知っている比江島慎」


「いやもう、世界の比江島でしょ!」


ベネズエラに逆転勝利を収めた後の囲み取材で、吉井裕鷹が開口一番に発した言葉だ。筆者には、この言葉を発した瞬間だけ、普段は寡黙な吉井の声色が昂ったように聞こえた。それほどにこの試合の比江島慎は神がかっていた。先に彼のスタッツを確認してみると、ゲームハイの23得点に加えて2リバウンドと2スティール。さらには6/7という超高確率で3Pシュートを射抜き、特に4Qには4本の3Pを含む17得点の大爆発だった。

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疲れも見られたこの試合は、序盤こそ快調な滑り出しを見せたものの、ベネズエラの巧みなディフェンスと3Pシュートに苦しみ、1〜3Qは全てのクォーターでビハインドを背負う苦しい展開だった。特に、ここまでの3戦でチームを支えてきたジョシュ・ホーキンソンの疲労は大きなものであり、今度は彼の不調をチームで補うことが求められた。

前半は河村勇輝の積極的なペイントアタックとプレッシャーディフェンス、渡邊雄太のトランジションや長距離砲で食らい付くも、3Qには最大で15点のビハインドを背負う展開だった。さらに、最終的には勝利の立て役者となった比江島も3Q残り7分余りで4ファウルに見舞われていた。それまでの時間帯で、得点面で安定していたのは比江島だったが、ファウルアウトのリスクがある中で彼を起用するのは難しい決断だった。



それでもトム・ホーバスHCは「10数点差になったからスコアリングが必要だということでマコを出しました。彼しかいないという感じ。試合のリズムが変わらないのはマズいと思いました」と比江島に状況打破を託し、彼がその期待に見事に応えたのだ。

比江島は4Qでのプレーについて「相手は昨日も試合をしていて、絶対に足が止まると思っていましたし、絶対に自分たちの流れが来ると信じてやっていたので、あまり慌てることなくしっかり自分のパフォーマンスができたと思います。シュートタッチは良かったので打ち切りさえすれば入るという感覚もあったので、迷わずに打てました」と振り返っており、冷静に戦況を見極めつつ、持ち味の得点力を遺憾なく発揮。ゲームMVPにも輝く大活躍を見せた。

大学時代から日本代表として活躍してきた比江島だが、その中で苦い経験は山のようにしてきた。だからこそ、「悔しい思いはパワーになりますし、惜しいところまでいっても勝ちきれないという経験も何回もしてきました。慌てることなくやれたのも、そういう経験をしてきたおかげかなと思います」と、過去の教訓をこの場で生かすことができた。



現日本代表で最年長となった自身の存在意義──それは経験値にほかならない。比江島は言う。

「自分の今までの悔しかった経験や過去のオリンピックやワールドカップの経験が欲しくてトムさんは自分を選んでくれたと思うので、その経験を今日は証明できたと思います」

そんな比江島を長年間近で見てきた渡邊も「僕は『彼を止められる選手は世界でもなかなかいない』とずっと言い続けているので、正直、僕は彼のBリーグでのスタッツには全く納得していないんです。もっとやれると思いますし、オーストラリア挑戦やNBAサマーリーグでも彼が本来の力をしっかりと出せれば、やっていける力は十分に持っていると思います。今日の活躍は僕からしたら何のサプライズもないというか、あれが僕の知っている比江島慎だと思います」と言い、その活躍を我がことのように誇っていた。

比江島は常に“日本のエース”と言われて代表のユニフォームに袖を通してきた。1次ラウンド2戦目のフィンランド戦も含め、重要な局面で活躍する彼の姿は、渡邊が、そして我々が知っている“エース・比江島慎”の姿だった。


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■FIBAワールドカップ2023日本代表試合結果予定
ファーストラウンド・グループE
・8月25日(金)日本 63-81 ドイツ[11位]
・8月27日(日)日本 98-88 フィンランド[24位]
・8月29日(火)日本 89-109 オーストラリア[3位]
※日本1勝2敗:グループE3位
[17‐32 位順位決定リーグ]
・8月31日(木)日本 86-77 ベネズエラ[17位]
・9月2日 (土)日本vs.カーボベルデ[64位](20:10ティップオフ)
※順位はFIBAランク


写真/石塚康隆 取材・文/堀内涼(月刊バスケットボール)

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