森山知広(西宮ストークスHC) - B2リーグ3位フィニッシュの2022-23シーズン総括とこの先への視点
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今シーズンを最後にホームタウンを神戸に移転することが決まっている西宮ストークスが、B2プレーオフでトップ3に食い込んだ。B1昇格を目指す戦いにおいて一歩届かない結果で、ブースターを含めあらゆる立場の関係者が悔しい思いをしたに違いないのだが、最後のラウンドとなった5月20日・21日の3位決定戦2試合は、東地区王者でB2最高勝率のアルティーリ千葉に連勝を納めてシーズンを終えた。
今シーズンは新任の森山知広HCがチームを率いた1年目。レギュラーシーズンでは勝率が5割に届かなかった。しかし、終わってみればプレーオフでの3ラウンド中2ラウンドでアップセットを成し遂げての3位フィニッシュ。新天地神戸に希望の種をまくことができるだろうし、長年クラブを育ててくれた西宮の街に、できる限りの恩返しとなる手土産を持ち帰ることはできた。以下、3位決定戦の両日、試合後の森山HCに聞いたシーズンの総括をまとめる。
3位の座を確定させた後、西宮ストークスのハドルは笑顔だった(写真/©B.LEAGUE)
セミファイナル後は気持ちの切り替えに苦労
——B1昇格を逃した1週間後の3位決定戦。試合には内面が影響しましたか?
先週負けて昇格できず、そこから切り替えるのは、僕自身もすごく難しかったです。3位決定戦までの1週間は、全員が悔しさを切り替えるのが難しい中での練習・準備で、難しさを感じた1週間でした。
ただ、プロフェッショナルとして、与えられたゲームではやはり全力でプレーしなければいけません。お金と時間を使ってアウェイまで来てくれるブースターがこれだけいて、アルティーリ千葉のブースターもいます。1シーズンお互いに昇格を目指してやってきてトップ4に残ったチームですから、自分たちのプロセスを大事にしたいです。それは無駄ではなかったし、特に西宮はずっと昇格できず苦しんでいたクラブでもあるので、あと一歩まで、直近数シーズンよりも良い成績を出したプロセスに関しては誇るべき。そこにプライドを持って最後までプレーしようと話してきました。
——千葉ポートアリーナのファンはスタンディング・オベーションで両チームを送り出しました。西宮の皆さんもリスペクトを感じられましたか?
僕らは次で67試合目。ブースターさんは2週間、5試合多く昇格かB2かというひりひりしたゲームを続けて、今週がラストです。本当はお互い昇格して決勝を戦いたかったと思うんですけど、それでも今シーズンやってきたプロセスは間違っていなかったと思います。アルティーリ千葉はリーグ全体1位。ここまで来たということに対するリスペクトを、お互いのブースターはプラスアルファで感じていたのではないでしょうか。試合が見られる喜びを感じ、来季に向けていい終わり方をしたい。アルティーリ千葉のブースターもステークホルダーの皆さんも悔しいだろうし。
僕らはこのポストシーズンすべてがアウェイだったので、ホームコートアドバンテージがあったらこういうところでできるよなというのを、今日も、先週のSAGAアリーナでも、その前の越谷でも感じてきました。最後までしっかりしたゲームをすることによって、僕らも相手にリスペクトしたいし、相手からもリスペクトされたい。お互い感謝を伝え合う、ステークホルダーに感謝を見せ合うゲームなんだと思います。
レギュラーシーズンで千葉に来たときには別の会場で、千葉ポートアリーナでは初めてでしたが、スタンディング・オベーションだったり、演出やブランディングが統一されていてB2の中でも雰囲気があるホームアリーナだと感じました。試合前にアンドレ・レマニスHCとも一言二言と話して、「越谷によく勝ったね!」とねぎらいの言葉もいただきました。アルティーリ千葉にはレギュラーシーズン中6敗で、接戦も数試合落としていたので、僕らの方は今度こそ勝って終わりたいなというモティベーションがあったかもしれません。そういう思いを持ちつつ、お互い全力を尽くして感謝を示すゲームにすれば、リスペクトのある雰囲気になると。スタンディング・オベーションも含め、良かったなと思います。
プレーオフの8試合をすべてアウェイで戦った西宮だが、3位決定戦の会場となった千葉ポートアリーナにも熱烈なストークス・ブースターの姿があった(写真/©B.LEAGUE)
「遠回り」したレギュラーシーズンも「僕らにとっては一番の近道だった」
——シーズン最終戦となったGAME2の戦いぶりについてはどんな評価ですか?
