「ここまでいかないと思っていた」– 河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)の開花にトム・ホーバスHCも驚きの笑顔
©FIBA.WC2023
ホーバスHCを驚かせた河村のハイパフォーマンス
「ここまではいかないと思っていたんです。もう、すごいですね」——FIBAワールドカップ2023アジア地区予選Window6に向けた直前合宿に臨んでいる男子日本代表のトム・ホーバスHCは、2月17日に行われたオンライン会見で、河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)の爆発的な開花に対する驚きをこんな素直な言葉で表現した。
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わずか2日前に沖縄アリーナで行われた琉球ゴールデンキングス相手の天皇杯準決勝(91-96の黒星)は、やはり指揮官に強烈な印象を残している。3Pショット17本中9本成功を含む45得点に4リバウンド、7アシスト、2スティールのパフォーマンスは、8,503人の大観衆をたびたび沈黙させた。
しかもホーバスHCによれば、その翌日代表合宿に加わった河村は、オフにも関わらずシューティングなどではなく本格的な練習をしたがったという。「やっぱりまじめな選手。うまくなりたい気持ちがすごくあるし、目標も高い。いやぁ、すごい!」
会見でのトム・ホーバスHC(©JBA)
昨オフの代表活動で、河村がホーバスHCからもっとゴールに向かうように、得点を狙うようにとたびたび声を掛けられていたことは広く伝えられていた。それだけに、驚くだけではなく「代表レベルであのぐらいのプレーができるかどうか、それも楽しみ」と期待も大きい。
クラブとは異なるロスターやプレースタイルの中で、河村のオフェンスのバランスをどのように取るかは現在も思考を巡らせているという。ただ、以前は8割を占めたペイントアタックの比重を下げ、3Pショットとの比率をほぼ同程度に変える考えを話していた。いずれにしてもWindow6における男子日本代表最大の見どころの一つが河村のパフォーマンスであるのは間違いないところだ。
河村の昨シーズンから今シーズンへの飛躍は、数字で見るのが最もわかりやすい。
☆河村のシーズン成績比較(2021-22シーズン→2022-23シーズン)
得点 10.0→18.5
FG成功率 41.8%→43.5%
FGアテンプト 7.6→15.3
3P成功率 31.8%→34.7%
3Pアテンプト 2.8→7.1
FT成功率 73.6%→77.9%
FTアテンプト 3.8→3.5
アシスト 7.5→8.9
スティール 1.3→1.5
※FG=フィールドゴール、FT=フリースロー
ディフェンス面でのアグレッシブさ、ショットの精度を一歩向上させ、攻撃全般のアグレッシブさを倍増できていることがこれらの数字から見て取れる。ホーバスHCは、「彼もそこまではできないと思っていた」と話したが、昨シーズンの時点では確かに、ここまでの飛躍を本人も想像しなかったかもしれない。
天皇杯準決勝後の会見で、河村本人にその点を聞くと、「ここまでできると思ってやってきたというよりは、悔しかった経験や、やられた相手にやり返してやるという日々の気持ちが今の自分を作り上げています」という言葉が帰ってきた。「悔しさを生かすも殺すも自分しだい、チームしだいです。今日の負けも僕にとって大きな成長につながるものにしていきたいです。反骨心で毎日戦っています」
河村はこれまでに出会った指導者やチームメイトとの様々な経験が血となり肉となっていること、天皇杯では準決勝以前に戦ったクラブの名前を挙げ、対戦相手の思いも背負って戦ったことも明かした。非常に研ぎ澄まされており、ゴールを見ているというよりも一つ一つのポゼッションに全身全霊を傾けていることが伝わってくるようなやりとりだった。
河村はワールドカップアジア地区予選で5試合に出場して平均9.0得点、5.2アシスト、3.2スティールという数字を残している。この中でアシストはアジア地区予選全体の3位であり、スティールは堂々トップの好成績だ。イランに負けたほかは勝利しているが、今回高崎アリーナで対戦するのはそのイランと、自身の代表キャリアハイとなる20得点を記録したバーレーン。負けた悔しさと成長から得られた自信を形として表現するチャンスにも思える対戦だ。
果たして「河村劇場」が幕を開けるか? 天皇杯準決勝のパフォーマンスはそれを予感させるに十分だ。
取材・文/柴田 健(月刊バスケットボールWEB) (月刊バスケットボール)