月刊バスケットボール6月号

オコエ桃仁花 - 「海外挑戦で自分がどういう人間なのかがよくわかった」

©月刊バスケットボール

2023年度バスケットボール女子日本代表候補の第1次強化合宿のために移籍先のオーストラリアから帰国したオコエ桃仁花(ジーロン・スーパーキャッツ=Geelong Supercats[オーストラリアNBL1])が、昨年秋からの海外挑戦について語った。久しぶりの帰国と公開練習参加で、「まず日本語を久しぶりにしゃべったのと、日本の選手も皆久しぶりに会ったので、何だか一人だけワクワクしちゃいました!」。明るい笑顔はあいかわらずだ。


日本では女子バスケットボール界から海外のクラブに移籍してキャリアを築く例が少ないが、2021-22シーズン以来ドイツとイタリアで活躍を続けてきた安間志織、2022年にWNBAのワシントン・ミスティックスで活躍した町田瑠唯、そしてオコエと代表クラスの海外進出が続いている。直近では馬瓜ステファニーがWNBAのニューヨーク・リバティーのプレシーズンキャンプに参加するというニュースもあった。傾向としては明らかに、日本の女子プレーヤーの海外志向が強まってきているが、オコエはそんな若者たちの背中を押すコメントを残している。

ギリシャとオーストラリアで2桁得点のアベレージ

2021-22
シーズンまで富士通レッドウェーブに所属していたオコエは、昨秋106日にギリシャのエレフテリア・モシャトウ(Eleftheria Moschatou)への移籍を発表し、今年1月末までギリシャ国内の女子バスケットボールのトップリーグであるA1リーグで16試合に出場。平均11.7得点、3P成功率36.2%、フィールドゴール成功率37.5%、フリースロー成功率86.3%、6.5リバウンド、1.7アシスト、0.6スティール、0.6ブロックというアベレージを残した。

その後はオーストラリアのセミプロリーグNBL1のジーロンで、5月7日までに7試合に出場。このうち5試合で2桁得点を記録し、数字としては平均10.0得点、3P成功率22.0%、フィールドゴール成功率27.4%、フリースロー成功率83.3%、4.9リバウンド、1.9アシスト、1.0スティール、0.4ブロックのアベレージ。オコエは海外と日本の違いとしてフィジカル面の強さを挙げていたが、2ヵ国で2桁得点のアベレージを維持しているのはさすがだ。

強く大きな相手に対してひるまず対抗して得点を決めてくる。この部分は直接的に、日本代表のパフォーマンスに影響してくるだろう。昨夏のFIBA女子ワールドカップ2022では、日本代表トップの3P成功率40.0%、同3位の平均7.8得点を記録。チームとして非常に悔しい結果だったが、個人としてはその前年のオリンピック時からの明らかなステップアップを披露していた。海外クラブでの実績は、その前進過程が継続していることを示すものだ。今年度の代表活動でも、オコエのプレーに対するアプローチから周囲が受ける刺激は小さくないだろう。


FIBA女子ワールドカップ2022のオーストラリア戦でのオコエ桃仁花。グループラウンド最終戦だったこの試合で日本は敗れたが、オコエ自身は14得点を挙げ意地を見せた(写真/©FIBAWWC2022)

日本とは質が異なるチーム内のコミュニケーション

フィジカル面のほかに、オコエは海外でチームにおけるコミュニケーションの質の違いも感じたという。ギリシャでもオーストラリアでも、意思の疎通は英語。それだけでも大きな違いだが、会話の内容が大いに違うのだ。

「ビデオを見ていたら、もう一つ一つのプレーに選手が『これはこうしようね』、『ここはこうしようよ』という感じ。日本だと監督が喋って終わりなんですけど、選手が「いや、これはこうでしょう、こうでしょ!」みたいな、普通の会話みたいな雰囲気でやっています」。意見交換はコーチとプレーヤーであっても双方向。発言しないのは悪いことのような意識さえあったそうだ。

言葉の壁が日常生活でもあらゆる場面で立ちはだかる海外生活において、もう一つ想像以上にストレスとなったのが時差だという。「ギリシャは特に、とにかく遠いので、自分が起きた時に日本のみんなが寝ている感じ。ちょっと寂しさがありました。海外に行くならそういうところも見るべきです。オーストラリアは逆に1時間しか時差がないので、すごくコミュニケーションも取れるのがいいかなと思いました」

そんな状況になってみて、自分が比較的寂しがり屋だということに気づいた。「(日本にいた頃は)一人で生きていけると思っていたけど、意外と…(笑)」というのが正直な思い。また、「寂しがり屋というだけではなくて、自分がどういう人間なのかがすごくよくわかり、よい機会でした。オーストラリアの次にどうなるか決めていないんですけど、自分が下す決断は間違いなく良いのではないかと思います」とも話した。


恩塚 亨HCと笑顔で会話するオコエ。日本代表活動にも、海外経験から様々なものをもたらしてくれるだろう(写真/©月刊バスケットボール)

一昨年の東京2020オリンピックで銀メダルを獲得した日本の女子バスケットボールに対する世界の評価は、それまで以上に高まったのは間違いない。今後もオコエのように、トップレベルの実力を持つプレーヤーが海外に活躍の場を求める可能性は広がっていくだろう。そうした傾向について、オコエは「やりたいと思ったらとことん行ってみるべきですし、失敗しても帰ってくる場所があるというのはいいことですし。日本のみんなが応援してくれているので、行きたいと思ったら若いときに行くべき」とエールを送っていた。

文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)

タグ: オコエ桃仁花

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