月刊バスケットボール1月号

“バスケの街”を盛り上げた能代科学技術高でのイベント〜Power of NOSHIRO〜

「こういう空間が作りたかったんですよね。体育館の周りをぐるりと人が囲って、子どもたちがコートサイドの床に座って目を輝かせて試合を見る。“これぞ、能代”って感じじゃないですか」。B1の秋田でプレーする傍ら、能代科学技術高のテクニカルアドバイザーを務める長谷川暢がうれしそうに語った。


6月11日、バスケの街・能代市にある能代科学技術高で、現役高校生チームとOBを中心としたプロ選手チームによる強化試合が行われた。企画を考案し、準備段階からイベントを引っ張ったのが同校OBの長谷川とその同級生である猪狩渉(福島)、渡邉竜也(スキルコーチ)の3人と、能代市地域おこし協力隊の新田聡氏。「自分たちが高校生のときも、OBの先輩たちが強化試合を組んでくれてすごく力になってくれました。卒業してプロになって、今度は僕たちが母校の現役生たちの何か力になれないか、第二の故郷である能代市に何かできることはないか、と考えて企画しました」と長谷川は言う。昨年から始動し、2回目の開催となった今年のイベントは、考えに賛同したスポルディングなどの協力もあって規模を拡大して行われた。

強化試合は10時からと14時からの2試合で、入場は無料。昼の休憩に一度、全観客を退場させる形で行われ、結果的にそれぞれの試合で約750人、合わせて1,500人を超える観客が入場した。バスケの街・能代とあって老若男女が足を運び、あまりの盛況ぶりに1試合目のハーフタイム中、1階に急きょ席が増設され、2試合目からは体育館の壇上にも席が設けられたほど。前日に長谷川らが行った能代市クリニックに参加した小学生たちも、コートサイドに敷かれたマットに体育座りし、ハイレベルな試合を迫力満点の距離で楽しんだ。





プロ選手チームには、長谷川らの呼び掛けで同校OBの盛實海翔(SR渋谷)といったプロ選手や、「開志国際高時代に能代カップでお世話になりました」というジョフ・ユセフ(拓殖大4年)などの大学生が計9名集結。インターハイ予選を無事に突破し、東北大会や全国での飛躍を誓う能代科学技術高の選手たちにとって、胸を借りるこれ以上ない相手となった。結果的にはプロ選手チームが後半に引き離して2勝したが、現役チームも激しいディフェンスや思い切りの良いシュートで時にリードを奪うなど、大いに奮闘。キャプテンの中野珠斗(3年)は「練習の成果を出せた部分もありましたが、プロの人たちは一個一個のプレーの精度、質が違いました。今の時期にこれを体験できて、本当に感謝しています」と述べ、長谷川は「一生懸命、気持ちを入れてぶつかってくれました。ルーズボールやリバウンドにも飛び込んで、彼らの気持ちは見ている人にも伝わったと思います」と選手たちを手放しにたたえた。





今回のイベントを中心になって引っ張ってきた長谷川暢(B1秋田所属)


高校生たちにはスポルディングよりTシャツやタオル、ボールなどがプレゼントされ、試合後には観客もコートに入って写真やサインなどプロ選手との交流タイムが設けられた。イベントの閉会式では、長谷川から地域おこし協力隊・新田氏へ花束が贈呈される場面も。開催実現のための準備に奔走してきた新田氏は、その苦労ゆえに「精神的なものから来る体の不良だと思いますが、なぜか首がずっと痛かったです(笑)」と明かすが、それでも原動力となったのは「現役生たちに喜んでもらえたら」という思い。しかも新田氏は、地域おこし協力隊の3年の任期が来年4月に終わる予定で、「最後の年、自分に何か手助けできれば」との思いは強かったようだ。笑顔の選手たちに囲まれ、照れながら花束を受け取ったその表情は、実にすがすがしいものだった。





このイベントの準備に奔走された能代市地域おこし協力隊の新田聡氏


また、企画した中心メンバーの一人、猪狩は今回のイベントへの思いをこう語る。

「僕たちの代は、新人戦で46年ぶりに県大会で負けた学年なんです。最終的には得失点差で優勝したものの、本当に大事件で…。でもそのとき、多くのOBが力を貸してくれました。例年のOB戦は大学生が来てくれるものだったのですが、あの年はプロの満原優樹さん(佐賀)や北向由樹さん(元青森ほか)、内海慎吾さん(元京都ほか)が来てくれたんです。そうした先輩たちの姿を見て、僕たちももっと頑張らなければと思いましたし、チームが伸びるきっかけにもなりました。僕たちは結局、全国優勝できませんでしたが、それでも優勝してきた先輩たちと同様、母校への誇りや思いは強いですし、恩返ししたいと思っています。卒業してプロになった今、今度は僕たちが力を貸す番だと思って、今回のイベントに取り組みました」

全国優勝58回を誇る名門・能代工が、能代西との統合に伴い「能代科学技術」に校名を変えてから丸2年。昨年は新入部員が僅か3人(1人退部し現在2年生は2人)まで落ち込む状況だったが、今年は意志を持って13人の新入部員が伝統校の門をたたいた。“Power of NOSHIRO”を合い言葉に、熱い思いを持った人々の手で、能代の伝統や熱量はこれからも引き継がれていくだろう。今大会でイベントをサポートしたスポルディングも、これからも彼らの思いを支えていく構えだ。





スポルディング・ジャパン
https://www.spalding.co.jp/



取材・文・写真/中村麻衣子(月刊バスケットボール)

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