終始リードする形で、レギュラーシーズンとポストシーズンのほかの試合と比べても、ベストの展開に近いバスケットを披露できてよかったです。今年は全員でやると言って、全員で勝って全員で負けるというフィロソフィーを共通の価値観としてきて、最後の最後、このGAME2で体現できました。次のシーズンにつながる終わり方ができたんじゃないかと思います。選手・スタッフ全員のハードワークに感謝したいですし、1シーズン支えてくれたブースターとステークホルダーの皆さんに感謝したいです。最後にいいゲームはできました。
でも(3位という)結果は悔しい…。B1に昇格できなかった悔しさを持って、次に全員で進んでいきたいと思います。
——全員でできた結果としての3位。ここまで来るのはすごく大変なことだと思いますが、それができたのはなぜでしょうか?
レギュラーシーズンの成績だけだと5割を切っているチームが、この3週間ですごくいいチームに成長しました。レギュラーシーズン中も10点差以内が20試合くらい、5点差以内も10試合くらいあったので、5割を超えて終わらせていたら、また状況は変わっていたのかなとも思うんですけど、僕らにとっては60試合の結果が必要な苦しみで、その分ここで仕上がったのかなとも思います。
60試合終わってプレーオフが決まってからセミファイナルをやるまでの2週間、練習・準備が本当にうまくいきました。毎回の練習がシーズンベストを更新するような雰囲気、強度、内容だったので、全員が自信をもって越谷アルファーズとぶつかれたし、それでGAME1を獲れて勢いに乗れました。自分たちが準備したものが越谷戦ではドンピシャではまって、全員が自信を持っていました。そこから「これならチャンスがあるよね」と本気で思えた3週間だったんです。そうなるまでに時間がかかりましたが、遠回りに見えて僕らにとってはそれが一番の近道だったのかなと思います。
最後まで中西(中西良太、身長202cmのパワーフォワードで、3月12日の佐賀バルーナーズ戦で右手を骨折し以降離脱となった)のことは言わなかったんですけど、彼を組み入れてもっといいチームにさせたかったという悔しさもあります。本人が一番悔しいと思うんですけど…。
コーチとして何が一番嫌かと言えば、選手のケガです。濵高(濵高康明、シューティングガード)もシーズンを棒に振るような大ケガ(2月25日の青森ワッツ戦で右膝前十字靭帯断裂・外側半月板水平断裂・内側半月板縦断裂となり離脱)でしたしね。
中西は、最後の最後にプレーさせてあげられなかった。チームがここまで来たので、相当考えることがあったと思うんですよ。できる限り声をかけ続けてくれたし…。最後ひとこと言わせてもらえるのならば、中西を入れてベストの布陣でやりたかったなというのは思います。
——移転前の最後のシーズンに、西宮にお土産を持ち帰れます。
一番はB1昇格のお土産を渡せればよかったですが、それがかなわなかった中では最高順位を持って帰れます。ただ、昇格に向けてシーズンをやってきたので悔しいです…。
僕はBリーグ初年度からずっとヘッドコーチ(2016年から昨年までは福島ファイヤーボンズを率いた)をやらせてもらっていますけど、ずっとB2なのは僕だけじゃないかと思います。その意味でB2のレベルの上がり方を一番感じてわかっているとも思うんです。僕らは大資本があるクラブではない分、そういうチームにどうやって勝っていくか。その勝ち方を7年の経験の中で見つけながらやってきたのが自分のキャリアです。
この西宮のメンバーだったらいけると思ったし、ポストシーズンで一番怖い存在になれると思ったので本当に悔しいです。でもここまで来られたのは、次の西宮から神戸に移転する最後のシーズンに最大限できるお返しかなという感じです。
