月刊バスケットボール6月号

Bリーグ

2023.04.10

琉球ゴールデンキングスU18須藤春輝がB1デビュー - ユース&トップ一貫トレーニングの価値を体現した24秒

©B.LEAGUE

6,809人の大観衆が集まった沖縄アリーナが試合終了間際の熱狂に包まれる中、少年は颯爽と最高峰の舞台に現れ、疾風のようにコートを駆け抜け、そしてわずか23.7秒の間に多くの人々の心をつかんだ。


琉球ゴールデンキングスが京都ハンナリーズを93-80で破った4月9日の一戦は、試合結果とは別にもう一つの意義を包含していた。琉球のU18チームに所属する那覇高校3年生の須藤春輝が、トップチームの一員としてB1実戦デビューを飾ったのだ。

第4Q残り23.7秒に須藤がコートに入った際、大観衆の声援はひときわ大きくなったように感じられた。京都ボールのサイドライン・インバウンドプレーで試合が再開されると、須藤は相手の司令塔、久保田義章にマッチアップ。京都のオフェンスがミスショットで終わると、リバウンドをつかんだカール・タマヨからのパスが須藤に飛ぶ。

バックコートのフリースローライン付近でボールが須藤の手に渡った瞬間、大観衆の大歓声がさらに一段上の大音声へと膨らんだ。即座にドリブルでオフェンスに転じた須藤は、それに背中を押されるかのように一気にトップスピードに加速。あっという間にフロントコートに駆け上がる。


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懸命に追いかける青木龍史と並走しながら、須藤は右エルボー近くまで攻め込んだ。しかしそこでは、青木を助けに突っ走ってきた久保田も、須藤のフィニッシュを許すまいととびかかろうとしていた。それでも須藤はお構いなしに、二人のディフェンダーをユーロステップで揺さぶってアタック。逆サイドを駆け上がってきた渡邊飛勇の姿も、この時点ではすでに周辺視野に捉えていただろう。ゴールに向かう道筋は年上のディフェンダー二人が完璧に閉ざしていたが、須藤はその裏をかいて渡邉に柔らかくパスを落とし、キングスのこの夜最後の得点(渡邉のソフトダンク)をお膳立てしたのであった。


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113日にユース育成枠での選手登録が発表されて以来約3ヵ月。須藤はこの夜が登録中最後のB1公式戦の機会だったが、かけがえのない成功体験を持ってユースの世界に戻っていくこととなった。試合後は感激した様子で、コート上での挨拶でもメディア向けの会見でも、キングス関係者や家族、那覇高校の先生、友人など支援者への感謝を言葉にしていた。

高卒プロ契約を通過点に「夢は空高く、努力は足元に」

1月に加入して以来、毎試合自分が出るイメージをしていたんですが、イメージした景色と実際にコートに立った時の景色は全然違って、観客の歓声や自分がボールを持った時のいろんな盛り上がりが聞こえました」

会場の大歓声が自分に向けられていることを、須藤はしっかりと感じとっていた。それはどれほど心に残るインスピレーションだっただろう。ユースチームでメインコートを使ったことはある。しかしそのときとは環境がまったく違う。「今日あらためて6,000人越えのコートに立てたというのは、自分のキャリアの中で本当に価値のあることだと思いました」。須藤は試合後の会見でそう話して笑顔を見せた。ただし、素直に喜びを表しながらも、「一喜一憂せずひたむきに努力してプロでの本契約を勝ち取っていきたいと思います」と大人びた言葉で意欲を語っていた。



須藤春輝 2005年4月3日生まれ(沖縄県出身) 170cm/61kg PG

琉球の桶谷 大HCは須藤について、「本当に将来、何にでもなれると思っています。努力の方向を間違わなければどんな選手にもなれる。正しい努力をしてプロになってほしいです」と話していたが、ユース育成枠でトップチームのタレントと交流して刺激を受け、知識や経験を積むことはまさしく正しく努力することに当たるだろう。

須藤は昨夏にもトップチームのワークアウトに合流した時期があり、ユースレベルでの各種大会への出場のほかに、今年1月のオールスターでは、スキルズチャレンジにユースカテゴリーから唯一エントリーするという経験もしている(U18オールスターゲームにも出場)。

18歳という年齢は、世界的に見てトップリーグで活躍して当たり前とは言わないまでも、ポテンシャルの高さを感じさせる若者であれば最高レベルの競技経験をすでに始めている年齢だ。

例えば、今夏のFIBAワールドカップ2023でスロベニア代表として沖縄にやってくることが見込まれているダラス・マーベリックスのルカ・ドンチッチ(スロベニア代表)は、13歳のときにスペインの強豪クラブ、レアル・マドリッドのユースチームに加わり、16歳だった2015年にはすでにトップチームでプレーしていた。さらに19歳の2018年には、史上最年少でユーロリーグMVPに輝いている。もちろんドンチッチが特別なタレントだからそうなるのは間違いないが、門戸が開かれていなければ同じ成長曲線にはならなかっただろう。

「来シーズンに照準を合わせてユース育成特別枠をねらっています」と話す須藤は、明確な目標を持ちながら、琉球でドンチッチと同じようにユースとトップチームの一貫教育を受けることができている。

「通過点としては高卒でプロ契約できることを直近の目標に置いているので、夢は空高く、努力は足元に。バスケットに関してもやっていかないといけないし、周りの方々への言動や態度も謙虚に接して応援されるような選手になっていきたいです」

夢の大空はどこまでも続いていくが、そこに到達できるためにも今の一歩一歩を確実に積み重ねたい。次々と浴びせられる記者からの質問に、そんな地に足の着いた言葉をしっかりと選びながら丁寧に語る須藤の表情は、コート上の姿と同じほど印象的だった。


勝利の歓喜に沸く沖縄アリーナ。天井からつるされた大型モニターに「HARUKI SUDO」の文字も映し出されていた(写真/©B.LEAGUE)



柴田 健/月刊バスケットボールWEB

タグ: 琉球ゴールデンキングス

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