移転に関しては、ストークスは西宮で育ったチームで、西宮は実家のようなもの。実家を出て一人暮らしをしに神戸に行くというようなところもあります。NBL時代から続く西宮ストークスの歴史がゼロになるわけではありません。これまでがあっての発展的な移転だと僕はとらえているので、今後も西宮での活動もあるでしょうし、たまに帰ってこられる実家のように大事な街です。
道原紀晃、谷 直輝、松崎賢人のベテラン勢は西宮ストークスの生きる歴史のようなところもありますし、彼らが5月に入ってから自分たちの役割をコート上でもコート外でもやってくれた。それがこの結果の裏側にあると思います。西宮に返せる最大限の恩返しが、今シーズンはこれでした。
クラブが兵庫ストークスという名称でNBLを戦いの舞台としていた2013年から在籍しているキャプテンの道原紀晃。10年目の今シーズン、求められた役割をしっかり果たしたと言えるだろう(写真/©B.LEAGUE)
無名だった自分のキャリアがコーチ志望の若者たちのロールモデルになれば…
GAME2を終えた後のタイミングで、最後まで素晴らしいシーズンを見せてもらえたことに対する感謝を伝えると、森山HCはとても大切な話を一つ付け加えてくれた。
森山HCには著名なプレーヤーとしての華やかなキャリアも、海外留学で学んだような経験もない。「最初の頃は劣等感も感じていました。やっと自信が持てるようになってきたのはここ数年です」。B1昇格を最後まで争い、3位に食い込む大健闘を経た後、それがコーチとしての正直な心境だ。
リーグの成長とともに、海外から著名コーチを招く例も増え、同時に国内最高峰の舞台でのコーチの座を目指す学生の数も増えている。限られた枠しかないマーケットで競争も激しくなっており、かつ、学生時代に誰もが望むようなプレーイングキャリアや留学体験を踏めるわけでも、著名な指導者との縁に恵まれるわけでもない。それでも意思のあるところに道が開けることを、森山HCのキャリアは物語っているのではないだろうか。「この仕事をさせてもらっている以上は、そういう若者たちのロールモデルになりたい。そう思えるようにやっとなってきました」と森山HCは話す。
過去にはB1クラブからのオファーもあったという。それでも、まずはB2で地道に結果を出したいとの思いが強い。「今シーズンは目の前まで来たんですけど、まだまだ足りないところがあるんだなと思わされました。この経験を生かして、いい試合、いいチームだったねと思えるような取り組みをしていきたいです」。その結果として、一丸となって戦う仲間たちと歓喜のB1昇格を果たしたい。「勝ち負けとは別の軸でも魅せていくのがプロ。応援して支えてもらっている存在として、毎シーズン全力を出して、特別なシーズンだと思ってもらえるのが幸せです」。シーズンフィナーレとなった3位決定戦を含め、「アウェイでもホームでも西宮ストークスはこういうチームだというのを、今日まで見せることができたと思います」と穏やかな笑顔を見せた。
会見という以上に、39歳の若き指揮官のバスケットボール観を余すところなく分かち合ってくれたような言葉が胸に響く。最後に「ありがとうございました」と丁寧に礼を述べ、森山HCは会見場を後にした。
森山HC指揮の下、今シーズンの西宮はレギュラーシーズンで29勝31敗(勝率.483)の東地区3位という成績を残してプレーオフに臨んだ。そしてクォーターファイナルで同地区2位の越谷を2勝1敗で下し、セミファイナルで佐賀に敗れたものの、3位決定戦でアルティーリ千葉をスウィープ。すべてアウェイで上位チームとの対戦だったポストシーズンでの4勝3敗という結果には、非常に大きな価値がある。森山HCにも西宮のプレーヤーとスタッフにも、プロフェッショナルの仕事として十分合格点がつくはずだ。